第84位 助かった風間
「本当に、本当に良かったよぉ~」
「もう! 本当に驚いたんだから。トイレに行くっていって中々戻ってこないから何かと思ったら、う、撃たれてるなんてぇ」
秋月の目からは涙がボロボロとこぼれていた。よく見ると愛川たちの姿もあり、中山と熊谷も安堵の表情を浮かべて俺の事を見ていた。
「いや、なんかごめん。心配かけたみたいで」
「全くだぜ。しかし、あの野郎ここまで危ない奴だったなんてな」
「銃で撃たれたと聞いた時は肝が冷えたものだぞ」
モコたちを撫でながら中山と熊谷の話を聞いた。記憶を呼び戻すのに若干の間が必要だったが、思いだした。確かに於呂って奴は予想以上に危険な奴だったな。
「でも、俺どうして助かったんだ?」
「回復魔法のおかげよ。そこの愛川さんにもしっかりお礼を言うことね」
声を掛けてくれたのは香川さんだった。そういえば愛川のジョブは僧侶だと言っていた。そうか俺は愛川の魔法に助けられたのか。
「愛川さんのおかげで助かったんだな。本当にありがとう」
「うぅ、私だけじゃないよ。あんな大怪我、私だけじゃとても無理だったもん」
「ギルドに控えていた腕利きの治療師が駆けつけてくれたんだよ。だけど、それまでの時間を稼いでくれたのは間違いなく愛川だぜ」
「そういうことだ。風間に魔法を掛けてくれた職員も愛川の魔法がなければ危なかったと言っていたからな」
そうだったんだな。愛川には感謝してもしきれない。それにいろんな人に迷惑をかけてしまったんだな俺。
「そういえば、あいつはどうなったんだろうか?」
「於呂なら捕まったわ。今頃はギルドの牢に入れられてる頃よ。取り調べも行われるでしょうけど、結局冒険者の資格は得られていないから何れ警察に引き渡されると思うわ」
そう説明してくれたのは香川さんだった。そういえば――俺は最後に見た光景を思い出し、彼女に話しかける。
「最後、香川さんがあいつにハイキックを決めるところを見ました。強かったんですね。俺の出番なかったかな」
自然と頬を掻きながら伝えると、彼女の顔が険しくなった。
「当然です。講習で指導官を務める以上、身を守る術ぐらい心得てるのですから。でも貴方は違うはずです。まだ冒険者としても未熟な貴方が何故あんな無茶をしたのですか!」
香川さんが声を張り上げた。俺の行動が軽率だったと怒っているのだろう。確かに今思えば無茶が過ぎた。それはわかっているのだけど。
「申し訳ないです。ただあの場はとにかく必死で、香川さんが危ないと思って体が動いてました」
「――浅はかですね。あの男の命令に従ったのは油断を誘う為でした。実際あの男の意識は私に向いていた。貴方さえ余計な事をしなければ、私一人でも取り押さえられたのです」
「返す言葉もありません……」
頭を掻きながらお詫びの言葉を述べていた。結局皆に心配だけ掛けてしまったな。
「そ、そんな言い方ないんじゃないですか。風間さんは貴方を助けようとしたんですよね!」
しかし秋月は納得していないようで香川さんに食って掛かった。俺のことで揉めるのは流石に申し訳ない。
「いいんだ。俺が考えなしに行動したのは事実だし」
「でも!」
「貴方がそんなことを言えるのも彼が無事だったからでしょう? だけどもしその行動のせいで帰らぬ人になっていたら? それでも同じ事が言えるかしら?」
「え――」
彼女の言葉で秋月が喉を詰まらせた。俺が死んでいたら、か。
「貴方がした行動はそういうことなんです。助かったのは運が良かっただけ。もし死んでいたら貴方の行動で多くの人が悲しみ心に傷を負った事でしょう。これから冒険者を続けるつもりなら、そのことを肝に銘じて自分のことももっと大事にしなさい」
「――はい、わかりました」
「クゥ~ン」
「ピキィ……」
「マァ~……」
か細い声を発する三匹を見た。もし俺に何かあればモコ、ラム、マールも悲しませることになるだろうか。
「ま、まぁこうして無事だったわけだしな。とりあえずそれでいいじゃねぇか」
「そうだね。命あっての物種だし」
「うん。無事なのが何よりだよ~」
熊谷の話に倣うように菊池と大町も声を上げた。何か重たい空気になったから、雰囲気を変えようとしてくれたのかもしれない。
それでも若干微妙な空気が流れていたが、その時、出入り口のドアが開き、中山にも負けていない筋骨隆々の男が姿を見せた。
「風間! 怪我したって聞いたぞ! 大丈夫か、て何だ案外元気そうじゃないか」
そう言ってガッハッハと笑ってみせたのは小澤マスターだった。突然の来訪に皆がキョトンとしている。それにしても何か色んな人に俺が怪我したこと知られてしまってるんだなぁ~。




