第73話 お小遣い稼ぎ
今晩の宿屋に到着した俺たちは手早く準備を整え、商人ギルドに向かった。ちなみに宿はアリンガム商会がこの町に来るたびに利用しているという高級宿だ。
クレアが気を使ってくれて俺とアスカそれぞれに個室を用意してくれた。クレアももちろん個室だが、ジオドリックさんと御者の人は二人部屋らしい。俺とアスカも二人部屋で良かったんだけどな。余計に費用をかけさせてしまったな。
部屋には品の良いチェストとベッド、書き物机に椅子が置かれていて、個室としては十分なくらいに広い。オークヴィルやチェスターの宿の倍くらいの料金になりそうだ。
「それでは私はギルドマスターとお話ししてまいりますので少々お待ちください」
「護衛はいいのか?」
「ええ。商談もありますのでギルドマスターと二人でお会いすることにしますわ。商人ギルドの中ではさほど心配することも無いですから、アル兄さまとアスカさんはロビーでお待ちください」
「わかった」
「行ってらっしゃーい」
クレアが慣れた足取りで2階に上っていくのを見送った俺達は、ロビーのベンチに座って待つことにした。見物がてら町を散歩でもしたいところだが、クレアの護衛任務もあるのでここから離れるわけにもいかない。ふいに手持無沙汰になってしまった。
「ひーまーだーねー」
「ああ。よかったら散歩してきてもいいぞ?」
「そういうわけにはいかないよー。一人で歩いてもつまんないしー」
アスカが両手で頬杖をつき、唇を尖らせて言った。
「あ、そうだ! ちょっとお小遣い稼ぎしちゃおう!」
「お小遣い稼ぎ?」
「うん。ほら、オークヴィルの商人ギルドでさ、回復薬の材料は用意できるって言ってたじゃない。ここでも材料を譲ってくれたら、すぐ下級回復薬を作れるじゃん。それを売ればちょっとしたお小遣い稼ぎが出来るかなって」
「ああ、なるほど。それはいいかもな。聞いてみようか。」
俺たちはさっそく受付の女性に声をかけてみた。
「すみませーん。あたし旅の薬師なんですけど、回復薬を作りたいので薬草とかの素材を売ってもらうことってできますー?」
「ええ。買取した薬草を卸すことは出来ますが、商人ギルドに登録はしていらっしゃいますか?」
「ううん。してないです」
「そうなりますと……素材をお譲りすることはできかねます。薬師として活動されるのでしたら、ご登録されたほうがよろしいかと思いますがいかがですか?」
「あ、そうなんですかー。うーん、どうしよっか、アル?」
「ええと……登録について教えてもらってもよろしいですか?」
受付の女性に伺ったところ、商人ギルドに登録すると冒険者や商人が持ち込んだ素材や冒険者ギルドから買い付けた素材などを購入することができるそうだ。
他にも商店・商会同士の取引の間を取り持ってくれたり、設備投資や出店の際の融資なども相談できるそうだ。加入は任意だが、様々な素材や商品を仕入れやすくなるので、ほとんどの商人はギルドに加入するらしい。
冒険者ギルドのようにG~Aのランクがあり、Dランクまでは登録料と年会費さえ払えばすぐになることができる。ランクの内訳はこんな感じだ。
Gランク 行商人 登録料銀貨1枚 年会費銀貨2枚
Fランク 屋台 登録料銀貨5枚 年会費大銀貨1枚
Eランク 個人商店 登録料大銀貨1枚 年会費大銀貨2枚
Dランク 個人商店 登録料大銀貨2枚 年会費大銀貨4枚
Dランクになると商人ギルドから魔石の買取ができるようになる。個人商店の内でも武具屋や魔道具店などの魔石を取り扱う商売をする場合は、Dランクにする事が多いそうだ。
Cランクは複数の店舗を経営する小規模な商会、Bランクは多数の町に店舗を展開する中規模の商会、Aランクは複数の領地をまたいで活躍する大規模商会だ。ランクはAまでしかないが、国をまたいで展開するさらに大規模な商会は便宜上Sランク会員と呼ばれるらしい。Cランク以上の登録料と年会費は、経営する店舗数に応じての支払いとなるそうだ。
「薬草や魔茸の購入はGランクでも出来るんですか?」
「ええ。薬草や魔茸はGランクの素材ですので、Gランクの方でも購入が可能です。」
詳しく聞いてみると、素材にはそれぞれランクが設定されていて、商人ギルドのランクに応じた素材を購入できるそうだ。例えばGランクの魔物であるゴブリンやホーンラビット、スライムなどから取れた素材はGランクの商人でも購入が出来る。だがEランクの魔物であるレッドウルフやワイルドバイソンなどの素材は、Eランクにならないと購入できない……といった具合だ。
「回復薬の素材が買えればいいんだからGランクで十分だね!」
「そうだな。じゃあGランクで登録をお願いします」
「かしこまりました。ではこちらの登録用紙に必要事項を記載してください」
「はーい」
商人ギルドに登録するのはアスカにすることにした。俺が登録しても良かったのだが、【盗賊】として冒険者ギルドに登録している俺が、商人ギルドに登録するよりは不自然じゃないと思ったからだ。アスカはオークヴィルでも『優秀な薬師』として活動していたので丁度いいだろう。
「アスカ・ミタニ様ですね。それでは登録料と初回の年会費を合わせて銀貨3枚を頂戴します」
「はーい」
料金を支払うと受付嬢は手のひらぐらいの大きさのカードをアスカに手渡した。カードは木材で出来ていて、アスカの名前とランク、8桁の数字、登録年月日が書き込まれていた。
「各地の商人ギルドでそのギルドカードを提示していただければ、ランクに応じたサービスを受けることが出来ます。回復薬の素材をお求めでしたよね?薬草と魔茸は在庫がありますのでお求めいただけますが、購入なさいますか?」
「うん。薬草と魔茸を99個ずつください」
「……かしこまりました。少々お待ちください。」
受付嬢は個人が買うには多すぎる量とその中途半端な数が気になったようだが、特に追及することなく倉庫から素材を出してきた。
「薬草と魔茸は一株あたり銅貨4枚です。全部で銀貨7枚と大銅貨9枚です」
「じゃあ銀貨8枚からでー」
「銀貨8枚お預かりします。大銅貨1枚のお返しですね」
アスカはお釣りを受け取り、素材をせっせと魔法袋に詰めていった。素材を詰め終わると今度は、下級回復薬をどんどん取り出していった。
「じゃあ、これを買い取ってくれる? 下級回復薬を30本ね。」
「はい。かしこまりました。鑑定をしてまいりますので少々お待ちください」
下級回復薬は1本あたり大銅貨4枚で引き取ってくれた。30本で銀貨12枚分だ。今回の取引では儲けはあまり出なかったが、次回以降は登録料や年会費が無いから、銀貨3,4枚ぐらいの儲けはでるだろう。
全く労せずにアリンガム商会からの日当よりも多い金額を簡単に稼ぐ事が出来る。商人ギルドに立ち寄った時にしか出来ないし、購入できる素材の数にも限りはある。あまり多量に納品してオークヴィルの時みたいに注目を浴びるのも面倒だから多用は出来ないけど、まさに良いお小遣い稼ぎになりそうだ。
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