第71話 用紙の中身
「それでは最初にこれを配ります」
講習が始まり、香川さんが前の席に次々と用紙を置いていった。そして彼女の指示で一枚ずつ回されていく。用紙は二枚あるようだった。
「手元に回ったら指示があるまでこれは裏返しにしておいてください。それと――」
言われた通り用紙を裏返しにして待っていると、香川さんが俺の前までやってきた。な、何かやらかしたかな俺?
「テイムしているモンスターには一度前に出てもらいます。私の隣に席を用意するので控えておいてください」
香川さんがそう指示してきた。なるほどこの用紙と関係ありそうだな。
「悪いけど皆。香川さんについていってくれるかな? これが終わるまでだからさ」
「ワン!」
「ピキィ!」
「マァ~!」
三匹が立ち上がり彼女の側に立った。本当、素直でいい子ばかりだなぁ。
「ハハッ、目障りだから追い出されるってわけか。ザマァ」
いや、だれもそんなこと言ってないだろう。
「勝手な憶測で決めつけないことね。一時私が預かるだけよ。貴方はさっきも揉めていたようだけど、そういうところも見ていますからね」
「――チッ」
振り返り香川さんが指摘すると、舌打ちしてドレッド男が目を逸らした。流石に指導官相手にあんな失礼な態度は取れないか。まぁさっきのやり取りは既に彼女に見られていたようだが。
「それではプリントを表にしてください」
香川さんの声を合図に、俺は裏返していた用紙をひっくり返した。見るにどうやら選択式のちょっとした問題になっているようだ。
「私が始めといったら、プリントに記載された問いを確認し解答用紙に記入していってください。問いは全て選択式になっています」
なるほどね。それで二枚配られたわけか。学校や教習所の授業を思い出すな。
「それでは――始め!」
香川の合図に従って俺も内容を確認した。モコたちを離されたのはこれがあったからか。勿論そんなつもりはないが、テイムしたモンスターを悪用して他の席の解答を見てしまう奴もいるかもだからな。
それはそれとして、俺は問いを確認していくが別に難しい問題ではないな。わりと常識的な問いにとどまっている気がするが――
問5
冒険者は当然日常的にスキルを行使してしかるべきである。
Aはい
Bいいえ
――これはBのいいえだな。基本的にダンジョン以外での使用は厳禁な筈だ。
問9
モンスターに大事な人が襲われている。助けるべきはどれか?
A母親
B友人
C恋人
D同業の仲間
E筋肉
F誰も助けない自分の命こそが最優先
G私はこの中からは選べない
――急に選択肢多いな! てかEだけ系統違いすぎない!? まぁGか。
問15
あなたはモンスターをテイムしてダンジョンに向かい強敵と遭遇しました。今の貴方ではとても敵わない相手です。以下から最適な行動を選べ。
Aモンスターは道具と一緒なので囮にして逃げる。
B自分だけが残り、先にモンスターを逃がし助けを呼んでもらう。
C例え1%でも可能性があるならモンスターと協力して強敵に立ち向かう!
Dモンスターと協力して全力で逃げる。
E筋トレ
いやAはありえないだろう! それを見捨てるなんてとんでもない! かといって勝てるかわからないのに挑むのもなぁ。自分だけが残るにしても耐えきれるかわからないし――そしてEは何だよ意味わからないよ! まぁDかな――
問18
貴方はパーティーを組みダンジョンに挑みました。探索は万能タイプなリーダーと貴方と戦士系のジョブ持ちと回復系のジョブ持ちの四人で行いました。探索を終え地上に戻った後で報酬を分け合うことになりリーダーがいいました。
「ぶっちゃけ回復しか出来ない奴に報酬なんて与えることなくね?」
それに対し貴方はどうする?
A回復は重要だから平等に報酬を分けるべきだ。
B回復なんて役立たずで必要ないから追放だ!
C多少は貢献しているのだから僅かでも報酬を恵んでやろう。
Dむしろ回復こそが重要だから報酬を多く貰う権利がある!
E腹立つからリーダーを筋肉でボコボコにしてわからせる。
いや最後だけ過激すぎない!? というかこれAしかありえないだろう。他の選択肢選ぶ奴いるのか? いや今回復系のジョブ持ちがいたらDを選ぶのか? いやどっちにしろダメだろう。
問20
冒険者として大事なのはどれか?
A筋肉
Bプロティン
C日々の筋トレ
D寧ろ全て
E私はこの中からは選ばない。
いや、なんだよこの問題! 実質筋肉一択みたいなもんだろう! えぇこれ選ばないとダメなのか? まぁDで――
問25
貴方はダンジョンでモンスターと遭遇し戦い勝利しました。するとモンスターが起き上がり仲間になりそうな顔ですり寄ってきました。どうしますか?
Aそんなゲームみたいなシチュエーションあるわけないだろう!
B当然迎え入れてテイムする。
C問答無用でトドメを刺す。
D悪いな、うちペット禁止なんだ、と言い残して立ち去る。
E一緒に筋トレしようぜ!と誘う。
いや選択肢よ! 何かこの問題時折ツッコミたくなるのあるな! 最後のEも正しいのかよくわからないし! いや当然Bだけどさ――
というわけで、色々と心のなかでツッコミを入れながらも解答用紙を埋めていったのだった。ちなみに最後にこの問題の作成者の名前を見たら小澤 勇とあった――妙に納得できてしまった……。




