74 報復の巻き
一発の艦砲が竹島手前に着弾する中、半荘はシェルターに着くと、ジヨンを降ろして重たい扉を軽々開ける。
そこにジヨンを通し、ジヨンの持ち物とWi-Fiを置いて語り掛ける。
「暗いけど、少し我慢してくれ」
「ここに居て大丈夫なのかしら……」
「ミサイルを撃ち込まれない限り、大丈夫だと思う。まぁ基地から離れて戦うつもりだから心配するな」
不安そうなジヨンに、笑顔で答える半荘。
「そう……」
「閉め切ってもWi-Fiが繋がる思うけど、ダメでも安全のために閉めておくんだぞ?」
「扉だけ、ちょっと試させて。あなたが戻って来なかった場合、一人で開けられないんじゃ洒落にならないからね」
「ああ。そうだな」
基地の電気がパルス爆弾で死んでしまった現在、手動でなんとか動くと言っても、シェルターの重たい扉を開くには女の細腕では難しい。
ジヨンの言い方に少し引っ掛かった半荘であったが、一緒に入って試させる。
かなり辛そうだったが、ジヨン一人でもなんとか開けられるようだ。
確認が終わると、半荘はおちゃらけてジヨンに挨拶する。
「忍チューバー服部半荘、いざ、戦に出向くでござる~。ニンニン」
「プッ……合戦に向かう侍みたいね。忍者って、そんな事を言うものなの?」
「さあ? 俺も口調を習ったわけではないから、わからない」
「なにそれ……」
「あはは。それじゃあ行って来るよ」
「ええ。あなたなら大丈夫だと思うけど、気を付けてね」
「おう!」
ジヨンと挨拶を交わした半荘は、シェルターの扉を閉めて走り出すのであった。
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扉の閉まる音が鳴り響く中、ジヨンは扉に持たれて小さく呟く。
「馬鹿……」
この「馬鹿」は、一人で大艦隊を相手取ろうとしている半荘を心配しての言葉のようだ。
「やっぱりWi-Fi入らないじゃないの! 閉めて行くな! 馬鹿~~~!!」
この「馬鹿」は……まぁ言葉通りの「馬鹿」であろう。
そうしてジヨンは半荘に止められていたにも関わらず、シェルターの扉を少しだけ開けて、Ⅴチューブを凝視するのであった。
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一方その頃半荘は、基地から飛び出し、あっと言う間に港に着くとⅤチューブにライブ映像をアップしていた。
その時、ニュースをチェックすると、韓国大統領が動画をアップしたと書いてあったので、その動画もチェックしておく。
『忍チューバーと名乗るテロリスト……独島を奪っただけでは飽きたらず、我が国民に手を上げたな。お前のせいで多くの死傷者が出ている……』
門大統領は眼鏡を外して目を拭うと、強い口調で言葉を発する。
『これより行う軍事行動は、テロリストに対する報復である! まずは大砲を独島の手前に放ち、それでも降伏の意志が無い場合は、10分後に総攻撃を開始する!!』
門大統領の動画は八か国語で翻訳され、当然日本語にも翻訳されていたので、半荘にもしっかり伝わったようだ。
もちろん半荘は黙っているわけもなく、門大統領に向けて反論する。
「え~。門大統領が拙者を非難しているみたいだけど、竹島は韓国の領土じゃないだろ? 日本に何か言われるならわかるんだけどな~。竹島を不法占拠しておいてどの口が言うんだか……。そもそも、韓国が引き金を引かなければ、俺は反撃しなかったんだぜ?」
門大統領の動画に騒いでいたネットの民は、半荘の反論に同意する声が多い。
それと共に、忍チューバーを心配する声が高まり、門大統領を非難し、総攻撃をやめるように説得する声が多くあがる。
「それにさ~。死傷者が出たって本当なの? それ、前にも何回も言って嘘だとバレただろ? もう嘘はやめようぜ~」
度重なる嘘を非難する半荘に、ネットの民は、今回も嘘をついていると決め付けて同意する声が多い。
「あと、自国民が残っているのに、総攻撃するなんて馬鹿なの? いい加減にしてくれよな~」
門大統領の動画で、ジヨンの存在を忘れていたネットの民は、さらに門大統領を非難する事となった。
半荘が反論していると、艦砲の音が数発鳴り響き、ネットの民も気付いて心配する声をあげている。
「あら~? もう10分経ったんだ。せめて拙者の反論の反論ぐらいしてくれてもいいのにな~」
半荘はそれだけ言うと、ダッシュで隣の島に避難。
その直後、半荘が立っていた場所に艦砲の玉が着弾し、複数の水しぶきと土煙が立ち上がるのであった。




