28 プロペラ音の巻き
「何をしてるんだ!」
通信室に飛び込んだ半荘は、ヘッドホンを耳に当てるジヨンを怒鳴る。
ジヨンは驚いたのも一瞬で、ゆっくり立ち上がると、拳銃を半荘に向ける。
「見ての通り、無線で韓国軍と話をしていたのよ」
ジヨンは開き直って笑顔で答え、半荘は苛立ちの表情を見せる。
「韓国軍って……なんでそんな直通で連絡取れるんだ? まさかジヨンは……」
「ああ。軍人じゃないわよ。SOSを出したら、向こうの人が軍に連絡してくれたの。もうじき迎えが来てくれるわ」
「もうじき? ジヨンも日本に来る事で納得してたじゃないか!」
「納得なんてしてないわよ。自分で保留って、言ってたじゃない?」
「ぐっ……ヤバイ!」
「動くな!」
半荘が血相変えて通信室から出ようとすると、ジヨンは拳銃を両手に構えて引き金に指を掛ける。
「え……」
しかしながら、半荘はドロンと消えて、ジヨンは呆気に取られるのであった。
通信室から抜け出した半荘は、あっと言う間に基地から出て、ヘリポートに向かう。
そこで、簡単な作業をしてから基地の玄関に向かうと、飛び出して来たジヨンに拳銃を向けられた。
「動かないでって、言ったでしょ!」
ジヨンに拳銃を向けられても、半荘は意に介さずに答える。
「だって、急ぎの用事があったんだからしょうがないだろ」
「急ぎの用事?」
「ヘリが一機、近付いているみたいだ」
「え?」
ジヨンは耳を澄まし、空を見上げるが、波の音と暗闇しか確認できない。
だが、その瞬間に半荘は素早く動き、元の位置に戻った。
「いちおう言っておくけど、そんな物で、俺は殺せないからな?」
「殺す気は無いけど、動いたら必ず撃つわ」
「う~ん……撃つ事もできないと思うけどな~」
「そ、それぐらいできるわよ!」
ジヨンは強がって拳銃を両手で構えようとしたが、その時点で引き金が無い事に気付いた。
「何これ……スプレー缶?」
そう。拳銃とおおよそ握りが同じくらいの大きさの物と、半荘に入れ替えられていたのだ。
その拳銃は、半荘の手の中に収まっていて、わざとらしく構えて見せ付ける。
「と言うわけで、形成逆転だ」
にっこり笑う半荘に、ジヨンは手を上げて応えるしかない。
しかし、ジヨンの耳にも軍用ヘリのプロペラ音が微かに聞こえて来ると、にやりと笑う。
「形成逆転? それはどっちの事よ」
「そりゃ、俺だ」
「軍が来てるのに? あのヘリには、特殊部隊が乗っているのよ! 忍チューバーと言えども、敵うわけがないわ!!」
「ふ~ん……そんな事も聞いていたんだ。でも、俺に教えてよかったのか?」
「もう手遅れだもの。これであなたもあたしも、韓国行きよ!」
「それはどうかな? とりあえず危険だから、ジヨンは中で待っていてくれ」
「……ふん。その余裕が、いつまで続くかしらね。ゆっくり待たせてもらうわ」
ジヨンが基地の中に消えると、半荘は軍用ヘリが出す音の方角に体を向け、遠くを見つめる。
「来たな……派手にやりますか!」
そうして半荘は、ヘリポートに走るのであった。
* * * * * * * * *
基地に入ったジヨンも、通信室に走ってヘッドホン片手に、先ほど聞いた無線機のチャンネルを合わせる。
『こちらジヨンです』
ヘッドホンからは「ジージー」と音が流れた後、男の声が聞こえる。
『こちら本部。何か動きがあったのか?』
『はい。只今、独島の上空に、ヘリが来た模様です』
『そうか。忍チューバーはどうしてる?』
『応戦するようです。いまは外に居ます』
『応戦か……それならば……わかった。特殊部隊にはそう伝える。協力、感謝する』
ヘッドホン越しの男の声は何か含みがあったが、ジヨンは特に気にせず、軍用ヘリの到着を待つのであった。
* * * * * * * * *
一方、ヘリポートに立つ半荘も、軍用ヘリの到着を待っていた。
「やはり、ここに一直線に向かっているな」
半荘は、自分が素手で戦ったと向こうに情報が行っていると思い、ヘリポートで待ち構えていた。
銃を使わないのだから、ロープを伝って降りる必要は無いと考えているのだろう。
そんな敵ならば、軍用ヘリを平らな場所に降ろして、特殊部隊全員で一気に制圧すればいいのだろうと……
もちろんそう考えている韓国軍は、高度を落としながらヘリポートに向かって来た。
「俺が何も対策をしていないわけがないだろう……」
半荘は、軍用ヘリを十分近付けると、忍術を使う。
「【火遁の術】だ~~~!!」
ドッカーーーン!
ヘリポートは爆発音と共に、火柱が上がるのであった。




