表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士とJK  作者: ヨウ
第五章 蒼穹の大地ガリシア
220/499

第215話 竜の魔石

「ふむ……アルフレッド、アスカ殿、ご苦労だった。ガリシアへの食糧支援を行うこととしよう」


「承知しました」


 翌日、俺達はヘンリーさんとその妻のシンシアさん、ボビーとともに王城に登り、陛下に謁見していた。パウラから預かったガリシア氏族の族長ジオット・ガリシアの親書を陛下にお渡しすると、陛下はその場で王家からの支援を決定してくれた。


「元よりガリシアの災難はレリダに配置していた外交官から報告を受けていたからな。スペンサー辺境伯領からの支援物資は既に出発しているが、到着にはおそらくあと数週間はかかろう。其方らがそれまでの繋ぎの物資を運べると言うのなら、国庫の備蓄から早急に物資を手配しよう」


 御言葉の通り陛下はガリシアへの支援準備を既に始めていたようだ。


 元々、セントルイス王国とガリシア自治区は、農産物と鉱物資源を輸出入しあう友好国だ。遥か過去には戦争していた時期もあったが、国境を面しているとはいえ間にはナバーラ山脈を挟んでいることもあり、ここ何百年は小競り合いすら起こっていない。王国としてもレリダが陥落したままで、ガリシア氏族による統治が不安定になるのを避けたいのだろう。


「有難う御座います。冒険者ギルド、レリダ難民キャンプ特設支部より対価として多数の魔石を預かっておりますが……?」


「対価は不要だ。ガリシアに貸しにしておくさ。だが、そうだな……シンシア、スタントン准男爵、その対価で王家とは別に同量の物資を用意できるか?」


「すぐにご用意します」

「もちろんです!」


 シンシアさんと満面の笑みを浮かべるボビーが答える。


「王家から100トン、商人ギルドから100トン、計200トンを用意しよう。アスカ殿、その量でも輸送は可能か?」


「はいっ! 3,4トン入る箱に入れてもらえれば、大丈夫だと思います」


「よし。では輸送に関してはそなたらに一任しよう。二日後の昼にラファエル騎士団本部に取りに参れ」


「はっ」


 話の流れでアスカのアイテムボックスのことを説明せざるを得なくなったが、まあ今さらだろう。驚かれはしたが俺達は火龍(イグニス)の従者という事になっているため、アスカが異常なスキルを持っていたとしても、『神龍の祝福』ならばおかしいことではないだろうと納得してくれた。8種もの加護を持っている俺という実例もあるわけだしね。


 ただし、陛下からアイテムボックスについては決して口外しないようにと厳命された。ほぼ無尽蔵に、かつ簡易に物資を輸送することが出来るという、戦略的な影響力があるスキルなので当然だろう。


 陛下からは、このスキルを『王家の(ロイヤル)魔法袋(マジックバッグ)』だと誤魔化す許可を貰い、その偽装として王家の紋章が刺繍された本物の魔法袋を貸与してもらった。アスカのスキルに比べれば容量はかなり限定的だし、袋の口が開く程度の大きさの物しか入れることは出来ないが、おかげで革製のズタ袋を魔法袋(偽)として誤魔化す必要が無くなったわけだ。


 同時に、旅が終わったらアスカとともに本物の『王家の魔法袋』を返却に来ることを約束させられた。俺とアスカは確実に王家に取り込むぞ、という宣言のように聞こえたが気のせいだと思いたい。


 熱のこもった目線をアスカに送っていたシンシアさんは、陛下のお言葉に対しあからさまに口を尖らせていた。商人にとってもアスカのスキルは垂涎の的だからだろう。


「アスカさん! アルフレッド殿! お久しぶりです!」


「マーカス殿下、ご無沙汰しております」


「おひさしぶりでーす」


 陛下との謁見を終えて執務室を出ると、マーカス王子殿下が待ち構えていた。最敬礼する俺をよそに、アスカはひらひらと手を振り笑顔を向ける。


 おいコラ、アスカ……。淑女の基本作法はクレアから教わったはずだろうが。というか陛下には問題なく挨拶出来ていたのに、マーカス王子にはなんでそんなに馴れ馴れしいんだ!


「お元気そうでなによりです、アスカさん! ガリシアには無事に到着したそうですね」 


「うん。でも、すっごい遠かったですー。エースがいなかったら、まだ着けてなかったかも」


「エース……ああ、例の一角獣の従魔でしたか? 大変な旅だったでしょう。今日は王城でゆっくりして行ってください!」


「え? お城に泊めてくれるんですか?」


「ええ、もちろんです。アルフレッド殿も、ぜひ!」


「え、ええ。ご迷惑で無ければ……」


 なんだかマーカス王子がえらくアスカに懐いてないか……? 尻尾をぶんぶんと振りまわす小型犬を幻視してしまうんだけど……。まっすぐにアスカに向けるキラキラとした瞳といい、気安い会話と言い……。


 というか、アルフレッド殿「も」って言ったよね? 「も」って何? 俺はアスカのついで? あれ、なんか距離が近くない? もうちょっとさ、社会的距離を空けようよ。おいコラ、マーカスきゅん!?




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ほう……地竜(グランドドラゴン)の素材を大量に?」


「ええ。おかげで商人ギルドに薬師ギルド、鍛冶師ギルドを巻き込んで、てんやわんやの大騒ぎですよ」


「竜の素材は捨てるところが無いからな。牙や爪は武器に、皮や鱗は防具に、臓器や血液は霊薬に……。ヘンリー、もちろん王家の分も取り置いているのだろうな?」


 その夜、俺達は王城での晩餐会に招かれた。魔人族撃退後の晩餐会と同様に、王家の方々がホスト役として歓待してくれた。


 ホスト側は前回と同じく陛下と王妃陛下、マーカス王子殿下、第一王女、第二王女だ。ゲスト側は俺、アスカ、ヘンリーさん、シンシアさん、そしてボビーだ。


 ボビーは王族の方々と食事をする機会を得て、涙を流して喜んでいた。今はガチガチに緊張して顔色を土色にして固まっているけど。


「そ、それは……その、商人ギルドが大半の素材を買い付けておりましてですね……」


「あら。確かに半分はまわしてもらいましたが、まだまだ残りはあるでしょう? 30体分もの素材があったんですもの。ねえ、あなた」


「い、いや、それは」


「鍛冶師ギルドと薬師ギルドを競わせて値を吊り上げていましたよね。ああ、もしかして高値で売る代わりに、量を提供したということかしら? 貴重な素材だと言うのに、陛下のお耳にも入れずに?」


「ぐぬっ……、それは、その」


 しどろもどろになるヘンリーさんと口撃を緩めないシンシアさん。どうやら拳聖と言えども、奥様には全く歯が立たないようだ。


「ふむ、ならばシンシア。多少は我らにも回してくれよ?」


「ええ、もちろんです、陛下。適正な価格で、お譲りしますわ」


「はあ、シンシアには敵わんな」


 さすがは商人ギルドのマスターだけあって、シンシアさんは陛下相手にも一歩も退かない。陛下も苦笑いだ。


「5体分ほどで良ければ冒険者ギルドへの卸値でお譲りしますよ、陛下。まだ、素材はありますので」


 俺とアスカ用の防具を作るために10体分の素材を取っておいたのだが、鍛冶師ギルドの職人に聞いたところ全身鎧を作るとしても1体分もあれば十分なのだそうだ。別に大半を譲ってしまっても余るぐらいだ。


「それはありがたい。マーカスの親衛隊を組む予定があってな。その装備に使わせてもらおう」


「はい。それと、こちらは魔法袋の御礼に、献上させて頂ければ」


 そう言って俺は地竜の皮で作った革袋を、控えていた侍女に手渡す。侍女は中身を確認してから、ベルベットコートの宝石トレイに中身を取り出して王妃陛下に差し出した。


「まあ! 美しい宝石ね。 これはシトリン……? トパーズかしら?」


 王妃陛下と王女殿下に献上したのは地竜の魔石だ。40体も狩り殺した中で、特にレベルが高かった地竜から取り出したものだ。


 魔石は魔物のランク、そしてレベルが高ければ高い程に、秘めた魔力が強くなり、同時に透明度や純度を増していく。ゴブリンやホーンラビットのような貧弱な魔物の魔石は黒ずんだ小石のようにしか見えないが、Bランクの地竜や蛇鱗の怪鳥(コカトリス)にもなると、まるで宝石の様に美しくなるのだ。


 そして、これは俺も最近知ったのだが竜の魔石は竜石とも呼ばれ、その透明感と輝きから宝石としても扱われているのだ。竜種ごとにその輝きの色が異なり、火竜はルビーの様な鮮やかな赤、水竜や氷竜であればアクアマリンの様な神秘的な青となる。そして地竜の魔石は、アンバーやトパーズを思わせる輝く金糸雀(カナリア)色だ。


「竜石ですか? 美しいですね……」


 竜石の輝きに恍惚とした声を出したのは、第二王女のテレーゼ殿下だ。そのヘーゼルの瞳が竜石にくぎ付けになっている。


 この竜石の持ち主はかなり手強かったからなぁ。その輝きもそれ相応に美しい。まあ、強いとは言っても俺は【影縫】を乱発して動きを押さえただけで、実際に嬲り殺したのはダミー達なんだけど。


 ちなみに、これは俺達が狩った中でも、2,3,4番目に強かった地竜の魔石だ。一番強く、美しかった魔石は、アスカがちゃっかり確保している。アスカのアンバーの瞳に似合いそうだから、イヤリングとかネックレスに仕立てるのもありかも知れない。


「テレーゼ王女殿下の美しいブロンドとヘーゼルの瞳にお似合いかと思いますよ」


「まあ! ありがとうございます、アルフレッド様。ねえ、お母さま、お姉さま、この一番輝きが強いのを私が頂いてもいいかしら」


「あらあら、テレーゼ、お客様の前ではしたない」


「ふふっ、テレーゼが気に入ったのなら私は構わないわよ」


 王妃殿下がテレーゼ王女を窘め、第一王女殿下が微笑む。その様子を見ていると、王族とは言え普通の家族なんだなと、ほっこりとした気持ちになった。


「貴重な物をすまんな、アルフレッド」


「いえ、こちらこそ魔法袋を貸与して頂き、誠に感謝しております」


 そう言うと陛下は頭を下げる俺を見て、ニヤリと笑った。


「地竜の魔石は、ガリシアでは最も高貴な宝石として扱われている。氏族の族長やその後継者の婚姻の際には、竜石で指輪を誂えるそうだぞ」


「左様でございますか」


 ん? 何ですか陛下、その悪戯っ子の様な笑顔は……。


「時にアルフレッド。テレーゼも来年には成人でな。そろそろ婚約者を正式に決めねばならんのだ」


「は、はあ」


 ヘンリーさんとシンシアさんが、すうっと息を飲み込む音が聞こえる。いや、ちょっと、止めてよ、そういう反応。なんだか、すっごい嫌な予感がするんですけど……。


「侯爵家の跡取りに与えようと思っておったのだがな。同格の辺境伯の跡取りでも構わんのだ。なあ、アルフレッド」


「そ、そうでしょうか?」


 汗が背筋を流れ落ちる。ついさっきまで俺達の会話に加わらず、マーカス王子殿下と楽しそうに話をしていたアスカが、ジトっとした目で俺を見ている。


 いやいや、何この流れ。違うよね? 勘違いだよね?


 そして、カーティス陛下はたっぷりと間を置いた後に、笑顔を浮かべて口を開いた。


「ウェイクリング辺境伯の子、アルフレッドよ。この竜石は婚約指輪代わりと捉えて構わんのだろう?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ