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その八 俺TUEEEEEって、ホント?

 ……随分間が空いてしまいました。このままだと「この連載小説は未完結のまま約2ヶ月以上の間、更新されていません。」というメッセージが表示されてしまう。

 という訳で、慌てて更新することにします。


 今回のテーマは、「俺TUEEEEE」。


 下馬評では圧倒的に不利な相手に対し、ワンパン撃破。爽快です。

 けど、これってだからこそ、とても難しいモチーフなんです。


 考えてみてください。

 「HP1000のキャラが、HP10のキャラを瞬殺する」

 「Lv.100のキャラが、Lv.1のキャラを瞬殺する」


 ……どこに爽快感がありますか?

 もっと言えば。

 「高校生が小学生相手に算数の問題で無双し、小学生相手にドヤ顔する」


 こんな物語、誰が読みたいと思うでしょうか?


 「俺TUEEEEE」を描く作者は、小学生相手に無双する高校生を描きたいのでしょうか? (いいえ)、違うでしょう。


 『下馬評では圧倒的に不利』。実はこれが、「俺TUEEEEE」に於ける重要なキーワードなのです。

 人は皆、第一印象で相手を評価しがちです。


 だから、どう見ても素人。鍛えているようには見えない。経験豊富とは思えない。

 だから舐める。愚弄する。


 そして、そのように侮られたキャラが、実は極強(ごくつよ)で、強敵相手に無双したら、それはやっぱり爽快感があるでしょう。


 でも、何故そうまで爽快感を求めるのでしょう?


 先程の、「Lv.100のキャラが、Lv.1のキャラを瞬殺する」というパターンを使って考えてみましょう。


《例1》

 ある日突然、イケメン・頭脳明晰・スポーツ万能のクラスのヒーロー(陰ではイジメの主犯)と、根暗オタクでイジメられっ子の俺を含む、クラス全員が異世界に転移した。

 クラスのヒーローはしょぼい転生チートしかもらえず、それもLv.1からのスタートだったけど、俺は無敵のチートをたくさん貰え、しかもLv.100になっていた。

 だから俺は、これで「俺TUEEEEE」し、クラスのヒーローを見返してやる!

《例1ここまで》


《例2》

 ある日突然、イケメン・頭脳明晰・スポーツ万能のクラスのヒーロー(陰ではイジメの主犯)と、根暗オタクでイジメられっ子の俺を含む、クラス全員が異世界に転移した。

 クラスのヒーローは、ヒーローに相応しくたくさんの転生チートを貰え、Lv.1でも充分無双出来るスキルを持っていた。一方の俺はしょぼいスキルしか貰えずステータスも凡人並みだった。

 だから俺はクラスの仲間たちのもとを逃げ出し、一人で冒険者ギルドに加入し、紆余曲折有ったけど死ぬ気で冒険した果てに、Lv.100まで上り詰めてからクラスの連中と再会した。

 一方でクラスのヒーローは、現状で無双出来るから碌に努力もせず、だから俺と再会した時はまだLv.1のままだった。

 クラスのヒーローは、昔の感覚で俺をイジメようとしたけれど、今の実力は俺の方が遥かに上。結果彼に対し「俺TUEEEEE」してしまった。

《例2ここまで》


 さぁこの二例。《例1》の作品を読みたいと思う人は、まずいないでしょう。棚ぼたのチートで「俺TUEEEEE」して、「だから何だ?」と多くの読者は思う筈です。

 では《例2》は?

 実際、この「俺」の立場になると、Lv.100になった後でLv.1のままの「クラスのヒーロー」と再会したとしたら、まず間違いなく「クラスのヒーロー」のことなど眼中にないでしょう。当然ながら、Lv.100に至るまでには幾多の苦難があったでしょうし、多くの出会いがあったでしょう。そういった経験を踏まえると、クラスでお山の大将して満足している(だから努力もせずにLv.1で留まっている)「クラスのヒーロー」など、相手にする価値もない、ということになるんです。


 もっとも、《例2》は普通、「俺TUEEEEE」のタグを付けたりしないでしょう。

 平均的な「成長物」或いは「サクセスストーリー」でしょうから。

 たくさんのなろう作品を読んでいるであろう、読者諸氏。ちょっと思い浮かべてください。自分が面白いと思った「俺TUEEEEE」作品を。

 実は、「俺TUEEEEE」のタグを付けているだけで、物語の焦点は、「俺TUEEEEE」とは別のところにあったりしませんか?


 そう。「俺TUEEEEE」を中心に置いて、面白い作品を描くことは、とても難しいんです。


 では、何故「俺TUEEEEE」の作者は、「俺TUEEEEE」を描きたいのでしょうか?


 一番多い理由は、儘ならない現実に対するアンチでしょう。

 現実には、「才能」というチートスキルで「俺TUEEEEE」している人は、自分の周りに必ず一人はいると思います。自分がどんなに努力をしても届かないモノを、「才能」というチートで天から与えられ、自分のような雑魚を歯牙にもかけない、そんな「ヒーロー」。


 だから。せめて異世界に転移出来れば。俺のような凡人でもワンチャンあるかも。


 そういった気持ちが、「俺TUEEEEE」というモチーフの根源ではないでしょうか?


 でも。

 今私はここで、「自分の周りに必ず一人はいる」と述べました。

 例えば、かけっこ。けれど、自分に対して「俺TUEEEEE」しているヒーローは、オリンピックの金メダリストなどではなく、クラスで一番程度の相手でしかないんです。

 実は、その程度の相手に対し、コンプレックスを持っているだけなんです。


 もし、本気でオリンピックの金メダリストに対して劣等感を抱いている人がいたとしたら。それは心の底から素晴らしいことだと思います。けどその場合、「異世界に転移すればワンチャンあるかも」なんてことは、決して思わないでしょう。何故なら正当な心根から生じる劣等感、それを持つ人にとっては、異世界転移によって得られるかもしれないチートより、それにより失うこれまでの蓄積の方をこそ大切に感じるでしょうから。


 「俺TUEEEEE」する方法。実は二つ、あるんです。

 一つは、自分より弱い人を相手にする。

 異世界に転移するまでもありません。今すぐ幼稚園にでも行って来れば良いでしょう。誰であれ、文字通り「赤子の手を捻るが如く」、無双出来ます。

 もう一つは、夢が現実になるまで死ぬ気で努力すれば良い。けどこれが出来るなら、誰も「俺TUEEEEE」に憧れたりしません。


 拙作『転生者は魔法学者!?』も、筆者としては「俺TUEEEEE」に含まれると思っています。けど、「自分より弱い相手と戦って勝てるのは、当たり前のこと。なら何故戦うか。どう戦うか。そしてその勝利にどのような意味を与えるか」を一つのテーマにしています。


 「俺TUEEEEE」なら、戦って勝つことが当たり前なら、戦いそのものには価値がないでしょう?

 それが、筆者の「俺TUEEEEE」観です。

(2,752文字:2016/09/03初稿)

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