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騎士とJK  作者: ヨウ
第七章 瘴霧の大森林マナ・シルヴィア
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第302話 目的地

明けましておめでとうございます。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 シルヴィア王家と他種族との対立、魔人族の暗躍、吸魔の魔法陣、仕組まれた内戦。そして20年前をなぞるように薄れゆく霧。獅子人族(ライオス)狼人族(ワーウルフ)の緊張。


 魔王アザゼルが何らかの絵を描いているのだろうか。その狙いを阻止するには、荒野の旅団(ヴァルド・イェーガー)と行動を共にした方が良いか……?


 だが……


「断る」


「えっ!?」


 エルサが予想外といった顔で、俺を見る。断るとは思わなかったみたいだ。


「アルフレッド? 魔王アザゼルが関わっている可能性が高いのよ?」


「お前、話聞いてたのか? 魔人族(ダークエルフ)を倒すのが天命なんだろ?」


 ゼノとエルサがほぼ同時にそう言った。


 アリスとアスカが、『どうするの?』と目で問いかけてくる。


「聞いてたよ。20年前、霧をめぐって灰狼族と獅子人族とが戦争になった。そこに魔人族が乱入して灰狼族が全滅。霧が薄くなったのは魔人族の仕業だった。そして今、また霧が薄くなり獅子人族と狼人族が対立してる。魔人族が関与してるかもしれない。それであってるだろ?」


「そうよ。だからこそ魔人族を討つためにも、戦列に加わるべきじゃない?」


「そうだな、魔人族は倒さなければならない。守護龍もそれを望んでいた」


「なら、俺達に協力してくれるってことで……」


 エルサは最愛の従妹を殺されてしまったのだ。アザゼルを追い、討ち取りたいと思う気持ちはよくわかる。


「だから言っているだろう。俺達は戦争屋じゃない。俺達の目的は魔人族の排除だ。獣人(セリオン)族同士の殺し合いに加わるつもりはないし、どちらかの勢力に加担する気もない」


 だけどさ、視野が狭くなりすぎだよ、エルサ。


「俺達は龍の従者で、冒険者だ。傭兵じゃない。矜持や名誉のためだとか、日々の糧のために争いに加わるのならともかく、獣人族同士の対立は俺達には何の関係も無いだろう?」


「でも、魔人族が関与しているかもしれないなら……」


「そもそも、ゼノの話を全面的には信じられない」


 エルサがハッとした顔をする。


「おいおい。俺が嘘をついてるって言いたいのか?」


「あたりまえだろ。アリスと俺達を殺そうとした奴の言うことを、どうやったら信じられるって言うんだ」


 ゼノに会いに来たのはあくまでも情報収集のためだ。仄めかしていた魔人族のことと、旧シルヴィア王国内の現状を聞ければそれで十分だったのだ。


「……それを言われると、弱いな」


 ゼノが肩をすくめてため息をついた。


「そもそも、魔人族がかかわっているという根拠は? 魔人族の目撃証言でもあるのか? 霧が薄くなった場所で、魔素を吸い取る魔法陣が見つかったとか? 当然、石碑は調べたんだろうな?」


「……今のところ見つかってはいない。だが」


「それなら、はっきりしているのは獅子人族と狼人族の間で争ってることだけじゃないか」


 場所によって霧が薄くなったというのは本当のことだろうし、それが犬人族(ワードッグ)や狼人族の集落周辺ばかりってのはいかにも怪しい。ただゼノが言うことだけを信じて、魔人族が関わっていると断ずることはできない。獅子人族が霧を操る秘術を手に入れたと考えるのが妥当じゃないか?


 現時点の情報だけで、狼人族側について戦列に加わることなんてできない。荒野の旅団、というか狼人族の勢力にいいように利用されるだけだ。


「いるかどうかもわからない魔人族を倒すために、獅子人族に剣を向けるのか? 獣人族同士の問題は、獣人族同士で解決するべきだろう。俺としては20年前と同じことを繰り返してほしくないとは思うけどな」


「…………」


 ゼノは大きなため息を吐いて、首を左右に振った。説得は不可能と判断したのだろう。 


「皆はどう思う?」


 アスカ、アリス、エルサを見回して問いかける。俺はいちおうこのパーティのリーダーということにはなっているけど、俺だけの意見で意思決定をするわけにはいかない。皆の意見も聞いておかないとな。


「あたしも、アルと同じ意見かな。魔物を狩るのとは違うもん。人殺しなんてしたくない」


 俺とアスカの旅の目的は、魔人族の陰謀を阻止すること。


 チェスターでは街を襲った魔人とレッドキャップを撃退し、クレイトンでは闘技場に現れた合成獣を倒した。レリダでは地竜を討伐して都市を解放し、エウレカでは不死者を殲滅した。


 今までは魔人や魔物から街を守るために行動していた。だが今度は人族同士の争いだ。止むに止まれぬ事情があれば殺人だって厭うつもりは無いけれど、自ら飛び込んでいくのは違うだろう。


「アリスは……アルさんやアスカと共にあるのです。それに、アリスはガリシア氏族の娘なのです。アリスが味方をすると、ガリシアが狼人族についたと見られてしまうかもしれないのです。だから、獣人族同士の争いには参加したくないのです」


 アリスはもともとスキル封印を解くために、俺達に同行した。封印が解けた今でも一緒に旅しているのは、俺達に恩返しをしたいと言ってくれているのと、【錬金術師】スキルの効率的な熟練度の稼ぎ方を探るためだ。人族同士の争いに踏み込む理由は無いだろう。


「アルフレッドは、これからどうするつもりなの?」


 エルサが眉根をひそめ、絞り出すように言った。


 エルサの旅の目的は、キャロルの仇討ち。魔人族への復讐だ。そのためには、龍の従者である俺やアリスと共に行動したほうが良いと考えて、一緒に行動しているのだ。


 魔王アザゼルの手がかりが少しでもあるなら追いたいのだろう。俺達とは目的が違うのだから、ここで別れてしまうのも仕方がないのかもしれない。


「そうだな……とりあえずは、ゼノの話も聞けたし、マナ・シルヴィアに行こうかと思う」


 ゼノからだけでなく、幅広く情報は収集するべきだろう。マナ・シルヴィアには何の伝手も無いから集めるのには苦労するかもしれないが、狼人族と対立している獅子人族が治める土地なのだから、レグラムとは違う情報が出てくる可能性もある。


「それと……東の方で犬人族と猫人族(キャットマン)が小競り合いをしてるって話を聞いた。ゼノ、それも霧が薄くなったことが切っ掛けだったりするのか?」


「……ああ、そうだ。犬人族が治めるポリ公国で、いくつかの集落周辺の霧が薄れて魔物被害が続出した。そこに猫人族のヴァーサ王国がちょっかいを出しはじめたんだ。今は小集落の奪い合い程度だが……段々と戦闘が激化してきているって話だな」


 そうか……。獅子人族の仕業なのかもしれないし、魔人族が再び暗躍しているのかもしれない。いずれにせよ、情報が足りないな。


「マナ・シルヴィアの後は、そのポリ公国ってところにも行く必要があるかもしれないな。まずは情報を集めて、魔人族の尻尾が見つかったらそれを追う。そんなところかな」


「…………わかったわ。リーダーの方針に従うわ」


 エルサは首を左右に振り、ため息をつきながらそう言った。


「マナ・シルヴィアね……。獅子人族側につくってのだけは、勘弁してくれよ?」


 ゼノが肩をすくめて、苦笑した。




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