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親友に裏切られ婚約者をとられ仕事も住む家も失った俺、自暴自棄になり放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました  作者: 空地 大乃
第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編

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第95話 ゴブリンの手助け

 ダンジョンに落ちた教師の森下と子どもたちの前に一匹のゴブリンが声をかけてきた。


 警戒する森下だったがゴブリンに襲ってくる様子はなく、手招きしてどこかに導こうとしているようだった。


「どういうことなの? 一体何を企んでるのよ――」


 森下は警戒心を顕にしていた。一方で紅葉は手招きしているゴブリンに注目し、笑顔を見せた。


「きっと、あの子は私たちを助けようとしてくれているんだよ!」

「そ、そうなのかな。でも、悪い子じゃなさそうだよね」


 紅葉の言葉に桜も同意して頷いてきた。健太は少し腰は引けているが二人の考えに同調しているようではある。


「落ち着いて。私の記憶が正しいならあれはゴブリンというとっても恐ろしいモンスターなのよ」


 しかし森下が子どもたちを引き止め諭すようにいった。子どもたちの担任として自分がしっかりしなければと気を張っているようでもある。


 そんなやり取りを見ていたゴブリンは目を伏せ、そしてトボトボと歩きだした。その背中はどこか寂しそうであり。


「待って!」


 紅葉はゴブリンを追いかけるように駆け出した。森下が慌てて止めようとするが、紅葉は存外足が速い。


「えっと、ゴブリンくん?」

「ゴブ?」


 紅葉がゴブリンの腕を取り声を掛けると、振り返ったゴブリンがジッと紅葉を見てきた。


「貴方、良いゴブリンよね?」


 顔を少し傾けながら微笑みかける紅葉。少々戸惑っている様子のゴブリンだったが、笑顔に安心したのかゴブリンも笑顔を見せた。


「笑ってるよ。やっぱり良いゴブリンなんだよ」


 森下の袖を引っ張り紅葉とゴブリンに向けて指をさしながら桜が言った。


 しかし森下は困惑していた。


「確かに襲ってこないし、よく見ると他のゴブリンとちょっと違うようだけど……」


 森下は改めてゴブリンの姿を確認し呟いた。目の前にいるゴブリンは最初に見たゴブリンと比べると顔も丸みがあり親しみやすさも感じられた。

 

 ただ、森下としては信用していいか不安を拭いきれないようである。


「先生、もし僕たちを襲うつもりなら。すぐに襲ってくるか仲間を呼んでくると思う。だからあのゴブリンは本当に良いゴブリンなんだと思うんだ」


 健太が森下に訴えた。森下としてもそう言われてみればと一考する。


「それにこのままじゃ危険だよ。今は信じるのがいいと思うんだ」

「そう、かもしれないわね」


 健太の言葉に森下も納得を示した。同時に小学生に諭されたことで自分が情けなくも感じる森下であった。


「私がしっかりしないと! わかったわ。その、案内してくれる?」

 

 森下が問いかけるとゴブリンがコクリと頷き、先を進んだ。そんなゴブリンの手をいつの間にか紅葉が握っていた。


「誰とでも仲良く出来るのはいいけど、やっぱり心配だわ」

「ゴブ~?」


 不安がる森下を振り返りゴブリンが小首を傾げた。その後、再びゴブリンが前を行き森下たちも大人しくその後についていった。


 ダンジョンは細長い道が続いていた。これだけ狭いと息苦しさも覚えそうなものだが、ダンジョンでは空気には余裕があるようで、苦しがっている生徒はいなかった。

 

 ただ異質な雰囲気のあるダンジョンである。森下は圧迫感も覚えているようで終始不安げであった。


 横穴は途中で一つ分岐があったが、ゴブリンはそれを無視して直進し、森下と生徒たちもその後をついていった。


 するとゴブリンの足が止まり頭を巡らせ森下と目があった。


「な、何? ま、まさかエッチなこと考えてるんじゃ!」

 

 声を上げる森下に向けてゴブリンが指を立てた。静かにするようにということなのだろう。


「先生静かにしよ?」

「う、うん。そうだね……」


 生徒に指摘され森下の頬が赤く染まる。勝手な思い違いをしたことが気恥ずかしくなったのだろう。


 ゴブリンの視線の先はT字路になっていた。道は曲がりくねっている為、今の位置は向こうからは視認出来ない。不気味な声が大きくなってきた。


 T字路の左右からゴブリンが近づいてきたようである。


 そしてT字路で合流したゴブリンが何かを話しているようだった。


「ギャギャッ」

「ギィ、ギャッ!」

 

 ゴブリンと一緒に覗き込んでいた紅葉は固唾をのんでその様子を見ていた。このままゴブリンたちが互いにすれ違って移動すれば問題ない。


 だが、もしこっちに向かってきたら――そしてその不安は現実の物となった。三匹のゴブリンが紅葉たちの方に向かってきたのである――

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