第74話 農民VS筋肉
講習で中山と試合することになった。この試合ではスキルを制限するブレスレットを外して良いことになっている。
「それでは試合を始めてください」
「うむ! 我が筋肉に淀みなし! ゆくぞ! 筋肉増強!」
試合開始の号令と共に中山の筋肉が大きく盛り上がった。ただでさえ分厚い筋肉の層がより一層厚く逞しくなっていく。これが中山のスキルか。筋肉に自信がありそうとは思ったがスキルも筋肉関係とは驚きだ。
中山は特に武器を持っていなかったが、それだけ肉体に自信があるということだろう。己の体が一番の武器といったところか。
「これが俺のジョブ筋肉術師のスキルだ。まさに筋肉が俺の愛に答えてくれた結果なのだ! マッスルーーーー!」
筋肉を誇示するポージングを決めて中山が声を張り上げた。な、中々暑苦しいな。しかし筋肉術師とかとんでもないが中山に実にマッチしたジョブだな。
「さぁ語り合おうじゃないか。互いの筋肉の素晴らしさを」
中山がフンッフンッとポーズを変えながらいい笑顔を見せていた。とは言え盛り上がる筋肉の圧力が凄まじい。
「さぁ奏でよう俺の筋肉の行進曲を! 筋肉大砲!」
言うが早いか中山が畳を蹴り俺に向けて一直線に飛んできた。いや頭突きかよ!
「あぶな!」
「ワゥン!?」
「ピキィッ!?」
「マッ!?」
横に飛んで避けた俺の耳に三匹の声も聞こえてきた。中山の行動に驚いたようだな。俺もだ。まさか頭突きとはまさに脳筋。
「やるではないか。それでこそ筋肉だ!」
「いや、意味がわからないんだが……」
避けた俺の横をすっ飛んでいった筈の中山は既に立ち上がって腕組みし嬉しそうにしていた。正直俺は筋肉には自信がないぞ。
中々驚かされたがこっちも黙ってばかりとはいかない。ただ俺の持ってる棒で鍬術が使えるかと言うと疑問だ。そうなると教わった技術だけで乗り切るしか無いか。
「ハッ! ハッ!」
「ムッ、むぅ!」
俺は出来るだけコンパクトに動いて棒で突き、時には振り中山に当てていった。この筋肉にダメージが通るかと言うと微妙だが、中山は嫌がっているな。
「やるではないか。だが効かぬ! 筋肉大旋風!」
すると中山が豪快に回転し両腕を振り回した。これはまさに筋肉の暴力だな。回転力も凄まじく筋肉が唸り声を上げているようだ。
だけどこれだけ回転していれば意外とダメージが通るかも? 俺はカウンターのダメージに期待して思い切って中山に突きを放ったのだが――バキッと言う音がして棒が砕けてしまった。この棒じゃ鋼のような中山の筋肉に敵わなかったか。
「武器が折れましたがどうしますか?」
「あ、それじゃあ俺の負けで」
「何ィ! これで終わりだと言うのか! 筋肉ショック!」
香川に聞かれたので俺は負けを宣言したが中山は随分と驚いていた。まぁこれが漫画の主人公とかなら、例え武器が折れても戦い抜く! と言うのかもだけど、流石にジョブが農民の俺では武器なしだとキツイからな。最初に負けても講習に影響はないと聞いていたし。
「期待させてたなら申し訳ないけど、それだけ貴方の筋肉が凄かったということですよ」
「おお! わかるかこの筋肉美が!」
ショックを受けていた中山の筋肉を褒めると、嬉しかったのか更に様々なポージングを決めてきた。クセは強いけど慣れると親しみが湧いてきた気がする。
「悪いな負けた」
「ワン!」
「ピキィ~!」
「マァ!」
「まぁ仕方ないよね。無理して怪我するほうが影響でそうだし」
ちょっと不甲斐なかったかなと思いつつも皆に話すと、モコ、ラム、マールは励ましてくれるようにすり寄ってきてくれた。
そして愛川もモコたちに同調してくれたようだ。そう言ってくれると俺も気が楽になるな。
ちなみにこの後、一人余るということで中山がもう一試合こなしていた。そこでは見事に筋肉の力を見せつけ勝っていたな。
「ここでの講習はここまでです。次の場所に移りましょう」
そして俺たちは再び香川の後をついて行った。最初に言っていた通り今の試合では落とされる人はいなかったな。いや最初のテストといい本来は落とされるようなものではないのかもしれない。
そう考えるとあの於呂って男のヤバさが際立つな――そんなことを考えていると俺たちは裏口を通り外に出ることになった。香川が足を止めた先は庭のようになっていてその先にマンホールより一回りぐらい大きそうな穴が空いていた。
「ここでは皆さんにダンジョンを探索してもらいます。難易度の低いダンジョンではありますが決して油断しないようにしてください」
そして香川が次にやることを説明してくれたわけだが、まさかここでダンジョンに挑むことになるとはね――




