第96話 ゴブリンの知恵
「ゴブッ――」
こちらに向かってくるゴブリン三匹を認めた後、紅葉たちを導いてくれているゴブリンが声を上げ、来た道を引き返し始めた。
「え? どこに?」
「先生急いで!」
怪訝な顔を見せる森下を紅葉が促した。他の生徒もゴブリンの後についていく。何事かと思う森下だが、他のゴブリンの声が聞こえ始め焦ったように後に続いた。
「ど、どうするの! あんなモンスターに勝てるわけない!」
「ゴブッ!」
森下の質問に答えるようにゴブリンが声を上げ指をさした。その方向には先程スルーした分岐点があった。直進か右に行くかと別れた道である。
前を行くゴブリンがそこを右折した。子どもたちと森下もそれに従う。
「ちょ、行き止まりじゃない」
森下が緊迫した声を上げた。確かにこのまま直進したところで先には壁があるだけなのである。
「ゴブ――」
するとゴブリンが一旦足を止め、手を広げ皆を制止した後、壁に背をつけカニ歩き状態で進みだした。
「ちょ、そんなのんびりしてると追いつかれる!」
慌てる森下。ゴブリンは途中で壁から背を離し、皆に何かを訴えた。
「もしかしたら真似をしてこっちまでこいってことなのかも」
「うん! きっとそうだよ!」
健太がゴブリンの意図に気が付き、紅葉と桜が真似をして壁に背をつけて進んだ。その後で健太や他の子どもたちが続き、最後に森下が残った。
「先生早く!」
「わ、わかったわよ」
生徒に促され森下もカニ歩きで移動する。わざわざこんな真似をする理由が森下には分からなかった。
そして森下が皆と合流するとほぼ同時に三匹のゴブリンが通り掛かり森下と生徒たちに気がついた。
「ギャギャッ!」
「ギャッ!」
「ギィギャッ!」
するとゴブリンが耳障りな声をあげながら森下と生徒たちの方に疾駆してきた。
「ちょ、こっち来た! 皆私の後ろに!」
森下は膝を震わせながらも生徒たちを守ろうと前に出た。恐怖で顔も強張っていたが、駆け寄ってきたゴブリンが突如視界から消えた。
なんと途中の地面が抜け、三匹のゴブリンが真っ逆さまに落ちていったのである。
「え? 穴?」
「そうか。罠だよ先生! ここに罠があったんだ」
何が起きたのか理解できていない様子の森下に向けて健太が言った。他の子どもたちも暫く戸惑っていたが話を聞いて顔に笑みが浮かんだ。
「そうか。ゴブリンくんはこの罠の事を知っていたんだね。凄い凄い~」
「ゴブ~」
紅葉がゴブリンを褒め頭を撫でるとゴブリンも喜んだ。撫でられたのが嬉しかったようである。
「あれ? 何か出てきたよ」
すると生徒の一人が行き止まりの方を指差して声をあげた。全員が振り返ると壁際に一つ宝箱が出現していた――




