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騎士とJK  作者: ヨウ
終章 ワールド・オブ・テラ
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第465話 鉄壁

 全員との接続を切る。仲間達は即座に自らの役割を果たすべく動き出した。


「【接続(リンク)】エース!」


「ブルルゥッ!」


 初手はエース。


 白銀の翼をはためかせ、エースが大空洞の底を疾駆する。螺旋角に帯びた紫電の魔力光が尾を引き、エースは一筋の彗星と化した。エースは勢いそのままに体当たりし、ユーゴーの奇襲で体勢を崩していたルクスを後方へと押し退ける。


「【接続】エルサ!」


「【二重・大津波(アラウンド・ノヴァ)】!」


 続いて、エルサ。


 エースが稼いでくれたほんの数秒の間に詠唱を済ませたエルサが、渾身の魔力を濁流へと換えて放出する。ユーゴーの奇襲とエースの吶喊で体勢を崩していたルクスは、その水圧に為す術もなく押し流された。


「【接続】ユーゴー!」


 さらに、三手目。ユーゴーへと接続を切り替える。


「オオォォォォッッ!!」


 裂帛の気合を放ち、無手のユーゴーがルクスを追う。


「グルルゥゥッ!!」


 濁流に押し流されたルクスは怒りの咆哮をあげて前脚を振るう。ユーゴーはさらに加速して爪撃を躱し、跳躍。


「【漆黒の諸刃・献魂一擲(フル・バースト)】!!!」


 狂戦士の覇気を身に宿し、全ての魔力を爆発させた獣王の一撃が胸部に突き刺さる。ユーゴー渾身の飛び蹴りは、ルクスの巨躯を十数メートルも吹き飛ばした。


「やるぞ、アスカ、アリス!」


「うん!」


「はいなのです!」


 アスカとアリスがすぐ後ろに張り付き、俺の背にそっと両手を当てる。これでアスカと接続せずともアイテムの強化と回復を受けられる。


「さあ、来いっ!」


 剣闘士スキル【挑発(タウント)】の魔力波動を浴びせる。直後、ルクスの殺気が爆発的に膨れ上がった。


「グルオォォォッッ!!!」


 獣じみた咆哮を上げ激高するルクス。その殺気を浴びるだけで、身体の底から畏怖と焦燥が湧き上がる。俺の背にあたるアスカの手が小刻みに震えた。


「……よし」


 エースの吶喊、エルサの水魔法、そしてユーゴーの一撃で、俺とルクスの間合いは相当に広がっている。全てを出し尽くして力尽きたユーゴーは、エースが咥えて離脱している。エルサは既に退避済みだ。射線を遮るものは何もない。  


 ルクスは前脚を地面につけて四つん這いとなり、大きく咢を開く。断ち切られた十二枚の翼の根本が碧い輝きを放ち、口腔に魔力光が集まり始めた。


 ついさっき、俺達はルクスの咆哮(ブレス)によって絶体絶命の危機に追い詰められた。転移で上空に避難し、かろうじて命をつないだが、同じ手は二度も通用しないだろう。だからこそ俺は圧倒的に不利であっても接近戦を仕掛け、ブレスを吐く暇を与えないように立ち回っていたのだ。


 ルクスは鬱陶しかったことだろう。致命傷には程遠いとはいえ、龍殺しの剣によって手脚に癒えない傷を負わされる。羽虫にまとわりつかれるような気分といったところか。


「狙い通りだ」


 ルクスは戦い方を知らないし、駆け引きもしない。龍人形態の時は直線的に向かってきて拳と脚を振り回すだけっだった。龍形態になってからも、攻撃の種類は噛みつき、爪撃、尾撃、咆哮の4つのみ。


 唯一無二の存在である龍の王に、歯向かう者などいなかったのだろう。たとえいたとしても、圧倒的な膂力と機動力、無尽蔵の魔力を持つがゆえに、単純な力押しでも容易に相手を跪かせられたのだろう。


 よって、十分な間合いがあり、発動を邪魔されないとなれば、咆哮で薙ぎ払おうとする。予想通り、ルクスは力押しを選択した。


「出し惜しみは無しだ!」


「うんっ!『タフネスポーション』!『スピリッツポーション』!『魔力回復薬』!」


「【神具解放(アームド)】!」


 碧く輝く魔力を溜め込んでいくルクスを真正面に見据えながら、俺は集中力を高めていく。すぐ後ろでアスカがアイテムを連続使用し、アリスが剣や盾を強化してくれた。


「噛み喰らえ――――龍殺しの剣(ヴォーパルソード)


 俺はあらためて発動句を唱え、龍殺しの剣を地面に突き刺し、柄から手を放す。


【光の大盾・大鉄壁】シールド・オブ・アイギス


 左手につけた盾を前に、その後ろに右手を当てて防御姿勢を取る。光魔法と剣闘士のスキルによる魔力障壁を半球状に展開した。


 ルクスの咢がさらに大きく開かれ、口腔に集まった魔力塊がブレる。次の瞬間、碧い魔力の奔流が解き放たれ、真っすぐに照射された。強烈なブレスが魔力障壁に衝突して火花を散らし、視界が碧に染まる。


「ぐっ、うぅっ!!」


 とてつもない衝撃で身体が押しこまれていく。咄嗟にアリスが俺の腰に抱き着き、奔流に飲まれて吹き飛ばされそうになっていた俺を支えてくれた。


「『魔力回復薬』!『スピリッツポーション』!」


 魔力障壁がガリガリと削られていく。俺はスキルに全神経と渾身の魔力を注ぎ込み、必死で障壁を維持する。


 どんどん消費していく魔力はアスカが【アイテム】で補充してくれてはいる。だが、このペースではすぐに回復薬が底をついてしまうだろう。



 もっと……強く……



 『想い』が強ければ強いほどに加護やスキルは強化される。旅を通して実感していたことは、女神の啓示で裏打ちされている。


 スキルを発動するための魔力は、元は空気中に漂う魔素であり、魔素はすなわち神授鉱の欠片(オリハルコン)だ。そして神授鉱は人の想いを写す鉱物、精神感応金属だ。神授鉱の欠片はありとあらゆる場所に遍在する女神の断片であり、この世界そのものだ。



 もっと……強く……



 応えろ、女神(テラ)。ルクスから人族の世界を守るために、アスカを喚んだんだろう? そのために俺を鍛えさせたんだろう? 俺の『想い』に応えてくれ。



「ぐ、う、おぉぉっ!」


 そうこうする間も混沌の盾の魔法障壁は削られていく。障壁の維持のために、魔力と残薬が絶望的な早さで失われていく。


 

 神授鉱の欠片よ……女神の断片よ……俺に、力を……



 世界にあまねく遍在する神の断片を支配する権限。女神よ、貴方が龍に与えたのだろう? その王が人を滅ぼそうとしているんだ。俺にも……その力を寄越せ……。世界を、人族を守るために……龍の力を……






 いや、違う……?


 俺の願いは、想いは、そんなことだったか? 


 世界を守る?


 人族の未来を守る?


 背中にあたるアスカの手が震えている。


 ああ……そうだ。


 そうだった……。



「はは……女神が、応えてくれないのも、当然か」


「ア、アル?」


 アスカの不安そうな声が耳に届く。


 すまない、もう大丈夫だ、アスカ。俺は、世界や人族を守るなんて、そんな大それたこと望んじゃいなかった。事ここに至って、ようやく思い出したよ。



「【鉄壁(ウォール)】!!!」

 


 おそらく、戦闘の加護を得てからというもの、最も頼りにしていた剣士の基本スキルを発動する。


 その瞬間、【光の大盾・大鉄壁】シールド・オブ・アイギスの無色透明の魔力障壁が消失し、紅の魔力盾が顕現する。


「おおぉォォッ!!」


 紅の鉄壁が龍王の咆哮を弾く。碧い魔力の奔流が紅の魔力盾に衝突し、火花を放ちながら散華する。


「え……?」


「す、すごい、のです」


 アスカとアリスが呆然とした声で呟く。


「心配、させたな、アスカ、アリス」


 もう大丈夫だ。


 俺の鉄壁は、もう揺るがない。




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