86 花火
「ブラザー! 来たデース!!」
半荘が門大統領に向けてVチューブに叫んだ少し後、返事が来るよりも先にジャスティスから電話が来た。
「来ちゃったか~……いま、何処にいるんだ?」
やや心配そうな声の半荘とは違い、ジャスティスはあっけらかんと応える。
「港側デース。ボコボコだから、岸に着けるのは難しそうだけど、なんとかしてみるデース」
「ちょい待ち!」
半荘は竹島の頂上から、港に集まる複数の船を見てから、その先の西の空を見つめる。
「ミサイルが来た!!」
焦りながら、中央が膨らんだ手裏剣を複数かまえる半荘。
その声はジャスティスにも届き、船に乗る者は西の空を見る。
Vチューブを見ている視聴者も悲鳴のような書き込みが増え続けている。
「あ……」
しかしその時、西の空が赤く染まった。
「お~。花火みたいだな~」
遅れて爆発音、そして爆風……
ミサイルは、竹島から数キロ先で爆発した。
その爆発は一発爆発すると、連続して爆発し、無事、全てのミサイルが爆発したのだ。
「た~まや~~~!!」
その光景に、半荘は暢気に叫ぶが、ネットの中では「いやいやいやいや」とツッコム人が続出。
「また暢気な事を言って……」
そんな半荘を見たならば、ジヨンはツッコまなければならない。
ネットでも、よくツッコんでくれたと拍手が起きていた。
「とりあえず、命の危機は去ったぞ!」
「ええ。見てたわ……」
喜ぶ半荘とは違い、ジヨンはいまだに信じられないようだ。
「門大統領~! 最善の判断。ありがとうございました~~~!!」
素直に礼を言う半荘とは違い、ジヨンは複雑な顔をし、世界中の視聴者も礼を言う半荘に首を傾げている。
「さて、行こっか」
「キャッ」
ジヨンの返事を待たずに、半荘はお姫様抱っこして港へと駆け降りる。
そうして、港から少し離れた位置で停まっているジャスティスの船の前でジヨンを降ろした。
「オー! ブラザー、ようやく顔が見れたデース」
「あはは。お互い無事でよかったよ」
わきあいあいと語り合う半荘とジャスティス。
「それじゃあ俺達もそっち行くデース」
「いや、上陸はやめておこう。いちおうここは係争地だし、国際問題になっちゃうかもしれないからな。そんなのVチューブで流せないよ」
「おっと、そうだったデース」
いくら竹島を取り返したといえど民間人を上陸させると、あとあと揉めかねないので、上陸の証拠を半荘は残したくないようだ。
ジャスティスも半荘の意見に素直に従い、離れたまま乗り込む手筈を話し合うのであった。
* * * * * * * * *
一方、総理官邸……
ミサイルが爆発する映像をVチューブで見た安保総理や大臣達は浮かれていた。
「おお! 韓国が初めて引いたぞ!!」
「さすが総理です~」
ミサイル自爆は、忍チューバーの勝利だというのに、安保総理の勝利だと褒め称える大臣達。
そんな中、門大統領の会見が飛び込んで来て、さらに浮かれまくる。
常に国のためを思っての戦いだったと発表したのだが、戦力がほぼ無力化された事もあり、艦隊を引かせる事も発表したからだ。
ただし、その数分後には、安保総理達は静まり返る。
門大統領が忍チューバ―に負けた事を謝罪した後、突如、ナイフで腹を刺して自決したのだ。
会見場は悲鳴が響き渡り、慌てふためく映像はテレビ局側の判断で、一時中断となった。
「ま、まぁ終わった事だ……」
静まり返る会議室内に、安保総理が音を取り戻す。
「韓国の艦隊は帰ったんだ。海上自衛隊は前進! 竹島を取り戻すのだ!!」
「「「「「お……」」」」」
「「「「「おお~」」」」」
安保総理の決断に、大臣達は一瞬固まったが、すぐに感嘆の声に変わる。
「忍チューバ―は帰って来る。竹島は取り戻した。次の選挙は盤石だね、君達!!」
「「「「「おおおお~!!」」」」」
安保総理の言葉に、さっき静まり返った事が嘘みたいに、笑い声が溢れる総理官邸であったとさ。




