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僕の場合  作者: とにあ
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転機

「お。ゆきちゃん、おはよう」

「よろず屋?」

「ああ。お使いご苦労様。疲れた?」

 問われて僕は首を横に振る。

 走って疲れたのは確かだけど、そんなに疲弊したわけじゃないから。

「そう。ならいいんだ。でも、もう一眠りするといい」

 起きると円くんが覗いていた。

「大丈夫か?」

 問われている意味はわからないままに僕は頷く。

「えっと、おはよう」

「おはよう。あー。お使いご苦労様。怪我とか大丈夫だった?」

 おつかい。

 よろず屋も、そんなこと言ってたような?

 おつかい……?

「で、どんなお使いだったの?」

 楽しそうに聞いてくる円くん。

 スゥっと血の気が引いた。

「由貴さん?」

「お使いの内容覚えてない。えっと。さかなに会ったんだけど?」

 たしか。

「え?」

 円くんの唖然とした表情がすごくやるせない心境を引き起こした。

 本当にどうして、僕はこうなんだろう。

 さかなは何の問題もない。きれいな魔法だったと褒めてくれたけれど。

「おつかいってなんだったんだろう?」

 ぽりっと、額を掻いて、円くんが提案してきた。

「えーっと、メモを作るようにしてみる。とか?」




「おにいちゃん! 会いたかったの!」

 大きい声に驚いているとばすりと衝撃を感じた。

 胸元の少女から感じるのは甘い草の匂い。雨の匂い。

「二日しか離れてねーだろ」

 ぼそりと円くんの声が聞こえる。

「あのね、さびしかった」

 上目遣いのうるんだ瞳と視線が交わる。

 ああ、そうか。

 見知らぬ異世界に一人別行動とか言われたら心細いよね。

「こわかった?」

「う、ん。こわかった。さびしかった。会いたかったの!」

 うるりと見上げてくる瞳に少しドキドキする。きっと僕は兄代わりだろうに。

「え? 恋しかっただけだろ?」

「え? こっちがこわかったけど」

 円くんの言葉にミルドレッドの言葉も重なる。

 きゅうっと腕を強く掴まれる。

 不安だったんだなと思う。

 こわかったんだなと思う。

「がんばったね」

 ふっとつかまれてる力が緩む。

「えらかったね」

 どんなにしっかりしていても年下の女の子なんだ。そっとその髪を撫でる。

「おにいちゃん、大好き!!」

 もう一度ぎゅうっと抱きついてきたのぞみちゃんはそのまま泣き出してしまった。


 僕は撫で続けるしかできなくて。

 円くんとミルドレッドは地図を広げて魔力補正についての講義になっていた。

 助けて欲しいのに。

 どうしたらいいかわからないまま僕はのぞみちゃんを撫で続けた。

「こわかったの。連れて行かれた先はギリシャの神殿みたいな場所だったの。

 色は白じゃなくて鈍い感じの緑だったけど。奥のほうに銀の髪の女の子。七歳くらいかな。がいたの。その子が手を伸ばしてきたらぱって目の前が光ったの。ものすごく気味が悪かった」


 言語理解系の魔法かな?


「ギリシャ?」

「あ。世界にある国名のひとつで、古い歴史があるんだよ」

 円君とミルドレッドが話している。


「そうしたら、今までわからなかった周りの言葉がわかるようになって、少し怖くなったの。すごく、歓迎されたのはわかったの。でもそれが怖くて悲しい気分になったの」

 やっぱり言語理解の魔法かぁ。

 言葉はわからないと困るしなぁ。

 えっと、あれ?

 言葉がわからないと困ると思うんだけどかなしい?

「かなしい?」


「あのね、ヒスイ神殿。ヒスイ様って神様を祭っている神殿だったの。神様の声が聞こえるって異世界ってすごいよね」

 不安げに首をかしげるのぞみちゃん。


「そうだね」

「ヒスイ様はね、消えてしまうことをいいよって言っている神様だったの。それがとっても悲しくて腹が立ったの」

「え?」

「あの神殿はね、ヒスイ様から存在するための力を搾取する人達が造った檻だったから。ヒスイ様はそれでも檻をつくった人たちでも手を差し伸べたいと思ったんですって。だから、異世界から力の流れを造るために呼んだことを謝ってくださったの。本当に優しい方だったから。それを当たり前とするあいつらが許せなかった。だってひどいの!! あんまりだよ!」

 え?

 展開についていけない。

 泣き止んでくれたと思ったのぞみちゃんはまた泣き出してしまった。

 どうしたらいいんだろう。








「だからって神殿爆破しなくてもいいと思うんだけどねぇ」

「え?!」

「帰るトコ、なくなっちゃったわぁ」


「この水没都市タフトはね、元はタウフィって言ってその名をもつ王家によって守られていた王都だったの」

 ミルドレッドがお茶を飲みながら説明する。

「今は?」

 円君が質問する。

「タウフィ王家の生き残りとラヤタ王家の生き残りが結んでエルリアーナ国ができたの。ちなみに現王妃様の名前がエルリアーナ様ね」

「はぁ」

「熱愛だったらしいわ」

 すっと視線をそらすミルドレッド。

「第一王子さまが今六歳になられたと思うわ」

「へぇ」

 興味なさげな円君の応答。

「現王都の名前はラヤタ。国を統べてるのはタウフィの旧政権。および血統。まぁ、王妃様がラヤタ側だから理想的な融合とも言われてるのよね」

「あのさー、その説明の理由は? そんなトップに関わる事はまずないと思うんだけど?」

 すっとミルドレッドがまた視線を彷徨わせる。

「まぁ、この水没都市も、基本治外法権的な自治で成り立ってるとはいえ、一応エルリアーナに属しているのよ。あと、ウチの神殿と、魔術舎もね」

「それって?」

 ゆっくり会話は進んでいるがよくわからない。

「国の護りも担っているのよ」

「えっと、爆破って……?」

「ええ。なくなったわ。おそらく調査、追及がなされるでしょうね。普通なら」

「普通なら?」

「だから、もっとも特殊な場所、よろず屋に逃げ込んだのよ!」

 ふぅ吐息を吐くミルドレッド。

 よくわからないなと思いながらのぞみちゃんをなだめる。

「重要な点はね」

「のーぞーみちゃーん」

 音もなくドアが開いてよろず屋がふらりと現れた。

 なんだか疲れてる?

「いきなり、問い合わせ多大なんだけどなー」

「だって! ひどいんだもの!」

 泣きながらも勢いをつけて言い返すのぞみちゃん。

「だからってね」

「神殿神事すべて神が内。故に不干渉。エリコ・タウフィ。どこにも、誰にも。そういう決まりになってるんでしょう? ヒスイ様が教えてくださったわ。湖水の民の継承者」



 え?



 なんで、のぞみちゃんがよろず屋にけんか売ってるの?


「のぞみちゃん。ちょーっとむこうでお話でもしよーか」

 よろず屋がのぞみちゃんを連れて行ってしまう。

 それにしても、

「神様の声かぁ。聞いたことないやぁ」

「私だってないわよ。ヒスイ様って何?」


 え?


 司祭様?




「いや、そこもだけど!!」


 円君が声を上げる。

 なんだろう?


「よろず屋って、タウフィ!? 王家出身!?」


「そうよ。現国王陛下とは従兄弟だって聞いてるわね」

「まじ? すげえ人だったの?」

「生き残りだけど、妾腹にもいかないような末端の血統らしいわ。湖水の民ってなに? もう、わけわかんないわ」


「だが、真・継承血統はエリコが一番だな」


 いつの間にいたのか、黒髪の青年が言う。

 ふらりと近づいてきてのしりと肘を僕の頭にのせる。


 おかげで会話の流れがつかめない。


「湖水の民は力の強い一族の呼称だな。二派に分かたれて、継承者と呼べる者はすでに各派一人づつしか、残ってはいない」


「えっと、エリコには身寄りがないってこと?」

 そういうことかな?



 ギロリとミルドレッド司祭様に睨まれた。




「現国王と従兄弟だって、説明したでしょうがぁあああ。あんたの耳は筒抜けなの!?」


 そして、怒鳴られた。



「よろず屋。まじチートキャラだなぁ」

 円君の呟きは本当にそうだなぁと思った。


「ユーキは本当に面白いなぁ」

 上から降ってくる声に見上げると綺麗な顔立ちの青年ににっこりと笑いかけられた。




 誰だろう?


 黒髪黒服の青年はにっこり笑っていた。

 でも、僕の何が面白いというんだろうか?

「司祭は一晩休めば旅に出れる?」

「……行かなきゃいけないのね」

 ミルドレッドの返事に青年は頷く。

「エンもユーキもノゾミもエリコも一緒に出掛けてもらう」

「よろず屋を閉めるのか?」

 円君が不安そうに尋ねている。

 何があってもよろず屋は門戸を閉ざすことがないというイメージが強いせいだと思う。

 僕も、よろず屋が無人なのはちょっと想像がつかない。

「閉めないよ?」

 青年は不思議そうに言い放つ。

「だって、よろず屋がいないのに……」




「えーと、ちょっと言いにくいんだが、エン。俺がよろず屋オーナーなんだけど?」


「え? あんた、誰だよ!!」


 怒鳴られ、指を差される状況を不快そうに眺めた青年は息を吐く。

「エンとは友達になれたと思っていたんだが、残念だな」


 重いんだけどなぁ。どけてくれないかなぁ。

 あー。


 あれー?



「エライ生き物?」


 ミルドレッドがなにそれって表情で、青年は嬉しそうにこちらを見ていた。



 え?


 本当にコレ偉い生き物?




「王室から調査員が来る。その前に移動しておいてもらう」



 偉いイキモノだから、えーっと



「るぅるぅ」


「まぁ、そうなんだが、この外見ではヴィールと呼んでほしいけどね」

 青年は困ったように苦笑する。



「あと、エンは指を差さないように」


「悪い。つい信じられなくて」


「人化の術を扱う種は多いぞ。見かけで判断するのはやめておいた方がいい」


 偉いイキモノはそう言って和かに笑う。

「じゃあ、続き。行くべき場所に関してはエリコが目的地を知っている。エンは今日中にできるだけ魔力上げの特訓。二人は体調を整えておいて」

 僕とミルドレッドは体調を整えておくのが優先らしい。

「ユーキ、きっとたくさん走るぞ?」

 上から声が降る。

 ぇ?

 うーん。ちょっと嫌だなぁ。



「つまり、食事をしてしっかり休養をとるべきということね」


 ぽんぽんと話が進んで行く。

 僕はそれを見ている。

 少し、わからないなと思うこと。

 青年を見上げる。

「僕が行く意味は何?」


「いなければ、アーベント領の話をつつかれずに済む」


 えっと。

「アーベント領?」

 なにか、あったっけ?



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