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騎士とJK  作者: ヨウ
第十章 永久凍土の名も無き村
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第418話 新要素

 ただただ無心で剣を振るい、草原を駆ける。

 深く深く心の裡に没入し、加護に語り掛ける。

 自分は一振りの剣であり、草葉を揺らす風だ。

 剣は巨きく鋭い爪を弾き、風は灼熱の吐息を掻い潜る。

 分厚く硬い鱗を裂いて尾を断ち、回り込んでは逆鱗を突く。



 そして……古代竜は断末魔の叫び声を上げ、崩れ落ちて溶けるように消失した。


「おおーっ! SSランク古代竜(エンシェントドラゴン)ソロ攻略! すっごーい!!」


「予想以上なの。まさかたった1日でここまで出来るようになるとは思わなかったの」


 アスカとジェシカの声で、ふと我に返る。


 ああ、そうだった。65階層主の古代竜に一人で挑んでいたんだっけ。


「おっと……」


 我に返ったとたんに身体のあちこちが悲鳴を上げ、立っていられなくなる。気づかないうちに、身体にかなりの無理を強いていたみたいだ。


「本来は一つしか与えられないはずの加護を二つ扱っているの。身体には相当な負担があるの」


 ジェシカがティーカップを傾けながら、そう言った。隣では固く焼しめたクッキーをアスカがポリポリと齧っている。


 いやほんと呑気なもんだ。俺が必死で戦っている間に、優雅にお茶会だもんな。


 まあ、ジェシカの方は、古代竜と一緒に出て来た上級竜(エルダードラゴン)の黒竜を片づけてから休憩したみたいだけどさ。


「なんとなくわかってきた気がするよ。これが『励起』か」


「今の状態を集中しなくても自然に維持できるようになるまで身体と根源に覚えこませるの。無意識に加護を重ねている状態で、意識してスキルを発動できれば第二段階突破なの。そこから『二重詠唱』が出来るようになったら『励起』は完成なの」


「……まだまだ先は長そうだな」


「そんなことないの。まさかこんなに早くここまで出来るようになるなんて思ってなかったの。アルフレッドは天才なの」


「そりゃどうも……」


 『励起』の修行は、二つの加護のスキルを二重詠唱したうえで常時発動を維持することから始めた。俺の場合、騎士の【烈攻】(アグレッサー)と暗殺者の【瞬身】を同時に発動し続けることからだ。


 まずは、その同時発動の状態を無意識に行えるようになるまで身体に覚え込ませる。二つのスキルを維持し続け、同時にそれを意識から排除する。


 無意識に二重詠唱を維持できるようになったら、今度は加護からの力の流れに意識を深く潜らせていく。次第に二つの加護を鮮明に知覚することが出来るようになる。


 二つの加護から二つのスキルへと伝わる力の流れをつかみ、今度はその流れを肉体へと繋げる。本来なら一つしかないはずの加護から肉体への流れを、二つに変えて肉体を活性化させる。それが『励起』だ。


 感覚的なものだから、言葉にするとわかりづらいけど……まあとにかく、そういう感じだ。


「なんとなくだけどコツはつかめた気がする。今日のところは【烈攻】と【瞬身】でやってみたけど、明日は他のスキル、他の加護でも試してみるよ」


「おっけー。じゃ、このまま60階層に戻って、キャンプにしよっか。おつかれさまー!」


 最初に決めた修業期間はあと二日だ。なんとか『励起』をモノにしないとな。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 60階層までは真っ暗闇の洞窟だが、60階層以降は草原や荒野といった外と同じような空間が広がっている。60階層からは草原、70階層からは荒野、80階層からは毒沼が点在する湿地だ。


 アスカによると、60階層以降の端と端は繋がっているらしい。つまり、西の端に向かうと、いつの間にか東の端に行っていて、そのまま移動を続ければ元いた場所に戻ってしまうのだ。さらに、どういう仕組みなのかは分からないが、昼夜や気候の変化まである。


 60階層の転移陣は草原のど真ん中にあり、周囲にはAランク以上の危険な魔物がうろついている。だが転移陣の周り数百メートルの範囲にはなぜか入ってこないし、中にいる者に気づけないようだ。たぶん、外と同じように、転移陣の周りは聖域になっているのだろう。


 俺達は安全地帯である60階層の転移陣の上に馬車を出し、薪ストーブで暖と灯りを取りながら夕食を取った。さすがに調理する気にはなれなかったので、調理済みの焼き肉を挟んだパンとスープだ。


 俺達はアスカがいるから快適に過ごせるが、アルジャイル鉱山に潜っている3人は不便だろうなぁ。寝床は無いし、料理も出来ないし。魔物は強くても地竜ぐらいしかいないだろうから、ここに比べれば遥かに安全ではあるけれど。


「でさ、『励起』を使えばステータスが上がるってわけでもないみたいだよ?」


「そうなのか? 力も早さもかなり上がった気がするんだが……」


「AGLはかなり上がってたよ。でも他がね」


 そう言ってアスカが紙束を取り出した。いつもアスカがつけている日記と覚え書きを兼ねたお手製の帳面だ。日記は左から、覚え書きは右から書いている。

 

「ほら、これ見て」


 アスカは覚え書きの方に書いてあった数字の羅列を指し示した。



--------------------------------------------


Lv : 50

JOB: 転移陣の守番

VIT: 3531

STR: 3098

INT: 1673

DEF: 4213

MND: 1673

AGL: 4398


--------------------------------------------


「『励起』が成功した時のステータスはこんな感じだったの」


「あれ? 防御力と早さは上がってるけど、他は下がってる?」


「VITは上がってて、STRは同じ、INTとMNDは半分ぐらいになってたね。ほら、こっちが『励起』してない時の今のステータス」


 そう言ってアスカがウィンドウを開いた。ジェシカが突然現れた半透明な石板に驚き、大きく目を開いている。どうやらジェシカにもウィンドウが見えるようになったみたいだ。アスカがジェシカを仲間認定したってことかな?


 ウィンドウに記載されているステータスは体力・膂力・魔力・防御力・魔法耐性・敏捷、全ての数値が3098だった。


「この数値は、倍率が一番高い加護の補正だけが反映してるの。VITは拳闘士、STRは竜騎士、INTは魔導士ってかんじでね」


「うん」


 それは理解してる。防御力は騎士、魔法耐性は導師、敏捷は暗殺者……というように、俺が修得している8つの加護の良いとこ取りのステータスになっているわけだ。ステータスの数値が全部同じなのは、補正倍率が全く同じだからなのだろう。


「でね『励起』の場合は、二つの加護の補正倍率を足した分だけ(・・)がステータスに反映するみたい。ほら、今日は騎士と暗殺者で試したわけでしょ? 二つとも魔力と魔法耐性の補正は低いから、二つ足しても魔導士とか導師の半分ぐらいにしかならないんだよ」


「なるほど……良いことばかりじゃないんだな」


 確かに前衛の加護持ちは、軒並み魔力とか魔法耐性が低いもんな。低い同士が重なっても、低いままってことか。逆に癒者と魔法使いの加護で励起したら、膂力や防御力が低くなるってとこかな。


「だからね、状況によって切り替えられるようにすればいいわけ! 剣で攻撃する時は竜騎士と騎士、魔法攻撃する時は魔導士と導師って感じで」


 あーなるほどね。でもそれって……


「一番ステータスが高くなる加護の組み合わせを総当たりで試さないとね! とりあえずは全部の加護で『励起』出来るようにすること。その次は臨機応変に対応できるように『励起』の加護を一瞬で切り替える特訓だね。そんで、アザゼルにもらった【闇魔道士(ウォーロック)】もマスターしないとね。あたしの予想ではINTとMNDが高い加護だと思うんだ。新しいスキルも試さなきゃだし。明日から忙しくなるよ! うっはー! 新要素たのしみー!!」


 うん、やっぱそうなるよね。っていうか、『励起』する加護の切り替えって難易度高すぎない? まだコツがつかめたぐらいだってのに……。




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