39 危機の分散の巻き
無断で動画をアップされて怒っていたジヨンが落ち着くと、半荘は席を立つ。
「どこにカメラがあるのよ!」
いや、まだ質問が残っていたので、隠してあるカメラの位置を教える事となった。
するとジヨンは、アングルを気にしながらポーズを決める。
「も、もう外すから、普通にしていていいぞ」
隠しカメラをゴソゴソと外す半荘に、決め顔をしていたジヨンは、少し恥ずかしくなったようだ。
そもそも、広範囲を撮っていたので、人の顔はそこまで綺麗に移っていない。
たんに、ジヨンが自由に動ける事を証明したかっただけだ。
カメラを取り外した半荘は、汚れた皿を持ってキッチンに向かうが、ジヨンも同じように片付ける。
そして、食料を確認して袋に詰めていると、ジヨンはコーヒーを飲みながら何をしているのかと不思議に思う。
「何してるの?」
「ああ。無茶な攻撃をされる可能性があるから、食料は分散しとこうと思ってな」
「こんな狭い島の何処に運ぶのよ」
「地下のシェルターと、隣の島だ」
「シェルターはわかるとして、隣の島に運ぶなんて必要なの?」
「ネットで、地下を破壊する爆弾があると見た事があるからな。念のためだよ。もしもの時は、ジヨンも隣の島に移動するから、見ておいたほうがいいな」
それからシェルターへの備蓄が終わると、半荘はせかせかと食料を運び、最後に小型エンジンの付いたゴムボートを運び終わると、ジヨンと共に移動する。
「まずは、食料だけ運んで来るよ」
半荘はそれだけ言うと、ボートにワイヤーを結び付け、向こう岸まで水の上を走る。
ジヨンが呆気に取られて見ている内に向こう岸に着き、ボートは半荘に手繰り寄せられる。
荷物を下ろした半荘は、同じように岸を渡り終えると、ジヨンをボートに乗せて、向こう岸から手繰り寄せるのであった。
「ほい。着いたぞ」
ボートに乗るジヨンは、心ここにあらず。
一向に動かなかったので、半荘は声を掛けて手を差し出す。
そこで我に返ったジヨンは、生で【水走りの術】が見れた事に「キャーキャー」と騒いでいた。
半荘は足元が悪いから動かないように指示を出し、食料は予め候補にしていた高い位置、岩肌の窪みに隠して作業を終えた。
「終了~」
「お疲れ様……って、私が言うのはおかしいわね」
半荘の言葉に、労いの言葉を掛けたジヨンは、言い直してしまう。
「国は違うけど、いまは助け合う仲だから、気にする事ないんじゃね?」
「助け合ってもいないわよ。殺し合うの間違いね」
「酷い! 俺はそんな事してないぞ!」
「あ、私だけだったわね。あはは」
「まだ、俺の命を狙っているんだ……」
「あはははは」
半荘のジト目にジヨンは笑って応えるが、明るい笑い方から見て、冗談だと半荘は受け取ったようだ。
この日は作業を終えると、特にトラブルも無く、二人は安心して眠りに就いたのであった。
そして翌日……
朝食を終えた半荘は、基地から出て港に立ち、遠くを眺める。
「どうしたの?」
暇潰しについて来たジヨンは、半荘の隣に立った。
「嫌な予感がしたんだ」
「嫌な予感??」
「たぶん、俺を殺そうとする者がやって来る」
半荘の発言に、ジヨンは横顔を見て、いつもとの雰囲気の違いに黙る。
「ジヨンは、シェルターに避難してほしい」
続けて喋る半荘に、ジヨンは理由を尋ねないではいられない。
「殺そうって……そ、そんなのわかるものなの?」
「ああ」
忍者の感……いや、過酷な訓練と山育ちの半荘ならではの感で、これまでも危険が起きる前には回避していたのだ。
ジヨンはそんな真剣な半荘に従い、シェルターに向かう事を決めるが、その時、ジヨンにも水平線に浮かぶ影が目に入った。
「ようやく見えたみたいだな」
「なに、あの数……」
影の正体は韓国からやって来た船。
それも駆逐艦を含む大艦隊だ。
半荘達が見つめる中、大艦隊は横に並び、一直線に竹島に近付くのであった。




