第百四話 試し斬り
次の日。
俺は百万武蔵の試し斬りのためにリアースの沖にやってきた。
浮遊移動魔道具から降り、《ストレージ》にしまうと、早速戦闘に入ることに。
「《国士無双》」
無敵状態に入ってから、「ゲリラステージ」を起動した。
……なんかまだびっくりするなあ。古代遺跡探訪前のパワーが漲る感覚に慣れてるので、つい「あれ、《国士無双》ってこんなに元気になるっけ?」と感じてしまう。
今回並行世界から呼べたのは……爆裂甲羅の群れか。
爆裂甲羅は敵を感知すると背中のピンが抜け、盛大に自爆する巨大な亀の魔物なのだが、獲得スキルポイントは一体あたり40万しかない。
できれば剣の威力を確かめるために7桁級に会いたかったが、まあいいだろう。
これだけ強くなれば、まあもう6桁級相手に「属性変化領域」は必要ないな。
「《Xの眼》《三日月刃》、《三日月刃》、《三日月刃》……」
俺は爆裂甲羅の数だけ斬撃の衝撃波を飛ばした。
爆裂甲羅は放っといても自爆で自滅するため、《国士無双》習得者なら手を下さずとも倒せるのだが、自爆されると素材が残らない。
だが自爆される前に首を落とせば、爆発されることなく絶命させることができる。
素材も確保したいし、自爆を待つより首を落とした方が早く決着がつくので、斬撃を飛ばした。
しかし、爆裂甲羅は0.01秒で首を甲羅の中に収納できるので、普通に斬ろうとしても斬撃は通過する前に首を引っ込められてしまう。
そこで最初に《Xの眼》を使い、首を引っ込められないよう駆け引きしながら斬り落とした……という感じだ。
「ステータスオープン」
スキルポイントががっつり増加しているので、討伐完了だな。
そして無双ゲージは……まだ3割も消費してないぞ。
となると……これ、「ゲリラステージ」を再起動したら一回の《国士無双》中に複数回「ゲリラステージ」戦ができないか?
「《飛行》」
俺は「ゲリラステージ」を解除しながら少し移動し、そこで再度「ゲリラステージ」を起動した。
「ゲリラステージ」起動により出現した魔物は、一体だけだった。
しかし今回のは――ありがたいことに、7桁級の魔物だ。
ギガヘルツセイレーン。
超高エネルギーの超音波で周囲のあらゆるものを破壊する、巨大な人魚型の魔物だ。
人魚型とはいえ、「プレイヤーが倒すのに罪悪感を感じないように」というNSO運営の配慮なのか、別にかわいくはない。
入手スキルポイントは、一体あたり150万となっている。
コイツが相手なら……百万武蔵が真価を発揮できそうだ。
《国士無双》の強化倍率上昇と、剣の変更で、7桁級相手に「属性変化領域」無しで戦えるようになっているか。
しっかり試させてもらうとしよう。
「《三日月刃》」
たちまちいきなり斬撃の衝撃波を放ってみる。
すると……ギガヘルツセイレーンは、頭と胴体が真っ二つになった。
「キェ……」
小さく何かが聞こえたかと思う次の瞬間には、もうスキルポイントが増えていた。
どうやらもう、7桁級が相手でも属性すら変えずに瞬殺できるようだ。
無双ゲージの残りは……まだ6割弱あるな。
って、さっきより減りが小さいじゃないか。
まさか7桁級と戦うより、6桁級がうじゃうじゃいるのを殲滅する方が時間がかかるようになってしまうとはな……。
なんて考えてる時間ももったいない。
次の「ゲリラステージ」戦、行くぞ。
そうして……結局俺は、一回の《国士無双》で計4回も「ゲリラステージ」を起動し、出てきた魔物を全滅させることができた。
ちなみに3回目、4回目の魔物はそれぞれヒュドラ2匹とレッサーリヴァイアサン4体、キングリヴァイアサンとマーシャルヨトゥン2体だった。
強くなったぶん、多少は戦いが効率的になるとは思っていたが、まさかここまでとはな。
要因は……単純に《国士無双》の発動時間は1・5倍になったことのみならず、「属性変化領域」の起動にかかる時間がなくなったというのも大きいだろう。
ここまで来ると、もはや無双ゲージを溜めてる時間が一番もったいないな。
今後ここでの狩りを長期間行うとしたら、無双ゲージ溜めの時間をどれだけ短縮できるかで効率が一変する気がする。
である以上は……一旦、無双ゲージを早く貯めるのに適した魔物探しに以降するとするか。
「《飛行》」
俺はしばらく海の中を探索してみることにした。
それから三十分くらいして、俺は最適な魔物を見つけることができた。
エンペラーレディオアクティブアングラーという、前見つけたレディオアクティブアングラーの上位種だ。
これらの二種には、大きな違いが2つほど存在する。
まず一つ目は、放ってくる放射線量の違いだ。
頭上の突起物から放射線を出してくるという点は同じなのだが、エンペラーレディオアクティブアングラーの方が二倍ほど強力な放射線を放ってくる。
そしてもう一つの違いは、エンペラーレディオアクティブアングラーは大人しいというものだ。
どういうことかというと、通常種のレディオアクティブアングラーはあまり近づきすぎると噛み付いてくるのに対し、エンペラーの方は至近距離にいても執拗に放射線を照らしてくるだけで物理攻撃をしてこない。
故に、近くでその放射線を浴びることができるのだ。
無双ゲージの貯まり具合は、ベクレルではなくシーベルトで決まる。
故にエンペラーの方の場合、近くで耐放射線結界を張って過ごすことで、無双ゲージを高速で溜められるのである。
ゲージが貯まる速度は、通常種のレディオアクティブアングラーの約5倍だ。
おそらく、これより無双ゲージを高速で貯めるのに適した魔物はもう滅多に現れないだろう。
コイツは一日の終わりになったら気絶させて《ストレージ》にしまい、毎日使い回すとしよう。
おそらくこれ以上無双ゲージが溜まる速度が早い魔物を探していると、数日もかかって本末転倒になってしまうので、ここらで「ゲリラステージ」狩りに戻るとしよう。
こうして俺の本格的なスキルポイント溜めが幕を開けた。
◇
それから一週間が経過した。
この一週間で……俺のスキルポイントは、比喩抜きで桁違いに増加した。
というのも、一度の《国士無双》で何回も「ゲリラステージ」に挑めるようになったのに加え、エンペラーレディオアクティブアングラーを用いて無双ゲージ溜めさえも効率化したことで、一日に手に入るスキルポイントは平均約1億にもなっていたのだ。
そのおかげもあって、現在のスキルポイントは747796510だ。
……うん、溜めすぎだ。
そのことは、正直3億くらい溜まった時から漠然と感じていた。
とはいえ、現状「永久不滅の高収入」関連の情報が何か手に入ってるでもなく、他にすることもなかったので、こんな値になるまで溜めてしまったわけだが。
――いや、待てよ。
今の俺……本当に他にすることないのか?
思えば、俺は「儀式が必要な古代魔法は自分には縁がない」などと思い込み、図書館の禁書以外の棚をよく精査していなかったが……冷静に考えて、そんな自分にも一個、関係のある古代魔法がある。
浮遊移動魔道具だ。
浮遊移動魔道具は元々「永久不滅の高収入」が持っていた魔道具であり、その製作工程では古代魔法が使われている。
古代魔法のうち、浮遊移動魔道具の製作に関わりそうな部分についての知識を備えれば……ワンチャン「永久不滅の高収入」に関する何かがつかめるのではないか。
というか、たった今、大きな進展を産む可能性がある仮説が一個思い浮かんだぞ。
こんなことをやってる場合ではないな。
「《ストレージ》」
俺は浮遊移動魔道具を取り出し、乗り込んだ。
そして、「古代遺跡の真上」の座標に向かって飛ばした。




