お姉様とピクニック
王都の南西、馬車で三日ほど進んだ先に小さな山があった。麓にはいくつか村があり、村人達は農業に勤しんでいる。
暖かい日が差すとある日。
メロディとセレーナはその山を訪れていた。メイド魔法『天翼』でひとっ飛び、あっという間の到着である。
「この辺なんてどうかな?」
「はい。よろしいと思います」
二人が訪れたのは山頂一歩手前あたりの開けた場所であった。周囲には短い草が繁茂し、木々も少ないため見晴らしがいい。麓の村人もここまでは登ってこないのか、とても静かだった。
「ここならピクニック先に最適ね!」
メロディがセシリアに扮していた時、シエスティーナやセレディア達と行った馬の遠乗りが楽しかったようで、ルシアナは時折「またどこかに遊びに行きたいわねぇ」なんて呟くことがあった。
ルシアナに喜んでもらおうと、メロディはセレーナと一緒にピクニック先を探していたのだ。
「ふふふ、お嬢様、喜んでくれるかな」
「ええ、きっと。喜びすぎてお姉様に抱き着いて離さない姿が容易に想像できます」
「お嬢様のその癖だけはなかなか治らないのよね」
小さなため息をつきつつも、それほど困っているようには見えないメロディに、セレーナは可笑しそうにクスクスと笑った。そして、とある提案をしてみる。
「お姉様、まだ時間もありますし、予行練習をしてみてはいかがですか」
「予行練習?」
「敷物を敷くにしても、どこからが一番見晴らしがいいかなど色々試してみないと分からないことも多いかと思いまして」
「確かにそうね。うん、今日は日が暮れる前に帰れば大丈夫だし、やってみましょう!」
「はい、お姉様」
メロディと相談すると、セレーナは自身の魔法の収納庫から取り出した敷物を広げ、続いて今日の昼食用に用意したサンドイッチ入りバスケットと食器を並べ始めた。そろそろお昼の頃合いだ。その間にメロディはティーセットを用意し、二人は見晴らしのいい山の眺めを堪能しながら昼食をとるのだった。
「「いただきます」」
◆◆◆
「「ごちそうさまでした」」
食事を終えた二人。ピクニック先を選定し、簡単だが予行練習も終わったのでもう屋敷に戻ってもよかったが、二人はしばし山から見える景色を堪能する。
「ふわぁ……」
心地よい静寂の中、セレーナの隣でメロディが欠伸をした。お腹がいっぱいになったおかげで眠くなったのかもしれない。
(今日は、日暮れ前に帰れば十分間に合いますし……)
行きは『天翼』で空を飛んでの移動だったが、帰りは『通用口』による転移で一瞬だ。少しくらいゆっくりしてもバチは当たらないだろう。
「お姉様」
「え? 何、セレーナ?」
殊の外優しい声音で呼び掛けられ、メロディはキョトンとした顔で振り返った。敷物に腰を下ろすセレーナは、まるで誘うように自らの太ももをポンポンと叩く。
「少しお休みになってはいかがですか」
「えっと、それってつまり……」
セレーナは母性溢れる優しげな笑みを浮かべた。
そう、膝枕のお誘いである。
「さあ、どうぞ、お姉様」
「で、でも、お仕事が……」
「眠気を残したままお仕事をする方がよくありませんわ」
「そう、かな……?」
「ええ、そうですとも」
「…………じゃあ、ちょっとだけ、お願いしようかな」
満腹なところに暖かい陽射しを浴びたせいか、思いの外メロディは眠かったようだ。最終的にセレーナの誘いにのり、メロディは膝枕でお昼寝をすることになった。
セレーナの太ももに頭をのせた瞬間、メロディはすぐにトロンと瞼が落ち始める。なんだかすごく安心するような気がしたのだ。
(……やっぱり、似てるなぁ…………おかあさんのひざまくらなんて、なんねん、ぶ、り……)
メロディはすぐに寝息を立て始めた。セレーナは少し乱れたメロディの前髪を細い指でそっと整えると、愛おしそうにクスリと微笑む。
そして無言のまま、セレーナはメロディとのひとときを堪能するのだった。
「ああ、よく寝た……って、夕焼けええええっ!? セレーナ、起きてええええ!」
「すぅすぅ……」
うっかりセレーナも眠ってしまい、気付けば日暮れになってしまったのはご愛嬌である。
このシーン、漫画になったらなぁ……。
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