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騎士とJK  作者: ヨウ
第六章 驕慢たるアストゥリア
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第259話 地下墓所と不死者

「どうした? 何か用事があってここに来たんだろう?」


 俺はイヴァンナを見据えて、淡々とそう言った。


「貴様っ! 誰に向かって口をきいているのかわかっているのか!」


 俺の態度に我慢の限界が来たのか、後ろの男が乗り出すようにして語気を荒げた。


「さあね? 名乗りもしないで、誰かなんて知るわけが無いだろ」


「こちらは冒険者ギルド、エウレカ支部のマスター、イヴァンナ閣下だ! その不遜な態度をあらためよ!」


 閣下か。やはりこの国でも冒険者ギルドマスターはそれなりの立場を得るのだろう。ヘンリーさんも王国では伯爵相当の地位を得ていたしな。


「あ、そう。そう言えば昨日、俺達を尾行した奴がギルドマスターに依頼されたと言ってたな。なぜ俺達を尾行させたんだ?」


「貴様に質問は許可していない!」


 もう一人の男が唾を撒き散らすように叫んだ。立場を明かしても、俺がへりくだらないのが気に入らないらしい。


「なら、俺達も応じるつもりは無い。それじゃ」


 俺がそう言い放って立ち上がると、イヴァンナが俺を吊り上がった目で睨みつけながら、待ったをかけた。


「待ちなさい。ここで話すような内容ではないから、ギルドについて来いと言っているの。貴方は黙ってついて来ればいいのよ」


「尾行をつけたうえに、その理由も明かさず謝罪もしない輩に、ついて行くとでも?」


 相手が有利になる場所にひょいひょいとついて行くわけが無い。お供の男二人は敵意をむき出しにしているし、出入り口に人まで配置している。穏やかな話し合いをするつもりなんて最初からないんだろ? ギルドに行ったとたんに取り囲まれて拘束されるのがオチだ。


「愚かな……。所詮は央人族(ヒューム)の冒険者風情ね。この都で神人族に逆らうことが、どういう意味を持つかわからないのかしら?」


 ふむ……アルセニーさんの『神人族とは関わるな』という忠告から想像はしていたが、エウレカでは神人族というだけで、王国における貴族並みの特権を与えられるのか? 


「逆らう? 話がしたいなら、ここで話せと言っているだけだ。そんなに聞かれたくないのか? 『地下墓所(カタコンベ)不死者(アンデッド)が湧く』ことを……」

「黙りなさいっ!!」


 それまで高慢ではあるが冷静な態度を崩さなかったイヴァンナが、慌てて大声をかぶせた。なるほどね、やはり俺達に固執する理由は、俺がギルドで『地下墓所』と『不死者』について尋ねたからか。


 一応は周囲に聞こえないように、地下墓所と不死者のことを話す時だけ小声にしたが、この慌てようからすると決して周りに聞かれてはならない禁忌らしい。周囲の人に聞こえてないといいな?


「無礼討ちを許可します!」


 イヴァンナの金切り声と同時にお供の男達が、腰に佩いた剣を抜き放つ。ようやく許可が出たと言わんばかりに、その口元は愉悦に歪んでいた。


 でも遅いんだよなぁ、初動が。彼らが剣を掴んだ時には既に、【影縫】の黒い魔力の刃を投擲していた。男達は抜剣したところで、ピタリとその動きを止める。


「裏口から逃げるぞ!」


「了解なのです!」


「あぁー、やっぱりこうなっちゃったかー」


「ま、待ちなさいっ! ちょっとあなた達、何やってるの!!」


 【影縫】は、一時的に敵の動きを止めることができるスキルだ。さらに敏捷性を低下させる効果もあるようで、拘束が解けた後は僅かに動きが鈍くなる。


 拘束するのはほんの数秒だけだが、それだけあれば十分に逃げられる。『神人族には関わるな』は守れなかったけど、せめて『神人族に手を上げるな』の方だけでも守っておこう。


「止まれっ!」


 裏口の方に走ると、3人の冒険者と思われる者達が道を塞いでいた。神人族じゃないから実力行使で正面突破してもいいのだけど、せっかくだから熟練度稼ぎをさせてもらおうかな。


「【暗歩】」


「くっ」


「【影縫】」


「あ、えっ?」


 緩急をつけたステップを踏んで、冒険者達の振り回す武器を避けながら、【影縫】の刃を放っていく。次々と動きを止める冒険者達の横をすり抜け、俺達は裏口から旅館を出る。


「エースッ! 来いっ!!」


 旅館の裏口の側には厩舎に向かって叫ぶと、エースが馬房を破壊して飛び出して来た。ああっ、ゴメンナサイ、旅館の方! 今度、弁償しに来るから!


「待てっ!」


【大照明】(ライト・マキシマ)!」


「くっ……目がっ、目がぁぁっ!!」


 駆け寄ってきたエースの背にアリスが跨ったところで、神人族の男が追い付いて来た。一足飛びに詰め寄って目の前に強烈な光を放つ。


 あーあー、両手で目を覆っちゃってるよ。眩しいのはわかるけど、せめて防御姿勢ぐらい取ろうよ。頭を庇うとか、伏せるとかさ。


 俺は足払いをかけて神人族の男を転ばせ、反転してエースの背に飛び乗り、アスカに手を伸ばして引き上げる。さて、エウレカから脱出しますか。


「エースッ!! 全速で走れ(ギャロップ)!」


「ヒヒーンッ!!」


 エースは全力で走れる嬉しさからか、一際大きく嘶いた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 十数キロほどエースを走らせ、街道から逸れて高台に上ったところで俺達は一息つくことにした。高台の上は低木やら仙人掌やらの茂みがあるし、ある程度はエウレカから離れたから、とりあえず身を隠せるだろう。見晴らしも良いから、追手がかかっても気付きやすそうだし。


「朝ごはんできたよー」


 念のため周囲を探索し、地形を把握してから戻って来ると、アスカが食事を用意してくれていた。ああ、そう言えば朝食をとってなかったな。


 アスカが用意してくれたのは王都でまとめ買いしたパンと、作り置きしていたスープだ。ボビーに取り寄せてもらった牛の乳も添えてある。

 

「パンが焼きたてなのです!」


「アイテムボックスに入れると時間が止まるみたいなの。このスープもアツアツでしょ?」


「そういえば火を起こしていないのにスープが熱いのです。アスカのアイテムボックスはすごいのです!」


 数日前からアリスのアスカの呼び方が『アスカさん』から『アスカ』に変わった。いつまでも『さん付け』は嫌だとアスカがごねたからだ。俺も呼び捨てで良いと言ったのだが、それは拒否された。ちょっとアスカが羨ましい。


「エウレカ、追い出されちゃったね……」


「困ったな。あの旅館にいないと、エルサと連絡が取れないのに」


「だったらあんなに煽らなきゃ良かったじゃん」


「そうは言ってもな……。お供は殺気を飛ばしてくるし、出入口を冒険者で固められていたんだぞ? もう少し友好的なら話を聞いても良かったが、あれじゃあな。怒らせて情報を引き出すぐらいしか出来ないと思ってさ……」


「うーん。確かにあの人、感じ悪かったしね……。アリス、ごめんね。アリスのこと、何も解決してないのに、エウレカを出ることになっちゃって」


「すまなかった。俺がギルドで不用意に地下墓所と不死者のことを聞いてしまったから、こんなことになってしまった」


 そう言って、アリスに頭を下げる。


「しょうがないのです。避けようがなかったのです」


 アリスはそう言って、微笑んだ。


 まさか地下墓所のことを尋ねただけで、こんなことになってしまうとはな……。もし、イヴァンナがヘンリーさんと同様に伯爵並みの権力を持っているとしたら、そう簡単にエウレカに近寄れなくなってしまう。


「エウレカの人達は、もしかしたら地下墓所のことを知らないのかもしれないね」


「ああ。イヴァンナは周囲に聞かれていないか、ずいぶん気にしていた。おそらく聞かれたくなかったのは地下墓所のことだろう」


 墓所に不死者は付きものみたいなものだ。『地下墓所と不死者』の組み合わせ自体は、さほど耳目を惹くものではないだろう。


 だとすると、聞かれたくなかったのは『地下墓所』ということになる。地下墓所の存在そのものが隠されているということなのだろうか。


 帝都地下にある墓所に『不死者』が現れるっていうのも、民衆の不安を呼んでしまうだろうから、隠そうとしているってことも考えられるけど……。


「これから、どうしよっか」


「とりあえず、今日はここで休もう。なんとかエルサと連絡を取る方法を考えないとな……」


 エウレカに来たばかりだってのに、またガリシアの時みたいに野宿生活になってしまったな……。




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