65 決断
ジヨンの島からの脱出が失敗に終わったその日の夕刻。
韓国大統領官邸では、門大統領と側近が話し合っている姿があった。
『ボートが使えなくなったのか……』
『だそうです。これでは、独島からの出航は不可能かと……』
『……そもそも忍チューバーは、独島から出る素振りが無かったな。やはり、日本政府の差し金で送り込まれたのではないか?』
国連で、ヨンホが言った嘘を事実と考え出した門大統領。
『可能性が無いわけではありませんが、各国も納得しかけたので、言い訳にはなるかもしれません』
『だよな?』
『推測ですが……もうひとつ推測になりますが、日本政府に留まるように言われたのでは?』
『なるほど。それならば、もう民間人として扱う必要は無さそうだ。……艦隊の到着時刻は?』
門大頭領の質問に、側近はタブレットを数度タップしてから答える。
『こちらは夜中には……。日本艦隊は、早くて明日の夜中。翌、早朝が妥当かと……』
『ほう……』
門大統領は、椅子に深くもたれると、目を閉じなから考える。
数秒、数分と時は流れ、目をカッと見開いた瞬間に立ち上がった。
『明日、最後通告のあとに決行する! 独島を必ず奪取するのだ~~~!!』
門大頭領の決断は、自分の命を賭した決断だったため、側近は目を袖で擦りながら退出するのであった。
* * * * * * * * *
ところ変わって、日本総理官邸。
「はぁ……なんで私が総理の時に限って、こんな面倒事が起きたんだろうね」
海上自衛隊から連絡が入った安保総理はボヤいていた。
「それを言ったら私もです。こんな時に防衛大臣にさせられて……」
「君……私が任命したから悪いと言いたいのかね?」
「め、滅相も御座いません!!」
安保総理に続いて、呼び出されていた防衛大臣もボヤいてしまったが、ひと睨みされて謝罪の言葉を述べる。
安保総理は、韓国国民の救出をどうするかの話し合いをするために、今回は防衛大臣だけを呼び出したようだ。
まぁ閣議に出席する全大臣を呼び出したところで、話が脱線するだけなので、二人のほうが話が進むのであろう。
「それで、韓国人を助けるために、船を近付けろだったね」
「はい。小型のボートでいいから、竹島から1キロほど近付けてくれと……」
「海自がそんな事をすると?」
「誤解を生んで、戦争を仕掛けたのは日本だと言って来るでしょうね」
「はぁ~~~」
東郷の出した救出案に、安保総理は長いため息をつくだけで、肯定も否定もしない。
「韓国へ連絡はしたのかい?」
「外務省経由で打診はしたようですが、いまだ連絡は無いようですね」
「本当に連絡はしたのかい?」
「そこは、外務大臣に聞いてください」
「はぁ~~~」
再び大きなため息をつく安保総理は、外務省が動いていないと気付いている。
いや、動いてはいるが、これまでの関係悪化でパイプが細く、韓国政府中枢への通達が極めて遅くなっているのだ。
「ちなみに韓国艦隊は……」
「深夜には着くはずです」
「……うちは?」
「早くて明後日の早朝……」
「はぁ~~~」
現在は、同数の艦隊で睨みあっているのでどちらも動けないのだが、艦隊の数が倍も違えば、韓国は強行手段に出ると考えて、安保総理のため息が出る。
そもそも艦隊の増援に消極的で、準備が遅れに遅れた事が、この事態を生んでいるのだが……
「このままでは、明日には韓国が行動に出るかと……」
防衛大臣は最後まで言わないが、海上自衛隊の武器使用に言及している。
韓国が竹島を力尽くで奪い取ろうとするのだから、日本も応戦しなくてはならない。
しかし、戦力は倍も違う。
仮にそのまま戦争に突入したとして、日本艦隊の数的不利があるのだ。
安保総理は難しい舵取りに頭を悩ませているが、ついに決断する。
「まだ攻撃して来るとは決まっていないし、時間もある。大臣達を集めて、より深く話し合おうではないか!」
「ですね! それが確実です!!」
こうして決断は先伸ばしにして、責任を分散して決断しようとする安保総理と防衛大臣であったとさ。




