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第九十一話 国士無双再充填

「《クリーン》《結界》」


 空中に上がると、浄化魔法で服を乾かしつつ、海面スレスレに《結界》を張った。

 フグの魔物はその結界にぶつかり、動きが止まる。


「《結界》」


 更に、ホバリング中の浮遊移動魔道具と同じ高さにもう一枚結界を張り、足場を作った。

 そこに降り立つと、一旦キングリヴァイアサンの魔石を置く。


「ありましたよ!」


 浮遊移動魔道具のドアを開けつつ、俺はそう報告した。


「外のアレです!」


「な……ななな何なのよあの規格外のサイズは……」

「私の身長より大きいです……」


 結界の上に置かれた魔石を見て、二人は青ざめてしまった。


「てか、なんで魔石がむき出しなのよ……」


「それ以外の部分は蒸発してしまったからかと」


「こんなデカすぎる魔石を持つ生物が……魔石以外蒸発って……」


 質問に答えると、ナーシャは息を呑む。


 見せるだけ見せたし、もうしまっていいな。


「《ストレージ》」


 じゃ、あとはフグの方の対処だ。


 海面に張った《結界》の方を見てみると、結構な数のヒビが入っていた。

 流石にあのフグ相手じゃ、今の《結界》1枚でずっと無傷とはいかないか。


 と思っている間にも……フグの魔物は再度、《結界》に突進してきた。

 これで次こそ壊れるな。


 それじゃ、試運転も兼ねて、あの魔道具で弱体化でもさせてみるとするか。

 俺は《ストレージ》から「属性変化領域」を取り出した。

 そして《結界》をぶち破って海面に顔を覗かせたフグに対し、属性を変化させてみる。


「《鑑定》」


 調べてみると、ちゃんと聖属性となっていた。

 これでOK。

 属性変化前で《結界》が何発か持ったなら、これで数十発は耐えてくれるだろう。


 けど、念のためあっちもやっておくか。


「《フォースリダクション》」


 一応、俺はフグの攻撃力も下げておくことにした。


「《結界》」


 あとは、浮遊移動魔道具と海面の中間地点あたりに《結界》を張っておく。

 これであのフグの魔物は、俺が浮遊移動魔道具に乗っておけば、浮遊移動魔道具めがけて突進しまくり、《結界》にぶつかり続けてくれるだろう。


 準備が整ったところで、再度俺は浮遊移動魔道具に乗り込んだ。

 あとは無双結晶が再充填するまで待つだけだ。



 何回がフグの魔物がぶつかってきた頃のこと。


「これ……今何をやってるんですか? なんか変な魚がずっとこっちを狙ってますけど……」


 ひたすらフグの攻撃を結界で受ける俺を不思議に思ったのか、ジーナがそう尋ねてきた。


「無双ゲージの再充填です。《国士無双》――金色のオーラが出て無敵になるって前説明した技あるじゃないですか。あれ、敵との攻防の中で『ゲージ』がたまって、満タンになったら使えるものなんです。さっき使ったので、今充填してるところです」


「なるほど……そういうことなんですね」


 よほど珍しい光景だからか、ジーナはすっかり繰り返し突撃してくるフグに見入っている。

 かと思うと、今度はナーシャから質問が飛んできた。


「シャイニング・グリムリーパー相手にやってたのと同じこと、って解釈でいいのよね。ところで、あの魚は一体何なの?」


「あれは『テトロード』という、フグとハリセンボンのキメラが巨大化した魔物です。体中の針が毒針になっていて、刺されると神経が麻痺して死にます。体当たり自体も結構パワフルなので要注意です」


 俺はNSOの資料集に書いてあったことをまんま喋った。


「へえ……」


「ちなみにフグとハリセンボンの雑種と言いましたが、身の味はほぼフグです。美味しいですよ」


「そ、そう……。あれ、食べようと思う人がいるのね……」


 ……その辺は間違いなく、NSOの制作者が日本人だから付けた設定だな。

 俺の知る限り、前世でもフグを食べる文化のある国は、日本以外にほぼないはずだし。

 この世界の人からすれば、辺に思うのも無理はないだろう。


 ――と、思いきや。


「あの……刺された場合って、何か対処法とかってあるんですか? 私の故郷では、『フグに当たったらトリカブトを舐めろ』って言い伝えがあるんですが、同じ毒なのでしょうか……」


 あった。この世界にも、フグを食べる文化が。

 しかもジーナの故郷がそうなのか。


 毒の対処法の伝承まであるあたり、相当ガチだな。


「と、トリカブト!? 何よそのぶっ飛んだ伝承……」


 ナーシャは驚いているが……実はその伝承、それぞれの毒の作用機序を考えれば、あながち間違っているとも言い切れない。


「確かに、テトロードが持つ毒は通常のフグと同じ『テトロドトキシン』という毒です。その意味では、神経への作用が真逆の神経毒である『アコニチン』――トリカブトの毒を摂取すれば、症状を緩和することは可能です」


 そう。これは前世でもそこそこ有名な、「毒をもって毒を制す」の典型的な事例だ。

 もっとも、間違っても推奨されるような対処法ではないのだが。


「ただ……実際にはまず不可能だと思った方がいいです。天然のトリカブトからアコニチンを摂取するようなやり方では、適切な量を摂取するなんて無理難題ですから。刺されないのが一番ですね」


 そう言って俺は、この話を締めくくった。


「ああ……私の故郷、毎年フグに当たる人が何人かいたのですが、言い伝え通りトリカブトを舐めて助かる人と助からない人がいたんですよね。その理由が分かりました!」


 俺の話を聞いて、ジーナはそう言って手をぽんと叩いた。

 なんというか……ずいぶんとロックな故郷だな。


「その点、テトロードはいいですよ。魔物だからか知りませんけど、普通のフグと違って、死んだ瞬間から毒がなくなるんです」


 なんか壮絶な話を聞いてしまったので、対抗して俺はこの魔物のいいところを紹介することにした。

 これもまたNSO公式ガイドブックに書いてあった情報だ。


「いいですよ、って……。ジェイド君からしたらお手頃なのだろうけれど、あの魔物、お強いんでしょう? そんなおいそれと食糧として狩れるものじゃないんじゃ……」


「うーん、強さですか……。参考までに言うと、ナーシャさんなら油断さえしなければまず負けませんね」


「私で『油断さえしなければ』なのね……。相当なフグ好きじゃないと割に合わなさそうね……」


 さて、と。こんな無駄話をしている間にも、無双ゲージが溜まりきったようだ。

 じゃ、次の戦い、始めるとするか。

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