73 沈没の巻き
「えっと……両端の船が沈んで行っているように見えるんだけど……」
竹島から韓国艦隊を撮影していたジヨンは、小さく見えている両サイドの船が、隣の船と高さが合わなくなった事に気付いた。
「まぁ思った通りの結果だな。船員も飛び込んでいるぞ」
「見えるの!?」
半荘の驚異的な視力を持ってすれば、遠くの景色を見るのもお茶の子さいさい。
「まぁな」
「あ! 両端に船が寄って行ってる……。あなた、いったい何をしたのよ!?」
「最初に沈めるって言っただろ? 有言実行したまでだ」
「どうやってよ!!」
「簡単な事だ。そこのナイフを拾って……」
半荘の簡単な説明に、ジヨンはついて行けない。
ついて行けない理由も簡単だ。
投げたナイフが3キロも飛んで、高速船の装甲を突き破り、船底まで貫通した事が信じられないのだ。
なので、わかる説明から求めるジヨン。
いつ投げたのかと聞くと……
「さっきだ」
何本投げたかと聞くと……
「四本だ」
どうやって投げたかと聞くと……
「こうやってだ」
半荘の、ゆっくりとした動作の遠投フォームを見たジヨンは……
「そんなので船が沈むわけないでしょ!」
ツッコム。
なので半荘は、ピースをしながら答える。
「忍チューバーだからできるんだ」
半荘の答えに、ジヨンはため息しか出ない。
「はぁ……仮に当たったとして、ナイフで船を貫けるわけがないじゃない」
「できたから、船が沈んだんだろ?」
「何か違う武器を使ったんでしょ?」
「いや、このナイフだけだ。このナイフを角度を付けて……」
半荘の説明はこうだ。
すんごく速く投げたナイフは、船の前方、水面よりやや上に当たり、後方の船底から飛び出したとのこと。
事実、半荘の言った通り、高速船は船底にできた長い切り込みから浸水し、塞ぐ事もできずに各部屋に水が溜まっている。
その結果、船が沈む事で最初の穴からも水が流れ込み、さらに沈んで行った。
その説明を聞いてもジヨンは信じられず、半荘に食い掛かる。
「はあ? ナイフでそんな事ができるわけがないじゃない!」
「じゃあさ~……今度は俺の投げる姿を撮ってくれよ。それで信じられるだろ?」
「わかったわ。でも、今度は絶対にトリックを暴いてやる!」
ジヨンのやる気が出たところで、半荘は沈める船を指定して、韓国艦隊に警告をする。
それから半荘は四本のナイフを手に持つと、三本を左手に、一本を右手に握ってジヨンの準備を待つ。
ジヨンの撮影準備が整えば、半荘はピッチャーのように振りかぶった。
「え……ナイフは……」
ジヨンは驚く。
それは当然。
半荘の動きは速すぎて、ジヨンの目にもカメラにも、半荘の振りかぶった動作と、腕を振り切った動作で止まっている姿しか見えなかったからだ。
「ナイフは、きっちり船に当たったぞ。じゃあ、次を投げるな」
ジヨンは今度こそはと瞬きせずに見ていたが、何度やっても、半荘の動きは捉えきれずにナイフが消えていた。
最後の一本も消えると、ジヨンは艦隊を写して呟く。
「うそ……また二隻が沈んでる……」
遠目でも、救出に慌てる船の姿が見て取れ、ジヨンは愕然としている。
「なぁ~? タネも仕掛けもないだろ~?」
半荘の実演を見ても、ジヨンは半信半疑。
呆然と沈み行く四隻の船を見ているしかない。
そんなジヨンの事はほったらかして、半荘はカメラの前に立って声を掛ける。
「さてと……クノイチの撮影はここまでにして、一度切りま~す。では、しばらくしたら復活しますので、チャンネルはそのまま! 忍チューバーでした。ニンニン」
半荘はそれだけ言うと、煙に包まれて姿を隠し、スマホをいじってⅤチューブの接続を切った。
「じゃあ、行こっか?」
半荘は手を伸ばして、ジヨンからカメラを受け取ろうとしながら声を掛ける。
「どこに行くの?」
「シェルターだよ。そろそろ攻撃して来そうだ」
「確かに……」
ジヨンは艦隊の動きを見ながらカメラを手渡し、半荘に続いて基地へと向かう。
「ヤベッ。ちょっと失礼」
「きゃっ」
しばらく歩くと「ドーン」と音が鳴り、半荘はジヨンをお姫様抱っこする。
「何するのよ!」
「大砲が来た! 走るから喋るな!」
「えっ……は、はい!」
さすがにこの事態には、ジヨンは素直に従い、口を閉じて半荘に身を任せる。
韓国艦隊から放たれた艦砲は大外れ。
島にも届いていないが、次が来るかもしれないと感じた半荘は、凄まじい速さで走り出すのであった。




