第87話 復帰した鬼輝夜
「ほら。これはあたしらからのお礼参りだよ」
「頭~それを言うならお見舞いでしょ~」
鬼姫がベッドの横に箱を置いた。それに対して蓬莱がツッコミを入れていた。まぁ確かにお礼参りだとちょっと物騒だな。
「チキンか~ありがとうな。皆も喜ぶよ」
「ワンワン♪」
「ピキィ~♪」
「マァ~♪」
俺の言葉に合わせるように三匹も嬉しそうな声を上げた。
「これは、飲み物。飲食に制限はない?」
「あぁ、それは問題ないみたいなんだ。本当にありがとう」
竹取が袋を差し出してきた。中身はお茶やコーラなどだった。お見舞いということで俺はありがたくそれを受け取ることにした。こういうのは遠慮するのは逆に失礼になったりするからな。
「それにしても、鬼輝夜の皆にまで知られてるとは思わなかったよ」
お見舞いに来てくれた鬼輝夜の面々を見ながら思ったことを伝えた。入院から検査まで終わってるから、それなりに時間が経っていると言えばそうなんだけどな。
「活動再開するからね。その為にギルドにいって風間の事が耳に入ったのさ。それで詳しく聞いてバイク飛ばして来たってわけさ」
「ちなみに法令速度は遵守しているからな! 夜露死苦!」
念を押すように十五夜が声を上げた。昔はヤンチャしていたらしいけど、今は真面目にバイクを飛ばしているんだな。
それにしても、そうか鬼輝夜も本格的に冒険者として復帰するんだな。
「何かいつの間にか賑やかになっているね」
病室のドアを開けて秋月が入ってきた。手には料理の乗ったトレイと肩には袋が掛けられていた。
「お邪魔してるよ」
「あ、ありがとうございます」
秋月に声をかけつつ鬼姫がサラリとトレイを受け取っていた。う~ん動きがスマートだなぁ。
「晩飯みたいだねぇ。でもこれだけじゃ足りないだろう」
チキンの箱を端にやりつつ鬼姫がトレイを置いてくれた。入院で夕食も出るとは聞いていたんだよな。でも確かに量はそんなに多くはないかも。一緒に缶詰も三つあったけどこれはモコたちの分か? うん、絶対足りないな。チキンを差し入れしてくれた鬼輝夜には感謝しかない。
「ありがとう。秋月も悪いな」
「いいんだよ。丁度そこで食事が運ばれてきたの見たからね」
そして着替えもここにおいておくね、と秋月が備え付けの収納棚を開けた。何だか色々としてくれて嬉しいやら申し訳ないやら。
「何かこうやってみてると仲の良い夫婦みたいだねぇ」
「ひゃ、ひゅ、ひゅうふッ!?」
驚いた秋月が持っていたカバンを落とした。鬼姫は本当に唐突に何を!
「もう~からかっちゃ~駄目ですよ頭。ここに入れておけばいいんですよね~」
「あ、はい。すみません」
「これぐらいなんでもないですよ~あ、そうだ~ハルく~ん、後で~着替えを手伝いましょうか~」
「ブホッ!? ゲホッゲホッ!」
「おいおい大丈夫か?」
「クゥ~ン」
「ピキィ~」
「マァ~」
急にとんでもないことを言われて、口に含んだお茶を吹き出しそうになったぞ! 咳き込む俺を鬼姫が心配してくれてモコたちが背中を擦ってくれた。というかハルくんって俺のことか!?
「蓬莱さんもあまり風間さんをからかわないでくださいね」
「え~? 本気で心配しているのになぁ~」
「あはは、だから冗談ですよね?」
「冗談かなぁ~?」
「おいおい、何かあの二人の間に火花が見えるぞ」
何故か牽制し合っているようにも感じられる秋月と蓬莱を見て鬼姫が物騒な事を言った。いやいやなんで二人がそんなことに!?
「……何か怖い」
「これは熱いメンチの切り合いだぜ!」
竹取が静かに口にし、十五夜は何故か興奮しているんですけど!
「ワ、ワオン……」
「ピ、ピキィ~……」
「マ、マァ~……」
一方でモコ、ラム、マールの三匹は二人の様子をちょっと怖がってるようでもあった。うん、気持ちはわかる。
「しかし銃で撃たれた割にケロッとしているもんだな」
「えぇ。治療師の方が優秀だったのと駆けつけてくれた子もジョブが僧侶だったので、色々な助けがあって五体満足でいれてる感じですよ」
「助けてくれる仲間がいてくれてよかったな」
鬼姫に説明すると十五夜が頷きながらそう口にした。確かに愛川にも後で改めてお礼を伝えないとな。
「私~撃たれたって聞いて~凄く心配したんですよ~」
「それは私も一緒だよ! 電話をかけたら風間さんの代わりに香川さんが出て話をしてくれて、本当に心配したんだから」
蓬莱と秋月がそう口にする。そっか、香川さんが対応してくれたんだな。於呂の事といい本当今回は世話になりっぱなしだな。
「……それでも、撃たれてここまで元気なのは、流石風間の姓を授かりし者」
「おいおい、またその話かい奥菜?」
俺を見ながら言った竹取に、鬼姫が呆れたような視線をぶつけた。だけど竹取は言葉を続けた。
「風間夫妻は凄まじい。特に夫の風間 仁は一度は大怪我で引退も囁かれた程なのに奇跡の復活を遂げた人」
「大怪我、確かに風間さんに通じる物があるかも……」
竹取の話を聞いた秋月が静かに呟いた。いや、俺はあそこまでの大怪我じゃないんだけどな。
「ま、確かに凄い人ではあるよな。確か四肢を失うほどの大怪我だったらしいが、魔導義肢というのを使って復帰したらしいからな」
「……そう! しかもその魔導義肢は当時、実験段階。成功するかは賭けだった。でも厳しいリハビリと適合テストを乗り越えて冒険者として復活した!」
竹取が目を輝かせて話した。うん、まぁその通りなんだけどな。俺もまさかあれだけの状態から復帰するとは思ってなかったな……当時はそこまでして冒険者を続ける親父の事が理解できず、冒険者なんかなるもんじゃないなと思って諦めていたつもりだったけど――結局は俺も冒険者になってしまったよ。
しかし今回の件とか、もし親父たちの耳に入ったらどんな顔するだろうか。まぁ結局無事だし連絡が行くこともないだろうけど――




