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第三十話 いざ拠点へ

 次の日。

 ジーナに作っておいてもらったエリアナイザーとエリアメナスを収納すると、俺はギルド所有の訓練場に向かった。


 訓練場に着くと……そこには、すでに十人ちょいの人が集まっていた。


「おう、ジェイド。よく来てくれた。かねがね噂は聞いておったぞ」


 うち一人、唯一ギルドの制服を着た男が俺に気づくと、そう声をかけてくる。


「1……2……3……これで全員揃ったな」


 噂……うん、触れないでおこう。

 などと思っているうちにも、彼はそう言って、人数の確認を終えた。



 そして……まずは、自己紹介が始まった。


「じゃあ、まずは俺からいこうか。俺はゼイン、ここのギルドで主に昇格試験周りの仕事をしている者だ。今では一介のギルド職員だが……現役冒険者の頃の最高ランクはSだ。よろしく」


 最初に自己紹介をしたのは、俺に声をかけた、この場で唯一ギルドの制服を着た男。

 ただの出発までの取りまとめ役かと思いきや……自分の自己紹介をした事から察するに、どうやら討伐隊に同行するようだ。


 他に集まった冒険者達は、ゼインと名乗ったこの職員に頼もしく思うような視線を向けている。


 ……元も含めれば、ゼインが最高ランクの冒険者ってところだろうか。


「次は……お前ら、行ってくれ」


 などと思っていると、ゼインはこの中で一番強そうな冒険者パーティーに目配せをして、自己紹介を促した。



「俺たちはベテルギウス改。この街で活動する唯一の汎用型Aランクパーティーだ。もともとは、ベテルギウスというパーティー名を名乗っていたが……コイツを加入させたのを機に、『改』をつけることにした」


 その冒険者パーティーからは、リーダーっぽい男が一歩前に出て、自分たちのパーティーについて説明した。


 唯一の汎用型Aランクパーティー……対メタル特化の「メタルスレイヤー」をノーカンとすれば、この街唯一のAランクパーティーってことか。

 確かベラドンナが、「特化型でAランクは自分たち以外にはいない」的なことを言ってた気がするし。


「俺がその新メンバーのザージスだ。ジョブは『暗殺薬師』、少し珍しいジョブだがよろしく」


 リーダーっぽい男が喋った後は……おそらく「改」と名乗るきっかけになったであろう男が、パーティー全体のとは別に改めて自己紹介した。


 ……「暗殺薬師」か。

 そのジョブ名を聞いて、俺は少し懐かしい気持ちになった。


 暗殺薬師とは……簡単に言えば、「暗殺者」と「薬師」双方の性質を併せ持つようなジョブだ。

 このジョブを持つ者は、通常の「暗殺者」としてのスキルだけでなく、「薬師」のスキルのうち暗殺に役立つスキル、そしてその他いくつかの固有スキルを取得することができる。

 NSOの運営が、裏話として何らかの雑誌で答えていたのだが……確かこのジョブの取得条件は「根っからの戦闘狂が『薬師』のジョブを得る」だったはずだ。


 だがこのジョブは、ゲーム内で実際に実装されたことはない。

 解析勢によって、このジョブを持つNPCがデータ上存在することは明らかにされたものの……実際に出現することは皆無だったのだ。


 まさかそんなジョブの人間に、NSOが現実となった今になって、会うことになろうとはな。


「汎用型とは言ったが……最近俺たちが受けているのは護衛依頼など、対人戦が主となるものばかりだ。暗殺薬師のザージスを加入させたのも、そんな俺たちのパーティーの方向性に合致していたから。今日の奴隷商殲滅でも、そんな俺たちの強みを活かせると思っている。よろしく」


 記憶を懐かしんでいると……今度はまたリーダーが喋って、自己紹介を締めくくった。



「んじゃあ次は……お前ら。その次、お前ら頼む」


 ベテルギウス改が自己紹介を締めくくると、ゼインは残り二組の冒険者パーティーに自己紹介の順番を言い渡す。


「私たちはBランクパーティーの『スピットファイア』です! よろしくお願いします」


「同じくBランクパーティーの『ドレッドノート』です。斥候役のリーニャが盗賊を追跡し、アジトを突き止めた関係で今回は参加することになりました」


 その二組は立て続けに、そう自己紹介した。



「じゃあ最後は……ジェイド。頼んだ」


 他全員の自己紹介が終わったところで、俺の番が来た。


「三ツ星討伐者のジェイドです。『永久不滅の高収入』に属する盗賊の第一発見者ということで呼ばれました。ちょっと前まではファントムの討伐を主にやっていましたが……今ではメタル狩りに切り替えています」


 少し考えた末……俺はそんなふうに自己紹介することにした。

 ランクには言及しなかったが、例の盗賊集団の発見者であること、そして幅広くいろんなことをやっている感じで言っておけば、場違いな奴とは思われないだろうと思ってのことだ。


「ふ……ファントム!?」

「そういえば俺、大型素材買取所に金ぴかのサイが置いてあるの見たんだが……あれってもしかして……」


 自己紹介を終えると、ちょっとザワついたが……「あれ、そういえばランクは?」みたいなのは聞こえてこないのでヨシとしよう。



 何というか……ただ奴隷商を叩き潰しにいくにしては、過剰な戦力が集まっている気がするな。

「永久不滅の高収入」の真の実態は知らないような口ぶりだったし、構成員のレベル次第ではこれでも力不足なことからも、「知ってて潰しに行く」って感じではなさそうだが……ここまでの戦力を整えたのは、何か理由があるのだろうか。


「じゃあお互いの素性も分かったことだし、出発するぞ」


 などと思っていると、ゼインがそう言って、俺たちに訓練場から出るよう促した。

 ま、戦力が整ってるに越したことはないし、思惑を気にしてもしょうがないか。

 そう考えるようにして、俺は皆と同様ゼインについていった。



 ◇



 森を南西向きに抜け、盆地を通り過ぎ、山(普段行ってるのとは別のやつだ)に差し掛かったところで。

 霧がかっていて視界が良好とは言えない中……遠くの方に不自然にポツンと一個、高い塀に囲まれた建物がうっすら見えだした。


 更に近づいていくと、塀の周りでは、警備員らしき人が数十メートルおきにポツリポツリと立っているのも確認できた。


 NSOなら……もしこの警備員が「永久不滅の高収入」の正式構成員だった場合、ここまで近づいた段階で確実に警備員側からの奇襲が行われていた。

 一応俺は、それを警戒していたのだが……奇襲が来なかったあたり、あの警備員は正式構成員ではなく、雇われのならず者といったところだろう。


 であるとすれば、ここにいるメンバーに対処できないということは万に一つもあり得ない。


「……待て。お前ら何もn——」


「次元投薬——フッ化水素酸」


 塀まであと20メートルというところまで近づいてくると、警備員の一人がこちらに気づいたが……その警備員は、質問を終える前から全身痙攣を起こし、泡を噴きながら絶命した。

 暗殺薬師のザージスが、暗殺用の投薬魔法を発動したからだ。


「次元投薬」とは、化学物質を直接敵の体内に転移させるスキル。

 そしてザージスは、フッ化水素酸という猛毒を、そのスキルで警備員の血中に投与した。


 フッ化水素酸は、血液中でカルシウムと結びついてフッ化カルシウムとなり、体内のカルシウムを欠乏させる効果を持つ。

 致死量を遥かに超えるフッ化水素酸を投与された警備員は、たちまち生命維持が不可能なくらいカルシウムを奪われ……即死してしまったのだ。


 このような殺し方をされた遺体は、フッ化水素酸に腐食されながら白煙を上げ続けるため、その周囲はかなり異様な光景となる。

 騒動を聞きつけ、4人ほどの警備員がこちらに駆けつけたが……彼らは遺体を見るなり、怯んで動きが固まった。


「永久不滅の高収入」の正式構成員なら、いくら光景が異様だろうと、ものともせず攻撃を開始してきたことだろう。

 だが彼らは怯んだことにより、完全に隙だらけとなってしまっていた。

 所詮雇われのならず者だと、そのレベルというわけだ。


「今だ、やれ!」


 ゼインの掛け声により、冒険者たちは即座に動き……敵が怯んでいる好機を逃さず、全員の始末に成功した。


 まあ、ここで苦戦するようなら、拠点の殲滅など夢のまた夢だからな。

 ここからが本番というわけだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] エグいw まぁファンタジー+化学薬物は「されど罪人は竜と踊る」で前例あるしアリですね(灬ºωº灬)
[一言] 問答無用で体内に劇薬を入れるとか・・・ 暗殺薬師、怖すぎでは?
[一言] 怖い、ファンタジーでリアル薬物は止めて。
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