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【アニメ化決定】ヒロイン?聖女?いいえ、オールワークスメイドです(誇)!  作者: あてきち
第7章

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第22話 レギンバース親子(仮)に振り回されて

 学園舞踏祭が終わり、そろそろ一週間が経とうとしている十一月六日のこと。レクトは主であるレギンバース伯爵クラウドに呼び出され執務室を訪ねていた。この場にいるのはクラウドとレクト、執務を補助している執事の三人のみである。


「レクティアス・フロード、参りました。御用でしょうか、閣下」


「ああ、急に呼びつけてすまないな」


「いえ……」


「今日はこれを頼みたいのだ」


 そう言って、クラウドは執務机に分厚い封筒を置いた。


「これは?」


「セシリア嬢の手紙の返事だ」


「……これがですか?」


「そうだが?」


 それがどうした、とでも言いたげにクラウドは首を傾げた。


 チラリと執事へ視線を向けると、処置なしとでも言いたげに首を左右にふるばかり。執事の瞳が言外に「これでも減らしたのです」と告げている気がして、レクトは眉間にしわが寄らないよう堪えなければならなかった。


「承知しました。そちらをセシリア嬢へ届けよというご命令でしょうか」


「ああ。ルトルバーグ領へ届けるだけだからそなたでなくともよいのだが、手紙を送るなら見知った者が届けた方がセシリア嬢も安心するだろう」


 やはりそういう結論に至ったかとレクトはコクリと頷く。返事を送ってはと提案したのも自分なので書き上がったら自分に言付けてもらえるだろうとは思っていた。

 だからレクトはこのタイミングで一つの提案をするつもりでいた。


「閣下、ご命令は承知しました。しかし、今後の手紙のやり取りはルトルバーグ伯爵家に仲介していただいては如何でしょうか」


「ルトルバーグ家に? なぜだ?」


 やはりこの主はセシリアのこととなるとどうにも勘が鈍るらしい。

 不思議そうに首を傾げた。


 その姿が、メロディが時折見せる仕草と重なる部分があって、レクトはやはり苦笑を浮かべそうになるがどうにか堪える。そして、執事へ視線を向けた。目が合うと彼は了承したと言わんばかりに鷹揚に頷いて口を開く。


「旦那様」


「なんだ」


「セシリア嬢と旦那様が直接手紙のやり取りをなさるのは少々体裁が悪うございます。ルトルバーグ家に仲立ちをお願いされるのがよろしいかと存じます」


「体裁だと?」


「学園編入の際に後見したとはいえ、既に休学中の少女に旦那様が直接手紙を送られるのは過干渉と言わざるを得ません。まして療養先の領地の当主が王都にいるにもかかわらず、そのうえご自身の部下でもあるというのにルトルバーグ伯爵に話を通さずにセシリア嬢と手紙のやり取りをするというのは……事情を知らぬ者からすれば、ともすればセシリア嬢を旦那様の愛妾に望んでいるのではと勘ぐられる可能性があります」


「なんだとっ!」


 クラウドは顔を真っ赤にして執務机に両手を打ち付けた。

 勢いよく立ち上がり、執事を睨み付ける。


「そんなことするわけがないだろう!」


「我々は旦那様のお気持ちを存じておりますが、ほとんどの者は何も知りません。セレディア様というご息女を引き取られてお忘れかもしれませんが、法的には旦那様は未婚の男性なのですぞ」


「……」


「男盛りの旦那様が若い娘に入れ込んだと考える者が現れるのは不思議なことではありません。ですので、私どもはルトルバーグ伯爵家を通して手紙のやり取りをしてはと提案しているのです」


 しばらく無言となったクラウドは、執事とレクトを交互に見やり、やがて大きく息を吐いた。


「……どうやら、冷静さを欠いていたのは私の方だったようだ」


「ご理解いただき恐縮でございます」


 眉間を揉みほぐしながら椅子に座り直したクラウドに、執事は恭しく一礼した。それに倣ってレクトも一礼する。そしてレクトはクラウドへ告げた。


「ルトルバーグ伯爵様には既にご了承を得ております」


「……そうか。準備のよいことだな」


 クラウドは自嘲気味に微笑んだ。今の今までその話をしなかったのは、返事に悩む自分がかなり舞い上がっているように見えたのかもしれない。


 クラウドが手紙を受け取ったのは十月十一日のこと。

 今日は十一月六日。そろそろ一ヶ月近くが経とうとしていた。


 初めて会ったのが春の舞踏会で少し言葉を交わした程度の関係でしかない少女の手紙の返事に一ヶ月悩む姿は、さぞや気を揉んだだろうと冷静になったクラウドは思った。

 手紙のやり取りはメロディの正体バレにも繋がる重大事なので、その間にレクトはある程度の段取りを整えていたのである。


 クラウドの手紙はレクトがルトルバーグ家に届け、領地への輸送はルトルバーグ家に一任する。セシリアから返事が来た場合も一旦ルトルバーグ家に届き、連絡が来た時にレクトが受け取りにルトルバーグ家へ赴き、そしてクラウドの下に手紙が届くという流れになった。


 少々回りくどいが、体裁を無視して一番迷惑を被るのは平民の少女セシリアである。王都の上位貴族の当主に目を付けられている平民の少女など、結婚相手探しに支障が生じるかもしれないし、クラウドの政敵の標的にされる可能性だって十分考えられる。


 冷静になってみれば行って当然の配慮であったと、クラウドは今さらながらに反省した。


「ではそのように頼むぞ、レクト」


「畏まりました。お任せ下さい、閣下」


 手紙を受け取るとレクトはルトルバーグ伯爵家へ向かった。馬車に揺られる道中、レクトはホッと安堵の息を漏らす。


(話がまとまってくれて本当によかった……)


 前述の懸念点も大きな問題であったが、レクトが最も気にしなければならないことはメロディの正体が公になってしまうことである。自分以外の者がルトルバーグ領へ向かえばセシリアの不在がバレてしまう。だからといって、毎回自分が直接手紙を運ぶことになれば頻繁に王都を離れることになるため、いざという時にメロディを助けることができなくなり、これも困る。


(何より彼女が……)


 セレディア・レギンバース。出自を偽りレギンバース伯爵家に入り込んだ謎の少女。彼女の目的が不明であり、今のレクトの立場ではあまりにもできることが少ない。だからこそ、あまり頻繁にメロディから離れたくはなかった。


(俺にできることは少ない。それでも、やれることだけはきっちり熟していかないとな)


 レクトは心の中で自分を鼓舞し、ルトルバーグ伯爵家へ向かった。




◆◆◆




「わざわざありがとうございます、レクトさん」


 ルトルバーグ家に到着したレクトは、メロディにクラウドからの手紙を渡した。手紙にしては分厚い封筒に最初驚きはしたものの、メロディは嬉しそうに笑顔を浮かべる。


(それだけセシリアのことを心配してくれてるってことよね。セシリアは架空の人間だけど、こうやって心配してくれる人がいるのは嬉しいな)


 メロディはクラウドと一緒の馬車で王立学園へ向かった時のことを思い出していた。車内を包む心地よい静寂に、前世の父親との思い出が蘇ったことを覚えている。メロディは口元を綻ばせた。


「手紙の移動時間を考慮する必要はあるが、また間を置いて返事を書いてもらえると助かる。セシリアからの手紙を閣下は楽しみにしているようだから」


「分かりました。その時はよろしくお願いします」


 セシリアという人間は架空の人物であり、本来は存在しない。そのことに少しだけ罪悪感を覚えつつもメロディは朗らかにそう答えた。


 復学は難しいが、いつかまた体調が回復したとでも言ってリギンバース伯爵に会えたらいいなと、メロディは思った。






「一体どんなことが書いてあるのかな」


 レクトが去り、夜となった。仕事も終わり、プライベートな時間だ。寝間着に着替えたメロディはクラウドの手紙の封を切る。レクトから預かったものの、仕事があったのでこの時間まで読むことができなかったのだ。


 手紙を開くと実直な文字が並んでいた。仕事で読みやすい書体とでも言えばよいか、一見すると仕事の報告書に見えかねない雰囲気がある。まだ内容を読んでもいないのに文体から彼が仕事人間であることを伝えてきているようで、思わずクスリと笑ってしまった。


 さて、それでは内容は――と、手紙を読み進めようとした時、メロディは室内に魔法の気配を感じた。背後を振り返ると、部屋の真ん中に簡素な扉がポツンと立っている光景を目にする。


「これって、『通用口オヴンクエポータ』? ということは……」


 メイド魔法『通用口』。魔法の扉を介して遠い場所同士を繋げるメロディの転移魔法だ。彼女以外でこの魔法が使えるのは、能力の一部を継承した魔法人形メイド・セレーナだけである。

 案の定、扉の向こう側からノックをすると、思った通りの人物の声が届いた。


「お姉様、セレーナです。少しよろしいでしょうか」


「うん、大丈夫だよ。入ってきて」


「失礼します。夜分に申し訳ございません、お姉様。ちょっと問題が――」


「うえーん! 助けてメロディ!」


「きゃあっ!? お、お嬢様!?」


 扉からそっと入室したセレーナの後ろから、ルシアナが飛び出してきた。咄嗟のことに反応できず、勢いのまま抱き着いてきたルシアナの体重を支えられず、メロディは背中からベッドに倒れてしまう。


「お嬢様、就寝前のメイドにいきなり抱き着いてはいけません! ……というか、本当に何があったんですか?」


「うう、どうしよう、メロディ」


「お嬢様……? ちゃんと教えていただかないと分かりませんよ」


「う、うん。ごめんなさい。実は……」


 学園舞踏祭の夜の部で開催された舞踏会にて、ルシアナはセレディアに声を掛けられた。それは昼の部の時間に立ちくらみを起こした自分を助けてくれたシュウへお礼を言いたいという内容であった。


 つまりは、シュウに会わせてほしいという要望である。


 上位貴族の令嬢が一使用人にお礼を言うためにわざわざ赴くことは、この国の貴族の一般常識としては少々過剰な対応と言ってよいだろう。それはルシアナも分かっていたので、その旨を本人に伝えておきますと答えたのだが、どうしても会ってお礼が言いたいのだそうだ。


 セレディアの圧に負けた結果、ルシアナはシュウを参加させたお茶会を開くことを約束してしまった。


 そして――。


「……今日に至るまでその件をうっかりすっかり完全にお忘れになっていたのですね」


 舞踏会から帰ってきたルシアナの話題にその件は一度も上がっていないはずなので、メロディの想像通りで間違いないだろう。ルシアナはそっと視線を逸らした。


「いや、ほら、学園舞踏祭はあの後も色々あったから……花火とか、ガルムとか……ね?」


「ガルムのせいにするのはちょっと可哀想です、お嬢様」


「うう、そうね、ごめんなさい」


「それで、セレディア様からお茶会の催促でもあったんですか?」


 ルシアナは躊躇いがちにコクリと頷いた。


「セレディア様、私から招待状が届くのをずっと待ってたみたいで、なんかすっごい綺麗な笑顔で『お茶会はいつ頃なさいますか?』って聞かれちゃった」


「その様子だと、まだかまだかとお待ちだったんでしょうね」


「うん、そうみたい……で、お茶会を開くことになったの」


「分かりました。開催はいつになさいますか? 旦那様や奥様ともよく相談しないといけませんし、シュウさんも参加となると準備を急がなくては……お嬢様?」


 ルシアナは盛大にメロディから視線を逸らした。

 何だろう、凄く嫌な予感がする……。


「――ってなの」


「え? 今なんと」


「……あ、明後日なの。お茶会の開催日」


「……え? あさって?」


 ルシアナの言葉を理解するのに少し時間が掛かったメロディ。明後日は王立学園の休日なので屋敷でお茶会をすることは問題ない。


 しかし、明後日?


 困惑しつつもセレーナを見ると、困ったように眉尻を下げて微笑みながらコクリと頷く。


「ど、どうして」


「……圧に、負けちゃって」


 ルシアナはタラリと頬に汗を流しながら、気持ちを誤魔化すように「テヘヘッ」と笑った。


「明後日にお茶会……」


 事実上、準備期間は明日の一日のみ。普通に考えてたった一日でお茶会の準備を済ませることは不可能である。会場の準備だけでなく、招待客を受け入れる段取りであったり、おもてなしの手順であったり、学園舞踏祭のメイドカフェの準備に一ヶ月近く掛かっていたことからも理解できることだろう。


 実際、メロディが初めて手掛けたルシアナと幼馴染の親友達とのお茶会にも一週間は準備期間を設けている。他家の貴族令嬢を招待する以上、失敗は許されないからだ。

 だというのに、身分的には同格とはいえレギンバース伯爵の娘であるセレディアを招くお茶会の準備をたった一日でやらなければならないとは……。


「……腕がなりますね」


「メロディ?」


 涙目になっていたルシアナの目元をそっと拭うと、メロディはルシアナを放してベッドから立ち上がった。寝間着姿のまま主である少女へ向けてカーテシーをしてみせる。


「ご用命承りました。オールワークスメイドのメロディに万事お任せ下さい」


 戸惑いなど一切ない自信に満ちあふれた笑顔がルシアナに向けられる。


「ううう、ありがとう、メロディ!」


 再びメロディに抱き着くべく飛び出したルシアナ。しかし、メロディはそれをひらりと躱し、転びそうになったルシアナはセレーナによって体を支えられた。


「セレーナ、昼間はこっちに来て準備を手伝ってもらえる?」


「もちろんです。ですが、転移で来ると色々差し障りますね。名目はどうしましょう?」


「そこは素直にお茶会の準備ってことで、リュークに送迎してもらいましょう。夕方になったらマイカちゃんとリュークでお嬢様を迎えに行ってもらうから、セレーナは準備に専念して」


「承知しました。お姉様と一緒にお茶会の準備だなんて、少し楽しみですね」


「ふふふ、私もよ。明日は頑張りましょうね」


「はい」


 メロディとセレーナは微笑み合った。


「よかったぁ、やっぱりメロディに任せておけば安心ね!」


 ルシアナは心底ホッとした顔で胸を撫で下ろした。まるで問題は既に解決したようなルシアナの表情にさすがのメロディも苦言を呈する。


「お嬢様! もう片付いたみたいな顔をされては困ります。明日は帰宅したらすぐにお茶会の作法の確認をみっちりやりますからね!」


「えええええええっ!?」


「明日いきなりお茶会の参加を決定事項として伝えられるシュウさんも大変でしょうね。お二人でどんなふうにセレディア様をお迎えするのかよくよくご相談していただきませんと」


「えええええええっ!?」


 どうにかなると高をくくって無理を言えば、結局そのしわ寄せは自分に返ってくるのだ。言外に「反省してください!」と告げるメロディとセレーナに言い返せないルシアナであった。


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