第268話 伝説級装身具
「【土装】」
多目に魔力を注ぎ込んだ防御力強化魔法の光が、マイヤさんの身体に吸い込まれていく。
「【付与】」
マイヤさんは緋緋色の金竜の魔石を埋め込んだ白銀のバングルに、その魔法を余すところなく注ぎ込んでいく。地属性魔法の金色の光が、音も無く金糸雀色の魔石に染みこんでいった。
「……地属性を持つ金竜の魔石と地属性魔法の【土装】が相乗効果を生んでるわ。まさに伝説級の装身具ね。名付けて、『大地の腕輪』ってところかしら」
思っていたよりもあっさりと終わったが、これで完成らしい。一見すると付与前と変化が無いように見えるが、本当に高い効果があるのだろうか。
「わぉっ! ラピスラズリのピアスの10倍の効果があるよこれ!」
大地の腕輪を細い腕に取り付けたアスカが感嘆の声を上げた。
「すごいな……」
「Aランクの竜石に、総白銀製のバングルよ? しかもアル君と【祈り子】のあたしで付与したんだもの。そりゃあ天然石の装身具なんかとは比較にならないわよ」
自慢げな顔で微笑むマイヤさん。
ちなみに、腕輪はマイヤさんの知り合いの【彫金師】に作ってもらったので、材料の白銀は俺達が供出したものだ。ずいぶん前にギルバードから奪った白銀の鎧を解体したインゴットが、ようやく役に立った。ギルバード、ごめんな。そしてありがとう。
「うん、ありがとう、マイヤさん!」
「ふふ、どういたしまして。じゃあ次はこれね」
そう言って取り出したのは、透明な魔石が取り付けられた耳飾りだ。
「あれ? 金竜の魔石を使ったんじゃなかったのか? 魔石は金糸雀色だったはずだけど……」
「これに付与するのは【水装】なんでしょう? 魔石の持つ地属性の魔力と水魔法が干渉しあってしまうから、もったいないけど魔石から属性を【解放】したの。『大地の腕輪』みたいな相乗効果は無いけど、それでも強力な装身具になるわよ」
「へぇ。魔石の扱いって難しいんだな……。じゃあ、水装を発動すればいいか?」
「ええ。こっちの準備は出来てるわ」
「よし、行くぞ。【水装】」
「【付与】」
その後、俺はマイヤさんが指示するままに、強化魔法を唱え続けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふぅー、終わったぁ……」
「はぁ……お疲れ様、マイヤさん」
「まったく、こんなに働かされるとは思わなかったわ……」
「半分以上は貴方の依頼じゃないか……」
俺とマイヤさんが向かい合って座っているテーブルの上には、空になった魔力回復薬の瓶と、いくつもの装身具や武具が所狭しと並べられていた。俺達が依頼した装身具や武具への魔法付与が終わると、マイヤさんから店頭に並べてあったアイテムへの魔法付与の協力を求められたのだ。
相方の魔法使いが休んでいるため滞っていた注文を捌きたいと泣きつかれたため、俺達がお願いした付与の手数料をタダにすることと引き換えに依頼を引き受けたのだが……全く割に合わなかった。途中から数えるのをやめたので正確な数はわからないが、ざっと百回は身体強化魔法を唱えた気がする。さすがに途中で魔力が尽き、魔力回復薬を飲みながらの作業となった。
「お疲れさま、アル。ね、どう? 似合う?」
アスカがうっすらと水色に輝く魔石がついたイヤリングを耳に着け、満面の笑顔を向けてきた。
「ああ、綺麗だ……まるで零れ落ちた朝露みたいだ。とても良く似合ってるよ」
「ぁっ……ありがと」
紅く染まった頬に、涙滴型にカットされた薄空色の魔石がよく映える。うん、可愛いな、アスカ。
「あー、砂糖吐きそう」
「あははは……」
うんざりした顔で吐く真似をするマイヤさんに愛想笑いをするアリス。あ、アリスも地竜の魔石で作ったペンダントを着けてるな。
「アリスのペンダントも、よく似合ってるよ。地龍の従者にぴったりだな」
「ぁぅ……ありがとうなのです。アルさんの腕輪も……お似合いなのです」
「ありがとう、アリス」
うん、けっこうかっこいいよな、この腕輪。
どうかな、アスカ……って、いでぇっ! 足っ! 足踏んでるよアスカっ!!
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アルフレッド
■ステータス
Lv : 22
JOB: 拳闘士Lv.1
VIT: 1172
STR: 977
INT: 930
DEF: 1628+330
MND: 930
AGL: 1628+300
■ジョブ
騎士・拳闘士Lv.1・槍術士
癒者・魔術師・暗殺者
■スキル
初級短剣術・初級剣術
初級弓術・初級槍術・初級盾術
馬術・投擲
夜目・隠密・警戒・瞬身・暗歩・影縫
挑発・盾撃・鉄壁・烈攻・不撓・魔力撃
威圧・気合・爪撃
第三位階黒魔法・第三位階光魔法
牙突・跳躍・看破
剣術Lv.4・盾術Lv.4
内丹Lv.1・剛拳Lv.1
■装備
火龍の聖剣・ガリシアの手甲・火喰いの投げナイフ
地竜の鱗鎧・火喰いの円盾
風装の足輪・土装の腕輪
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アスカ・ミタニ
■ステータス
Lv : 1
JOB: JK
VIT: 12+50
STR: 8+50
INT: 0+50
DEF: 9+550
MND: 0+500
AGL: 13+50
■スキル
魔物解体
植物採集
調剤
武具解体
■装備
ジェイニーのローブ・火喰いのライナー
オニキスのペンダント
ガーネットのブローチ
アメジストのブレスレット
大地の腕輪
水霊の耳飾り
マラカイトのアンクレット
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アリス・ガリシア
LV 63
JOB 鍛冶師Lv.★
VIT 536
STR 646+300
INT 460
DEF 603+330
MND 460
AGL 498
■スキル
採掘・精錬・錬炉
武具鑑定・鍛造・付与
戦槌術Lv.6
■装備
地龍の戦槌
竜革のジャケット
火装の腕輪・土装の首飾り
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冒険者ギルド支部の建物に入ると、テーブルに腰かけた冒険者達が一斉にこちらを見て、慌てて目を逸らした。血走った目で睨んでくる奴も中にはいるが、立ち上がって絡んで来る者はいない。20人で襲いかかっておきながら、手も足も出せずに拘束されたと聞いているのだろう。
「あ、コレだね。『配達物紛失のお詫び』だって。イヴァンナの名前で書いてあるよ」
イヴァンナはやはり『手紙は紛失した』と言って、少額の和解金を支払うことで幕引きを図ろうとし、その申し出を手紙の受取人であるエルサは快く受け入れた。イヴァンナ名義の謝罪文をギルドの掲示板に貼ることを条件に。
冒険者を引き連れたイヴァンナが大敗したことは誰もが知るところだろうし、事情通は選帝侯家の派閥争いで功を焦り、謝罪に追い込まれたことも掴んでいるだろう。あのプライドの高そうな女にとって、自分のお膝元に敵対派閥への謝罪文を張り出すなんて、耐えがたい屈辱だろうな。
「アスカ、ここでは一応イヴァンナ様って言っとけ。絡まれると面倒だから」
「イヴァンナざまぁ」
「イヴァンナさま、な」
冒険者や職員のほとんどが聞き耳を立てているようで、ギルドは静まり返っている。俺達の会話は筒抜けだろう。神人族は一人もいないので目くじらを立てる者はいないが、これ以上、悪乗りし過ぎるのは止めておくか。
俺は冒険者達が軽食を取ったり、打ち合わせをしたりしているテーブルを見回す。目的の連中はすぐに見つかった。
「お、いたいた。失礼。ギルドマスターと一緒に俺達を襲った人達だよな?」
「あ、ああ、そうだが、文句は俺じゃなくてギルドに言ってくれよ。俺達は依頼を受けただけだ。神族様に逆らう気なんて、無かったんだよ」
壮年の央人族の冒険者は顔を青褪めさせて、助けを求めるように職員の方をチラチラと見ながらそう言った。いや、別にイジメようとしてるわけじゃないって。そんなに怯えなくても。職員達も無視するなよ、冷たいな。
「いや、武装を返したいだけだ。あの時にいた人達を集めてもらえないか?」
「えっ?」
冒険者はきょとんとした顔で俺を見る。
「俺達も身の危険があったから武装を解除させてもらったが、奪うつもりだったわけじゃない。武器や防具は安い物じゃないだろう? 希望するなら、全て返却する。協力してもらえないか?」
「あ、ああ、もちろんだ! 返してもらえるなら有り難い。おい、聞いてたか? 『荒地の剣』と『チーム・イジュマ村』、それと『漆黒の誘い』の誰かを探してきてくれ!」
あの時、てっきり【武具解体】したものと思っていたが、実はアイテムボックスに収納していただけだった。大した武具じゃ無さそうだから素材に解体せずに、そのまま収納して売り払おうと思っていたそうだから、別に善意ではないのだけど。そのへんは、安定のアスカだ。
「ぷふっ……漆黒の誘い……」
「コラ、ぶふっ…笑うなよ」
「アルだって、ぷぷっ」
マイヤさんに協力してもらい、奪った防具には【土装】を付与してある。天然石や魔石を核として仕込まないと、大した効果は望めないそうだが、奪う前より強度は増しているはずだ。冒険者達から無用な恨みを買わないようにと、そこまでしたんだから……笑うなってアスカ。ぶふっ……




