表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士とJK  作者: ヨウ
第二章 城下町チェスター
52/499

第50話 勝てないことが決まっている相手

「なんにせよ、貴様らには死んでもらう。この街で私と出会った不運を呪うんだな」


 銀髪の男は再びロッドを俺たちに向ける。


「アスカっ! ギルバードを頼む!」


 ギルバードに退却するつもりが無く、職人街に繋がる唯一の退路も塞いでしまった。逃げることも出来ず、救援も期待できないのなら戦うしかない。一対一で戦うよりはギルバードを回復してもらって共闘した方がいい。


「ふん、無駄なあがきだ。【爆炎】(エクスプロージョン)! 【火球】(ファイヤーボール)!」


【大鉄壁】(ヒュージウォール)! 【鉄壁】(ウォール)!」


 銀髪の男が放つ炎塊と爆発を【鉄壁】(ウォール)でなんとか抑え込む。背後ではアスカが駆け寄ってギルバードを回復してくれているだろう。ほんの少しであっても、ヤツの攻撃を後ろにそらすわけにはいかない。


 ゴリゴリと魔力を削がれてはいるが、銀髪の男が乱打する魔法をなんとか防げてはいる。魔力を三分の一以下まで消費してしまったところで、俺の身体を青緑色の光が包んだ。アスカが下級回復薬を使ってくれたようだ。


「アスカ、助かった! ここから離れて、隠れていてくれ!」


「う、うん!」


 背後を見ずに声をかけると、アスカが走り去って行く。それと同時に、俺の隣にギルバードが並んだ。銀髪の男は魔法を撃つのを止め、険しい表情でこちらを睨みつけている。


「ギルバード、救援が来る可能性は?」


「……無いだろうな。魔物どもの急襲で領兵は壊滅的な被害を受けた。残った兵たちも貴族達の護衛で精いっぱいだろう」


「そうか……。ギルバード、念のために聞くが逃げるつもりは無いんだな?」


「当たり前だ! ゴブリンどもの将は、あの魔人族だ。奴を倒す以外に、この街を守る方法はない。将さえ倒せば、魔物などただの烏合の衆だからな」


 なるほど……。だからギルバードは退却するそぶりも見せず、無謀にも思える特攻を繰り返していたのか。


 俺は救援が来るまで凌ぎきればいいと思っていたけど、そもそも救援が期待できないとなれば劣勢を一気に覆すためには将を狙うしか方法がないだろう。ギルバードは騎士として、逃げ出すのではなく最後まで戦う事を選んだのだ。


 ……状況をわかっていなかったのは俺の方だったってわけか。


「ヤツを倒すしか方法は無いという事か……。仕方ないな。ギルバード、共闘するぞ」


「……まさか【森番】の貴様と共に戦うことになるとはな。だが……他に選択肢は無い。ここで死ぬか、ヤツを倒すか。それだけだ」


 俺たちは銀髪の男に向かって剣を向けて身構える。俺もギルバードも残りの魔力は心もとないが、ヤツの魔法を防ぎつつ距離を詰めて斬撃を食らわせるんだ。それ以外に俺たちに出来ることは無い。やるしかない……。


 それにしても……ヤツはなんで攻撃の手を緩めたんだ? 俺たちの魔力切れを狙っていたんじゃなかったのか?


 ヤツも数えきれないぐらいの魔法を放っている。もしかして先に魔力が切れたのか……?


 ……いや、それは無いな。ヤツから感じる魔力は俺たちの何倍もありそうだ。この程度で枯渇するわけが無い。


 すると黙りこくっていた銀髪の男が、訝し気な面持ちで口を開いた。


「……何をやった? なぜお前たちの傷が治っているのだ?」


 うん? 下級回復薬(ポーション)を使って傷を癒したからだろ? ヤツも見ていただろうに。


 ……ああ、アスカが下級回復薬(ポーション)をアイテムボックスから直接使って治癒したからか。あれは回復魔法を使ったように見えるからな。魔力を全く持たないアスカが傷や火傷を癒して見せたから、違和感を持ったのだろう。


「さあな。教えてやる義理はない」


 そう答えて俺は銀髪の男ににじり寄る。思わせぶりな態度で、ヤツの集中を乱せるなら儲けもの。まだ奥の手があるのではないか……と思ってくれるならなお良い。


「……加護を介さずに回復魔法を……? 魔力を使わずに……? これでは……まるで奇跡……」


 いい感じに混乱してくれているようだ。何をそんなに気にしているのかはわからないが、このチャンスを逃す手はない。俺は一気に距離を詰めようと、ゆっくりと腰を落とす。


「……まさか、あの女は神の手先か!!!」


 ……神の手先?


 銀髪の男はそう叫ぶと、魔力を膨れ上がらせた。ウソだろ!? まだ本気じゃなかったのか?


「フハハハハ!!!! 何たる幸運!! 央人族(ヒューム)の英雄と神の手先を屠れる機会が同時に訪れるとは! 主もさぞお喜びになるだろう!!」


 圧倒的な殺気が噴水広場を埋め尽くす。銀髪の男の魔力もどんどん膨れ上がっていく。


「遊びは終わりだ!! 死ね、主に仇なす愚か者ども! 【大爆(エクスプロージョン)炎】(・マキシマ)!!」


 銀髪の男のロッドから禍々しい魔力を放つ赤い球体が放たれる。


「くっ……【大鉄壁】(ヒュージウォール)!」

【大鉄壁】(ヒュージウォール)!!」


ドゴォンッ!!


 轟音をあげて、魔力球が弾ける。今までと比較にならないほどの激しい炎と衝撃が俺たちに襲いかかる。


「ぐうっ……」


 揃って弾き飛ばされた俺とギルバードがよろよろと立ち上がる。銀髪の男の方に目を向けると、自分の目を疑うような光景が広がっていた。


 広場の石畳は広範囲にわたって破壊しつくされ、噴水はもはや残骸と化している。そして、銀髪の男の周囲にはいくつもの炎塊が浮かび上がっていた。一つ一つの炎塊は【火球】(ファイヤーボール)よりも小さいが、その数は十を超えている。


「……舞え、炎よ。【炎嵐】(ファイヤーストーム)!」


「くそおっ!! 【大鉄壁】(ヒュージウォール)!!!」


 襲い掛かる多数の炎塊に立ち向かい、盾にこれでもかと魔力を注ぎ込む。それでも殺到する炎塊のすべてを防ぐことは出来ず、俺とギルバードは炎に包まれる。


「ぐぅぁあああ!!!」


 熱い! 熱い! 熱い!!


 激しい熱さと痛みに襲われ、俺は無我夢中で一面に広がった炎から抜け出す。ゴロゴロと地面に転がり、服や鎧についた火をなんとか消すことができたと思ったその刹那、はげしい衝撃が俺を襲う。


 ドゴォッ!!


 銀髪の男が放ったのだろう爆発で、俺は再び弾き飛ばされた。


「……ごふっ!」


 熱さと衝撃で霞がかった意識のもやをなんとか振り払って目を開くと、近くで倒れ伏すギルバードと歩み寄る銀髪の男の姿が見えた。白銀の鎧はところどころがひしゃげ、腕があらぬ方向を向いているが、ギルバードの胸はわずがながら上下に動いている。まだ命は落としていないようだ。


「アルっ!!!」


 アスカが叫び声をあげて、建物の陰から飛び出してくる。くそっ声が出ない……喉をやられたか……。


 ダメだアスカ……こんな所に出てくるんじゃない……早く逃げてくれ……。くそっ……アスカの言う通り、城下町を解放するだけにとどめておけば……こんな事には……。


「いま助けてあげるから!!」


 アスカが俺のもとに駆け付け、身体が青緑の光に包まれる。しかしそれと同時に、俺たちの近くに赤い魔力球が着弾する。


「きゃあっ!!!」


「ぐぉっ……!!」


 俺は蹴り飛ばされた小石のように何度も地面をはね、建物の壁に激突する。


「ふん……死んだか……。」


 悠然と歩み寄った銀髪の男が、衝撃で手放してしまった火喰いの剣と円盾を拾い上げた。


「なるほどな……私の炎が幾度となく防がれたのは、この盾の力か……」


 銀髪の男はピクリとも動かない俺を見下ろし、興味を失ったかのように離れていく。歩み去る銀髪の男の先には、ギルバードとアスカが転がっていた。


 銀髪の男は倒れているギルバードに近づくと、脚を大きく振り鎧の上から腹部を蹴りつけた。蹴り飛ばされたギルバードは地面を転がるも、完全に意識を手放しているようで呻き声すら上げない。


 銀髪の男はギルバードを放置し、アスカに近づいていく。アスカは緩慢な動作で身を起こすが、中腰から立ち上がれずに銀髪の男を怯えた目で見上げる。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


 おもむろにロッドをアスカに向けた銀髪の男は静かな声でアスカに語りかけた。


「……安心しろ、神の手先よ。私は弱者を甚振る趣味を持っていない。一瞬で殺してやろう」


 銀髪の男が持ったロッドが紅く光を放つ。言葉通りアスカを瞬殺するつもりなのだろう。【炎嵐】(ファイヤーストーム)を放った時と同じぐらいの強い魔力が渦巻いている。


「ひっ……ひっ……ひぃっ……」


 アスカがペタンとしゃがみ込む。全身を震わせ、カタカタと歯を鳴らすアスカ。尻の周りから地面に染みが広がっていく。


「……死ね」







「お前がな」


 銀髪の男がビクリと身体を震わせる。その胸からは、赤黒く濡れた鋼鉄のダガーの刃が突き出ていた。




ご覧いただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ