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親友に裏切られ婚約者をとられ仕事も住む家も失った俺、自暴自棄になり放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました  作者: 空地 大乃
第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編

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第92話 違い

 そのゴブリンは仲間たちの間で疎外感を覚えていた。それは自我を持ち始めてから感じたことだった。 

 ゴブリンは元々身長が低いがそのゴブリンは他のゴブリンの中でも更に一回りほど小さく、更に言えば見た目もどこか違う気がしていた。


 ゴブリンの多くは角が生えているがそのゴブリンには角がなく顔立ちも他と比べると丸みがあり、他のゴブリンの鼻は鈎鼻なのに対し、そのゴブリンの鼻は団子のような鼻であった。

 

 鳴き声にも違いがあり、他のゴブリンの声は聞いているだけで耳障りに感じるほどの物であった。だが他のゴブリンと鳴き声が違うにも関わらず意思疎通に関しては基本的に問題なかった。


 ただ、そのゴブリンの声は他のゴブリンからすれば気弱な物に感じるらしく、その為かそのゴブリンは他のゴブリンから馬鹿にされることが多く、暴力を振るわれることも多々あった。


 次第にエスカレートしていく暴力は身の危険さえ覚えるほどであり、次第にそのゴブリンは他のゴブリンと距離を置くようになった。


 何故自分だけが違うのか。何故他のゴブリンから毛嫌いされるのか時に悩んだこともあったが、次第に自分と考え方そのものが違うことに気がついた。


『ついに入口が開かれるらしい』

『ボスが言っていたから間違いない』

『餌が向こうからやってくる。メスが向こうからやってくる』


 ある日ゴブリンたちがそんなようなことを話しているのを聞いた。ボスと言っているのは文字通りここで暮らすゴブリンを取り纏めている存在だ。


 そのゴブリンも一度見たことがあるが、自分や他のゴブリンよりも遥かに大きく恐ろしい顔をした存在だった。見ているだけで恐怖で足が竦む、明らかに自分たちとは違い同じゴブリンとは思えないほどであった。


 そんなゴブリンが口々に話している餌、それが一体何かそのゴブリンにはまだわからなかった。


 しかしもしその餌が他のゴブリンに見つかったら――そう考えると胸が締め付けられるような気持ちになった。その時点で明らかにそのゴブリンは他のゴブリンと異なっていた。


 そして――遂にその日がきた。入口が開いたと沸き立つゴブリンたち。それを覗き見ながらそのゴブリンは単独で行動した。


 移動中で、何かがいるようだぞ、という声が聞こえた。ゴブリンはどうやら餌の存在に気が付き始めているようだった。


 それをこっそりと聞いた後、そのゴブリンも行動を開始した。他のゴブリンに見つからないように、慎重に時に大胆に、そして見つけたのだ。


 自分や他のゴブリンと明らかに違う存在に。その中には自分よりも大きな存在とゴブリンとそう変わらない大きさの存在がいた。


 そして大きな存在はどうやら小さな存在を守ろうとしているようだった。他のゴブリンから虐げられてきた自分には信じられないような行為であったが、だからこそ考えたのだろう。


 奴らの犠牲にはしたくない、と――

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