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騎士とJK  作者: ヨウ
第二章 城下町チェスター
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第53話 隊商

 城下町チェスターでの旅の準備を早々に諦めた俺たちは、一路オークヴィルへと向かった。今回は道中で遭遇する魔物を避けずに、向かってくる魔物を倒しながら進む。


この辺りの魔物はレベル5,6ぐらいだそうだ。レッドキャップをたくさん倒したことで俺のレベルも8まで上がっているため、低レベルを維持してスキルレベルを上げる作戦はもうできない。わざわざ魔物を避けて大回りすることもなかったため、夕方前には町に着く事が出来た。


「うわー! なんだか賑やかね!! お祭りでもやってるのかな?」


「いや、ジブラルタ王国から来た隊商だろうな。帝国の魔道具やジブラルタの香辛料なんかを、商人たちが隊を組んで運んでるんだ。」


 街の中心部の広場に行くとたくさんの露店が所狭しと並んでいた。食料品や近郊の村から買い集めた生産物なんかも販売しているようだ。数は少ないが珍しい魔道具や衣料品を扱っている露店もある。


「オークヴィルに来るまでに立ち寄った村とかで余剰農産物なんかも仕入れていると思うから、食料品を買い付けるならちょうどいいんじゃないか?」


「いいタイミングね! さっそく見に行こ!」


 俺たちは露店をまわり様々な商品を購入した。10キロ詰めの小麦の麻袋を20個――さすがに二百キロもの小麦を魔法袋偽装で一気に収納するのは目立ちすぎるから別々の露店で数袋づつ購入した――塩・胡椒やレッドペッパーなどの香辛料、オリーブやヤシの実の油なども大量に買い込んだ。


 この食料品の買い込みで金貨3枚ほど残っていた旅費のほとんどを使い切ってしまった。アスカのすさまじい大盤振る舞いに驚いたが、よく考えてみれば購入したものはほとんどが保存のきく食材ばかりなので、余ったら売ってしまえばいいのだ。


 それにレッドキャップの魔石を大量に持っているから、売ればそこそこの値段になる。それでもお金に困ったらアスカの【調剤】で下級回復薬(ポーション)を作って売ればいいのだ。金策に困らない旅って素晴らしい。


 あとは野営用のテントを買えば一通りの準備は整う。さすがにテントは露店では買えなかったので、譲ってくれそうな店を求めて商人ギルドに向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 商人ギルドに着くと、終業間近の時間にもかかわらず蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。隊商の商人たちはもちろん、オークヴィルで見かけたことがある商人達もたくさん集まっていて、それぞれが大声で話をしていた。


「アスカさん! アルフレッドさん!! ご無事でしたか!」


「あっセシリー! どうしたのこれ、すごい騒ぎね」


「チェスターが魔人族に襲われたと連絡が入ったのです。アスカさんたちがチェスターに向かわれたばかりだったので、私……グスッ……良かった、まだオークヴィルにおられたのですね」


 俺たちを見つけ、慌てて駆け寄ってきたセシリーさんが目にうっすら涙を浮かべている。ああ、心配をかけてしまったみたいだな。


「魔人族の襲撃はいちおう片付きました。とても旅の準備をするどころじゃなくなったから、チェスターから戻ってきたんです」


「そうなのですか!? チェスターは無事なのですか!?」


 セシリーさんがそう叫ぶと、それを聞きつけた辺りの人たちが一斉にこちらに詰め掛けてきた。


「おい、兄ちゃん! チェスターから来たのか!?」

「チェスターはいまどんな状況なんだ!?」

「街に被害はどのくらい出たんだ!? 火の海だって話を聞いたぞ!?」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ、いま説明するから……」


 口々に質問を投げかけてくる商人たちに圧倒されていると、奥の事務室の方から大きな声が聞こえた。


「静粛に!!!」


 オークヴィル代官のレスリー先生と商人ギルド長のエドモンドさんだ。険しい表情の二人が通ると、商人たちは道を譲る。ちょうどロビーのど真ん中で俺たちは向かい合う形になった。


「アルフレッド様。お二人はつい昨日にチェスターに向かわれたはずでしたな。今のチェスターの状況をご存知なのでしょうか」


「ええ。一部始終をご説明します」


 俺がレスリー先生にそう答えると、周りにいた商人たちがテーブルと椅子を持ってきた。皆の前で話してくれ、という事だろう。促されるまま俺とアスカ、レスリー先生とエドモンドさんが椅子に着席し、周囲をセシリーさんと商人たちが取り囲んだ。皆が早く話せと血走った眼を向けてくる。わかった、わかった……今話すよ。


「昨日の深夜に、ウェイクリング領チェスターは【魔人族】(ダークエルフ)率いるレッドキャップの群れに急襲されました」


【魔人族】(ダークエルフ)!!」

「シルヴィア王国の崩壊に続き、チェスターまで……」

「今年は王都まで行っている場合じゃないな……ジブラルタに引き返した方がいいんじゃないか?」

「静かに!!! ……アルフレッド様、続きを」


 出だしから騒めく商人たちをレスリー先生が一喝し、話の続きを促す。


「……結論から申し上げます。チェスターは無事です。魔人族は騎士ギルバード様の活躍で撃退されました」


「おおおぉぉ!!!!」


 ロビーが歓声と拍手喝采に包まれる。少ししてレスリー先生がすっと手を掲げると、ロビーが再び静かになった。


「順を追ってお話しします。昨日の深夜にチェスターの貴族街が…………」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 一通りの経緯を説明し終えたところで、ロビーは再び大騒ぎになった。


 レスリー先生はチェスターの被災者支援のため、隊商の長に食料品や衣料品の都合を持ちかけ、事務室で商談に入った。隊商の商人たちは慌ただしく商人ギルドを出ていき、チェスターに向かう準備に向かったようだ。


 隊商が明日の早朝にオークヴィルを出る事が出来れば、夕方にはチェスターに着けるだろう。物資が届けばチェスターの町の混乱は収まると思う。


 城下町の被害は少なかったとはいえ、貴族たちの買い占めのおかげで食料品が乏しくなっている。下手をすれば民衆たちの暴動が起きてしまうかもしれない。


 今日の様子ならあと1日や2日ぐらいなら冒険者ギルドによる治安維持も保つだろうが、食糧不足が長期にわたれば略奪が起こってもおかしくない。ちょうど物資を大量に持った隊商が来ていて本当に良かった。


 ちなみに、俺とアスカが【魔人族】の討伐に関わったことは伏せ、戦闘を目撃しただけという事にしてある。注目を浴びて俺の加護やアスカのスキルについて要らぬ詮索を受けたくなかったからだ。


 チェスターの街では大暴れしてしまったから注目を浴びてしまうのは今さらどうしようもないが、できれば『旅の冒険者が魔物の討伐に貢献した』程度で収まってくれれば良いのだけどな……。


 とは言っても、ウェイクリング家に俺のスキルの事がばれてしまうのは避けられない。ギルバードが目を覚ませば俺の話になるだろうし、屋敷で『冒険者アルフレッド』と名乗ってしまっているしな。


 出来れば余計な注目は浴びずにチェスターを出たいから、『旅の冒険者アルフレッド』と『【森番】のアルフレッド』が結びつかなければ良いのだけど……。




 その後、セシリーさんに野営用のテントが手に入らないかと聞いてみたが、この状況ではそう簡単に入手は出来ないだろうとのことだった。一から作るとなると多少の時間もかかるし、完成品はチェスターの被災者支援に回されるからだそうだ。こればっかりは仕方がないな。手に入らなければ魔物の皮を縫い合わせてタープにでもすればいい。長旅になるからできればちゃんとした物が欲しかったのだけど……。


 俺たちは翌朝にレスリー先生に同行して隊商とともに再びチェスターに向かうことになった。チェスターに着いたらテントを探してみて、手に入りそうにないなら諦めて王都に出発しよう。あ、冒険者ギルドでギルバード救出の謝礼だけはもらっておこう。食料品の爆買いで資金も底をついたしな。




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