実際にキルベト・クムランに短期間住んでみたが意外と快適だったよ
さて、色々と下準備をしてから俺達家族はキルベト・クムランへ向かった。
以前にキルベト・クムランに行った時のように水のたっぷりはいった水瓶、そこから水をすくって飲むためのカップ、硬めに焼いたパンとチーズやドライフルーツに小麦等の入ったツボ、魚をすくうためのタモ網、調理用のタジン鍋、地面に敷くためのものと体にかけるための薦、火を起こすための弓切り式火起こし器、獲物を捕まえるための弓矢に石器のナイフ、後は石鍬にタンドールのような粘土製の持ち運びできる壷窯型オーブンといった道具も一通り用意して、入るものは背負籠に入れて、薦は丸めて紐でくくりつけた。
あとは念の為、飲料水をろ過して飲めるよう、底を抜いた口の細いツボの口に布を詰め、抜いた底から灰、砂、砂利、小石を敷き詰めたものを一応持っていくことにした。
小石の上から水を注ぐことによりまずは小石で大き目のゴミを、砂利で少し大きめなゴミを、砂で小さいごみを、灰で微細なごみを吸着し、更に布を通すことで濁っていた水を浄化して飲めるようにする。
まあ煮沸は必要だけど、これで雨が多く降って川の水が濁ったときなどに、どうしてもその水を飲まないといけないときでもなんとかなる。
徳川家康が関東に移封になったときも飲水の確保には困ったらしく、こういった濾過装置を利用したりしたらしい。
エリコみたいに湧き水を飲料水として使える場所は本当に楽だと思うよ。
更に今回は山羊のカップルと仔山羊、ドングリなどの樹の実やナッツ、新たに蒔くためにの大麦や小麦にライ麦などの穀物なども葦船に乗せ、家族全員船に乗ってパドルで南に進んでいく。
山羊の乳は大切なタンパク源になるし、飲み残しても乳製品に加工すれば多少は保存が効くようになるからな。
まあ、タンパク源に関してが野生動物を狩ったり、クムラン川に住んでる小魚を取ればなんとかなるとは思うが、炭水化物は切り詰め気味になりそうな気がする。
これは穀物や芋の栽培面積を増やして対応するしか無いけどな。
というわけで家族全員船に乗ってパドルで南に進んでいく。
「アイシャ、今回も水に落ちないように気をつけながら魚をすくってくれるか?」
移動するついでに魚を掬っておけば食料として利用できるし、子どもたちの暇つぶしにもなる。
「わあったー」
とアイシャの暇つぶしついでに小魚をすくわせると息子も言った。
「ぼくもー」
「ああ、じゃあお前さんもやってみようか。
リーリス、息子が川に落ちないように支えてやってくれ」
「わかったわ」
ということでアイシャやアーキルがリーリスの補助を受けつつ魚をすくっては、捕まえた小魚をリーリスが活け締めして食料の確保をしているうちに、キルベト・クムランについた。
そして乾季には枯れて水無川となるクムラン川へ船をつけて、アイシャを船から下ろし、息子を背負ったリーリスに船から降りてもらい、ヤギたちも船から降ろして葦船を岸に引き上げて、背負籠を背負い手に荷物を持った。
今は水が枯れているクムラン川を上っていくと、チョロチョロと水が流れ始め、緑が見え始めた。
「よし、後ちょっとだぞ」
俺はリーリスにそのように声を掛ける。
「はいはい、じゃあとちょっと頑張りましょうか」
今回は子供二人に加えて山羊も連れてきているから大変かと思ったが、山羊は悪路や坂地を歩くのは大得意なので助かった。
そして岩山の山肌から水が吹き出して滝になっているところで水瓶に水を入れて飲水も補給する。
そして、休憩を兼ねた食事のため少し開けた場所で弓切り式火起こし器を使って火を起こし、木の枝を串の代わりにして魚を刺し、チーズを乗せたパンも火で炙る。
やがて魚に火が通るといい香りが漂ってきた。
「さて、そろそろ焼けたしくおうか」
「そうね」
「たべるのー」
「たべるー」
ちゃんと活け締めをした魚と、炙ったチーズを乗せたパンはとてもうまい。
しばらく休憩した後、俺たちは適当な大きさの洞窟ヘむかい、敷物を敷いて寝床を確保する。
洞窟の中は地下や井戸と同様に温度は15度くらいで、夏には快適だが寝るには少し寒いし、地面に体温を奪われるのもこまるからな。
洞窟には動物の生物相というものはあるが、そこまで大きな洞窟でなければコウモリなどが大量に住み着いていたりするわけでもないし、基本的には快適だ。
そもそも日干しレンガ住宅や竪穴式住宅などは、洞窟をそのまま人工的に模倣できるようにしたものだしな。
そして以前に、クムラン川のそばの地面を軽く耕してソルガムやミレットの種を巻いた場所を見てみたがちゃんと育っていた。
ソルガムは日本ではモロコシ、ミレットはシコクビエと呼ばれている雑穀で、蕎麦・アワ・ヒエ・キビ等の雑穀と比べるとマイナーだが四国あたりでは結構栽培されていたらしい。
ソルガムやミレットは本来、熱帯から亜熱帯の植物で、野生のものはかなり古くから人間は食用にしてきた作物でもあり乾燥にも強く、稲や麦などが育たない地域でも芋同様に栽培が可能なのが強みだ。
ちなみにソルガムは食用をはじめ飼料、醸造、精糖、デンプンやアルコールなどの工業用など非常に用途が広く、穀物としての生産量ではコムギ、イネ、トウモロコシ、オオムギ(大麦)に次いで世界第5位の世界的に見ればメジャーな穀物でもあるんだ。
問題は野生種のソルガムやミレットは最大3メートルになるほど高く育ってしまうので、収穫が大変だということだが。
あと、これらの連作は可能であるが、可能なだけで地力は落ちるから、輪作をしたほうがいいんだよな。
エリコやエジプトみたいに洪水によって地力が回復したり、塩害の心配がなかったりするのはこのあたりの地域では珍しいんだ。
あと雑穀でも酒は作れるので、余るようになったら酒を作ってみるのもいいかもな。
穀物については麦も栽培するつもりだが、万が一に備えて、雑穀や芋もそれなりに量を確保できるようにしておくべきだろう。
現状では麦はまだまだ野生種に近く、収穫量が確保できるわけではないからな。
それから低めだが鳩の塔になるものを立てるため日干しレンガを用意しておこう。。
ここに鳩が住み着いてくれれば肉や卵の確保が楽になるからな。
ダメそうだったらアヒルやガチョウを連れてくるようにするしか無いが、鳩の繁殖力は高く比較的どこにでも居るからなんとかなる気がする。
さらに、ここに恒久的に住むようになった場合ここがエリコの衛星都市だとわかるように目印となるものを作りたいと考えた結果、旗を作ることにした。
この時代でも木材と布と色の違う糸や針があれば旗は作れるからな。
ただあまり意匠が複雑なものを作るとなると大変なので、簡単でわかりやすいものにしたいと思ったがそれなら日の丸でもいいかもしれない。
問題は赤色の顔料をどうするかだが、日本ではベンガラと呼ばれていた酸化鉄を主成分とする赤色顔料なら手に入りやすい気がする。
原料となる赤鉄鉱や黄土は他の顔料に比べて比較的入手がしやすく、古くから土器、陶漆器や家屋など、工芸品等に多く利用されてきたものでもあり、人体に無害で経年変化にも強く、繊維素材の染色にも利用されている。
ヨーロッパでは、1万7000年以上前に描かれたと推定されるフランスのラスコーやスペインのアルタミラの洞窟壁画にも使われらしいからこの時代の技術力での加工も難しくはないだろう。
ただキルベト・クムランには機織りの道具などは持ってきていないので、本格的な旗作りはエリコに戻ってからだな。
すでに一泊の宿泊などはしていたので下地は出来上がっていたが、現状でも短期間の居住であれば充分な環境を整えられそうだ。




