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第六十五話 いざ基地へ突入

 約一時間後。

 俺たちは、基地の目の前までやってきた。


 道中では、2体ほどのシャイニング・グリムリーパーに遭遇したが……その際には俺が耐放射線結界を張り、素通りしてきた。

 倒さなかったのは、こいつらが無双ゲージの再充填に使えると思ったからだ。


 基地の中にはどれくらいの強さの敵が何人いるか分からないからな。

 もしかしたら、無双ゲージ枯渇につき途中で一時撤退しなければならない場面が出てくるかもしれない。

 そうなると、何かしらの魔物を倒して無双ゲージを再充填しなければならなくなるわけだが……シャイニング・グリムリーパーが相手なら、ただ耐放射線結界を展開し攻撃を受け続けるだけで、無双ゲージはどんどん溜まっていく。

 手っ取り早い無双ゲージの補充手段として、あえて残すことにしたというわけである。


 メギルたちには「理由があって倒したくない」というと、何も聞かず納得してくれた。


 それからしばらく歩くと、突如目の前に不自然な地下への階段がポツンと表れた。

 階段を降りた先にあるのは、一見行き止まりにしか見えない空間。

「ここに基地がある」という事前情報がなければ、これが入り口だなどと思う人は誰一人いないだろう。


「ここに隠し扉があるのだが……っ! 全然開かないな……」


 そんなことを口にしつつ、メギルは周囲の土とほんの僅かに色の違う二つの隣合わさった長方形のうち、片方を引こうとする。

 が、その長方形──隠し扉は、メギルが全力で引っ張ってもビクともしなかった。


 それもそのはず。

 なんせここの隠し扉……扉自体の素材がオリハルコン合金な上に、超強力な油圧制御魔道具で両側から押さえられているのだからな。


 地下基地は門を飛び越えての侵入ができないので、門を死ぬほど頑丈にすれば侵入がほぼ不可能になる。

 そんな事情から、地下基地の入り口にはこういう脳筋防衛システムが実装されてしまうというわけだ。


 当然、人力で開けて入るなど不可能。

「国士無双」でも使えば話は別だが、流石に戦闘でもない場面でそれを発動するのはもったいないので、どうにかして「こじ開ける」以外の方法を取らなければならないのである。


 そしてその方法だが……実は一つだけ存在する。

 ここの扉を力技で開けれないのは「永久不滅の高収入」の構成員も同じことだからな。

 彼らが使う正規の手段を使えば、この扉を開けることができるわけだ。


 問題はどうやってそれを使うかだが……。


「……何をやっているんだ?」


 俺が扉の周囲を注意深く観察していると、メギルが不思議そうに質問してきた。


「インターホンを探しているんですよ。開けてもらわないと入れないじゃないですか」


 彼の問いに、俺はそう答える。

 そう。ここの扉の付近にインターホンがあるはずなので、それを探しているのだ。



「永久不滅の高収入」の構成員たちは、地下施設に入る際、インターホンで中の人と連絡を取り、油圧制御魔道具を一時停止してもらう。

 それにより、彼らは扉の開け閉めをできるようになるわけだ。

 そして俺たちも、基地の中に入るためには、彼ら同様中の人に油圧制御魔道具の一時停止を要求しなければならないわけだ。

 そのインターホンだが……侵入者にとって分かりづらくする目的から、扉同様壁に擬態させて設置してある。

 なのでパッと見つけることができず、注意深く壁を観察していってるのである。


「インターホンって……中の奴らが協力してくれるわけないだろう。見つけたところでどうするつもりなんだ?」


 そうこうしていると、メギルは続けてそんな質問をしてきた。


「それはですね……」


 と、答えようとしたそのとき……ついに俺は、壁の一部の微妙な色合いの違いからインターホンの位置を見つけることができた。


「こうするんですよ」


 インターホンが見つかった以上はもう、口で説明するより実際にやってみせるほうが早い。

 などと考えつつ俺が取り出したのは……件の蓄音用魔道具だ。


 魔道具を地面に置くと、俺は一つスキルを取得することにした。


「スキルコード1460 『変声』取得」


 自分の声を変えるスキルだ。

 このスキルの使用手順は、2ステップに分けられる。

 どんな声に変換するかの基準を作る「サンプル採取」と、採取したサンプルの音色に自分の声を変換する「声質変換」だ。


「サンプル採取」


 そう唱えてから、俺は畜音魔道具の録音データの一部を再生した。


『まさにソイツだよ。そしてその噂は本物だ。忌々しいことに、ここら一帯に敷いた地雷さえも除去したらしいってな……』


 再生したのは、昨日捕らえた永久不滅の高収入の構成員の声。

「声質変換」が完全に機能するには5秒分以上のサンプルが必要なので、割と長めの発現を採取することにした。


「な、何をやっているんだ?」


「実際見れば一発で分かりますよ。あ……今から俺が合図するまでは、一言も発さないでくださいね」


 困惑する目ギルにそう返しつつ、俺は畜音用魔道具を再度「ストレージ」にしまった。


「声質変換」


 そしてスキルの2ステップ目を発動すると、俺はインターホンを鳴らした。


「『トライコア』の原材料の確保に成功した。扉を開けよ」


『こちら扉開閉担当。了解した』


 インターホンから返事が帰ってきたかと思うと……数秒後、ドアの周囲からグォングォンと轟音が鳴った。

 油圧制御魔道具が停止する音だ。

 音が鳴りやめば、あとは普通に扉を引くだけで開けられるようになる。

 これで侵入準備完了というわけだ。


 確かに、仮に単純にインターホンを押して「開けてください」と言ったところで、中の人が部外者の要求に応じることはないだろう。

 開けてくれないならまだいいが、彼らのことを思えば「敢えて即死級の罠を入り口付近に大量に設置してから開ける」くらいのことをやってきてもおかしくはない。

 だが……幸か不幸か、昨日俺たちは、「永久不滅の高収入」の声のサンプルデータを採取することに成功した。

 となれば、あとはそれを利用して声を擬態し、構成員に成りすますまでというわけだ。


 ここのインターホンは、ボタンを押している間だけ通話が繋がるようになっている。

 ボタンから手を話すと、俺は幻諜の三人に合図をした。


「マジかよ……」

「そんな手があっンスのね……」

「声を擬態する魔法なんて聞いたことないんだけど……あなた本当に一体何者なの?」


 喋って良くなると、三人とも目を白黒させながらそれぞれ呟く。

 そんな中、俺は学校の校門程度の力で開くようになった扉を開け、基地の中に入った。


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[一言] 困惑する目ギルにそう返しつつ、俺は畜音用魔道具を再度「ストレージ」にしまった。目ギル?
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