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騎士とJK  作者: ヨウ
第六章 驕慢たるアストゥリア
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第271話 魔法陣

「【神子(シビュラ)】の加護を持つ者は、そう簡単には現れません。私がこの加護を授かるまでの二百年もの間、先代が世界でただ一人の【神子】だったのです」


「そんなに珍しい加護なのか」


 まあ言われてみれば、剣士の名家であるウェイクリング家でも【聖騎士】の加護を授かる者は、何代にもわたって現れなかった。神人族(エルフ)限定の加護ともなると、そうそう現れる者でも無いのかもしれないな。


「でもさー、国外にいる人まではわからないんじゃないのー?」


「加護は聖ルクス教会が執り行う成人の儀で与えられますよね? そのため、教会は最上位の加護を持つ者をつぶさに把握しています。残念ながら【神子】の加護を持つ者が、国外にもいないことを確認しています」


「……だとすると、その先代が呪具を作ったってことになるのか?」


「先代は既に亡くなられました」


「そうか……。じゃあ、キャロルに呪いを掛けた呪具や、この隷属の魔道具は過去に作られた物なんじゃないか?」


「その可能性もありません。付与師は【魔道具鑑定(ディテクト)】のスキルを持っていますので、作られたおおよその時期がわかります。この隷属の魔道具は、ここ数年で作られた物に間違いありません」


「そうか……」


 だとしたら、どうやってアザゼルは呪具を作ったのだろう。


 そう言えば、魔人族は複数の加護を持っていた。チェスターに現れたフラムは癒者と魔法使い、ガリシアに現れたロッシュは拳士と魔法使い。


 もしかしたらアザゼルは付与師の加護を持っている? いや、付与師は神人族限定の加護だ。それは無いか……?


「わかんないんだったら、今考えてもしょうがないじゃん。アリスのことを先に考えようよ」


 アスカが手のひらを上に向けて肩をすくめた。


 アスカの言う通りだな。そもそも、ここに来たのはアリスのことをキャロルに相談したいからなのだ。


「アリス様の【封印(シール)】の件ですね?」


「そうそう。エルサから聞いてたんだ?」


「ええ、偽物の魔法陣の刺青が彫られ、スキルが封印されていると伺っております」


「そうなのです……。キャロルさんは、魔法陣のことも詳しいのです?」


 アリスが不安そうにキャロルに問いかけた。


「生活魔法などのスキルスクロールを作るのも付与師の稼業の一つですので、ある程度のことはわかります。よろしければ、その魔法陣を見せて頂いてもよろしいですか?」


「は、はい」


 アリスが慌てて羽織っていた竜革のジャケットを脱ぐ。アリスは右腕に刻まれた魔法陣『反・地龍の紋』を見せる事を想定していたようで、腋から下の胴体を筒状に包むコルセットの様な形状の服を着ていた。


 長年、鉱山の中に籠っていたために、露わになった肩と腕は驚くほどに白い。俺達と共に行動するようになって頻繁に湯に浸かっていることもあって、キメ細かく光沢(つや)のある肌だ。そのためか、魔法陣はより禍々しい存在感を放っている。


「Mining,Flame,Arms,Enchantment,Alchemy,Golem……」


 キャロルが魔法陣の線を指でたどりながら、古代エルフ文字を読み上げていく。さすが聖女と謳われる付与師だけある。アスカ以外に古代エルフ文字を読める人を初めて見たな。


「これは……」


「“Furnace”だよ。かまど、って意味だね」


「古代文字がお分かりになるのですか!? では、こちらは?」


「“Refaine”、精製する、精錬するってところかな?」


「さすがは龍の従者様です! 火龍イグニス様より偉大な智慧を授かっておられるのですね!」


「え? あ、そうね? そんなとこかな?」


 キャロルの問いに、アスカが裏返った声で答えた。ニホンでは大抵の人が古代エルフ文字を読めるらしいが、そんなこと説明できないしな。『神龍ルクス様の思し召し』と答えておくしかない。


「……“Sealed(シール)”」


 線をたどっていた指が【封印(シール)】を意味する単語に着いたところで、キャロルが深くため息をついた。


「鍛冶師の加護を強化する魔法陣のようですね。ですが、こちらの文字でその効果が塞き止められています……」


「うん、そうだよね。それで、どうかな? 【封印】の呪いは解けそう?」


 アスカが期待の眼差しを向けるが、キャロルの表情は硬いままだ。


「その前に、確認をさせてください。この魔法陣が彫られたのはいつですか?」


「だいたい5年前くらいなのです」


「そうですか……」


 キャロルの申し訳なさそうな表情が答えを語っていた。アリスが肩を落として、俯く。


「この魔法陣には明らかに不要な単語がいくつかあります。Deception,Reverse,Sealed……それぞれ欺瞞・反転・封印を意味します。おそらく、これらの単語を付与師のスキルで解き放つことが出来れば、【封印】は解けるでしょう」


「えっ!? それじゃあ……」

 

「ですが、この魔法陣は彫られてから長い時間が経過しています。おそらく、呪いはアリス様の加護が宿る根源の奥深くにまで至っているでしょう」

 

「つまり……どういう、ことなのです……?」


「これほど深く強い呪いを解き放つには膨大な魔力が必要なのです。平均的な魔法使い数十人分の魔力を優に超えるほどの魔力が……」


「……それは、魔法使いを何十人も集めれば、なんとかなるのか?」


「付与師は魔道具を作る際には、魔石の魔力もしくは付与する魔法に込められた魔力を流用し【付与(エンチャント)】を行います。それは【解放(リリース)】する際も同様なのですが、その場合は魔法の魔力を流用することは出来ませんので、魔石の魔力を使用することになります」


「ということは……」


「魔法使い数十人分の魔力……Sランクを超える魔石が必要です」


 キャロルの言葉に、俺達は揃って絶句する。


 闘技場で魔王アザゼルが召喚した不死の合成獣(アンデッドキマイラ)でさえ、Sランクの魔物なのだ。それを超える魔物などそう簡単に見つかるわけもない。もし見つかったとしても、どうやって討伐するというのだ。


「アスカ……」


 もしかしたら、そんな魔物の情報を持っているかもしれない。倒し方も知っているかもしれない。一縷の望みをかけて尋ねたが、アスカは静かに首を横に振った。


「そうか……ありがとう、キャロル。魔石が入手できたら、解呪に協力してくれるかい?」


「え、ええ、もちろんです」


「そ、そうだよね! SSランクの魔石を手に入れれば、いいだけじゃん! ね、アリス!」


「は、はい!」


 すぐに封印を解くことは出来ない。でも世界を旅していれば、あの不死の合成獣を超えるほどの魔物と対峙することもあるかもしれない。きっと、Sランクを超えるほどの魔石を手にすることだって出来るはずだ。


 よし、キャロルに聞きたかったことはだいたい聞けた。困難ではあるが、【封印】を解除する手掛かりを得ることが出来た。


 アスカが言っていた『地下墓所での不死者退治』はキャロルが済ませたらしいから、エウレカにいる用事はこれで終わりだな。遠回りになってしまったけど、当初に予定していた獣人族の里マナ・シルヴィアに向かうことにするかな?


 そんなことを考えながら、キャロルとエルサに礼を言って席を立つ。


「お、お待ちください!」


 応接室を出ようとしたところで、キャロルが大きな声で俺達を呼び止めた。


「一つだけ、膨大な魔力を集める方法があります……」


「……キャロル? ま、まさか、貴方っ!」


 エルサが焦った表情で、キャロルの口を塞ごうとする。だが、それよりも早く、キャロルが口を開いた。


「積層型広域魔法陣エウレカを使用します!」


 キャロルは迷いを吹っ切るかのように、決然とした語調でそう言い放った。




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