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逆転不可思議世界  作者: さいとうももこ
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姫ねぇふたたび

 この世界では男がスカートをはいてもおかしいとは思われない。前の世界でいえば女装した男だ。違和感しか感じられないが、こちらではファッションとして扱われる。ボーイッシュと同じ扱いなのかもしれない。



 勿論俺はそんなもの穿くつもりはなく、縁のない話だと思っていたのだが……



「ふふっ。けーちゃん覚悟してね」

「おい待てやめろ、どういうことだ」



 姫ねえがひらひらのスカートを持ってにじり寄ってくる。じわじわと下がろうとするも、壁に追い詰められている。

 なぜこんなことになったのだろうか。



 祖母の家の地区で祭りがあった。地元民になじみ深い祭りであり、外に出た若者も有休を取り帰省するのが常識になるほど、地元の誇りとして愛されている。そんな俺も三日間続く祭りに参加するのは当たり前であり帰省していた。

 皆が集まれば行われるのは宴会である。

 三日の祭り終わりは宴会であり、近所のスーパーは宴会用に品揃えを変えるぐらいには恒例となっている。



 飲んだ。騒いだ。もう親族のどんちゃん騒ぎである。

 そこそこに抜け出したが、智樹の部屋にいけばそこで遊んでいる子供たちのグループに押し潰されてしまう。俺の身体が大きいからって寝ていれば飛び乗ってくるのだ。可愛さはあるが、ただでさえ祭りで疲れている身体は休養を求めているのだ。今は勘弁してほしかった。



 姫ねぇは大部屋の宴会で飲まされている。前よりも酔っていないようだったし、声掛けして空いている姫ねぇの部屋にお邪魔することにした。

 早朝から支度して一日出ずっぱりで神輿担いだんだ。いい感じにお腹も満たされたし眠気が半端ない。

 気持ちよさそうなベッドに沈んでしまったのを誰に責められようか。柔らかいスプリングに身を任せて暫くして、部屋の扉が開いて姫ねぇの顔が見えた。



「けーちゃーん。なにしてるのー」

「寝てる」

「寝るなら服着替えないとだめなんだよー」



 にこにことした笑みを浮かべながら、姫ねぇはタンスを漁り出した。そしてひらひらのスカートを取り出したのである。



 じりじりと距離が詰まる。顔は血色よく火照って酔っていることを疑わせて、理性のブレーキがどこかへ吹っ飛んでいるんだろう。

 眠気なんて一瞬で吹き飛んだ。姫ねぇの白い手がズボンのベルトを外そうとしているのである。抵抗はしているんだが、力を入れすぎると姫ねぇを怪我させてしまいそうで防ぐのが精一杯だ。

 やけに力が強い。体制が不利なこともあって体重をかけてきた姫ねぇに押し倒されてしまった。



 広がる姫ねぇの顔。お酒の匂いしかしねぇ。

 これまで清楚で優しい姉だったんだが、最近は酔った姿しか見てないな、悲しい。



「けーちゃんにはねぇ。こういうのが似合うと思うの」

「似合うわけないから! そもそも体型から違うから! 入らないから!」



 必死に抵抗した。したのだが負けてしまった。姫ねぇがふにふにで柔らかいのが悪い。



 数分後。下着状態まで接がれた俺は、薄手のシャツにふりふりのスカートを着せられていた。

 わかるだろうかこの屈辱が。可愛い可愛いと叫びながら写メを取ろうとした姫ねぇからスマホを取り上げ、ベッド下へ放り込んだ俺は脱力してその場にうずくまっていた。



 スカート云うものがここまで頼りにならないものだとは思わなかった。スースーするし隠れてるかどうかもわからない。

 サイズがあっていないのもあるのだろうが、見えてても不思議じゃないほどミニになっている。



「なぁ、なんで俺にこんな格好させるんだ」

「だってけーちゃんゼッタイ女装似合うもん! 実際似合ってるし」

「似合ってない」



 姫ねぇは大喜びだが、俺はため息しか出ない。

 いや、ほんと有り得ないだろこれ。



「いやさ、これ見てよこれ」



 俺にスカートを穿かせてご満悦の姫ねぇが一冊の雑誌を広げる。男の娘、女装バーが紹介されている記事だった。



 載せられている写真の男の娘は可愛い。ほんとの女性と見間違えてしまうぐらいだ。綺麗にメイクされてドレスで着飾っている。記事を読んでみれば脱毛やブラや真剣に女装に取り組んでいる男性について語られていた。



「女装男子って普通だよ! むしろ萌えだよ萌え」



 筋骨隆々の男でもなければ女装はできるのだと記事は語る。そうやって真剣に女装する人を否定したりはしないけれども。



「いや、だからって俺が女装することないだろう」



 俺は小柄でもないしそういう趣味もない。女形など男が美女を演じたりするのは知っているが、だからといって俺がやりたいと思うわけじゃない。



「可愛いは正義だよ。わたしは可愛くなったけーちゃんがみたかったんだよ!」



 熱弁を振るう姫ねぇは止まりそうもない。女装はあくまでひとりのキャラクターで、現実の自分とは別のキャラクターになれるんだそうだ。だからけーちゃんもやろうってやらないよ。



「よしわかった。野球拳で俺に勝ったら女装でもなんでもしてやる」

「マジで!? よし乗った勝つから絶対負けないから!!」



 ハイテンションでノリノリの姫ねぇをみて、俺は自分のミスを悟った。

 この世界だと女性は野球拳を嫌がるどころか喜ぶんだっけ……無茶ぶりすれば向こうから諦めてくれるかと思ったのに。



「よしいくよジャンケン!!」



 自分から言い出したことだから今から取りやめずらい。まぁもし負けたとしてもこのスカートを脱ぐ口実になるのだからいいだろう。

 内心ため息をつきながら、俺は姫ねぇと野球拳に講じた。

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