第66話 畑の様子
「う~ん……」
前日はダンジョンを再び掃除し、それからは動画の確認から畑のチェックまでしていたのだが――明朝、改めて畑を見て俺は思わず唸ってしまった。
「もう芽が出てる……」
そう。既に畑に芽が出ていたのだ。改めて何を植えたか再確認したが人参だった。人参ってこんなに早く芽が出たっけ? とネットで確認したが気温にも左右されるが本来は早くても発芽まで七日から十日は掛かるものだった。
これもやはりジョブの影響があるのだろうか。何か耕作力向上とか土壌改良とか栽培力向上とかあったからな。
だけどそれだけが原因なんだろうか。思えばダンジョン内で芽が出て、そこからマールも生まれたわけだし、このダンジョン自体が特殊なのかもしれない。実際土鑑定の結果も何だか凄いものだったし。
しかし、こうなってくるとダンジョンでの畑仕事も悪くない気がしてきた。いや、寧ろ作物を育てる環境としては最高とも言えるか。失敗してもいいように小規模で始めてみたけど考えを改める必要があるな。
「とは言え、芽が出た以上やることはやらないとな」
「ワン!」
「ピキィ~」
「マァ~」
俺が畑を見ながら思考していると、皆も起きたようで畑の様子を喜んで見ていた。成長が早いからと言って育ちが悪いということもなく、根もしっかりしていそうだし、かなり順調だからな。
「とりあえず間引きしていこう。皆も手伝ってくれるかい?」
「ワン♪」
「ピキィ♪」
「マァ♪」
うん、皆は素直で良い子だなぁ。というわけで俺たちは一緒に作業に取り掛かった。そうこうしている内に秋月がやってきたわけだけど。
「風間さん! 昨晩試しにショートで動画を上げてみたんですが凄いんです! ほらこれこれ!」
スマフォ片手に飛び込んできた秋月が、意気揚々と画面を見せてくれた。動画を見るとウチの子の姿があって動画の中で元気に動き回っていた。
昨日もチェックはしていたが、アップされた動画を改めてみるとやっぱり可愛いなと思ってしまう。
「上手く出来てるじゃないか。はぁ、やはりウチの子は可愛いなぁ」
「いや、それは勿論そうなんですが、見るべきは再生数ですよ!」
動画を見ながらデレっとしている俺に秋月がツッコんできた。そうか、動画を上げている以上、重要なのは再生数だもんな。そこで見てみたが。
「え! 100万再生ってマジ!?」
「マジですよ! 昨晩上げて朝になってこれですからね。やっぱり可愛いは正義なんですよ!」
秋月が興奮気味に話していた。正直俺もあまり詳しくはないがそれでも一日で100万再生は凄いんだろうなと思う。
コメントもみてみたが可愛いで溢れていた。うん、視聴者もよくわかってるじゃないか!
「しかもまだ伸びてるよな。これだけ見られていれば結構な収入になるんじゃないか?」
元々はダンジョン税の支払いなんかもあるという事で始めたことだからな。それもこれだけ伸びていれば解決出来るかもしれない。
「あ、いえ、実はショート動画だと広告単価は低くなってしまうので、ただこれからメインの動画を上げていきますからね。そうすれば見込みはあるかもです」
両手を握りしめて語る秋月の瞳は輝いていた。そのあたりの仕組みには疎いが、この動画をキッカケに更に伸びていく可能性は高いわけだな。
「それなら良かった。畑の調子もいいし、中々幸先は明るいな」
「畑の調子ですか? て、すごい! もう芽が出てるんですね!」
俺との話で秋月も畑の変化に気がついたようだ。随分と驚いているよ。
「そうなんだよ。そこで畑をもっと広げようと思っているんだけど、そうなると苗から育てる種類も考えないといけないからな」
そう考えると苗用ポットも必要になってくる。それらも購入しないとな。
「それなら畑作業が落ち着いたら買いにいきましょう。車の方が便利ですよね?」
「それはそうだけど、なんか毎回悪いね」
「何を言ってるんですか! 動画作成に協力してもらっているんですから、これぐらい当然ですよ。当たり前ですが広告収入分の利益もしっかり分配しますから安心してくださいね」
「え! そこまでしてもらっていいのか?」
「当然の権利です」
秋月が断言してくれた。実際このままダンジョンで暮らしていても収入があるわけじゃないから今後どうしようか思っていた部分もあった。そう考えるとこの話はありがたい。モコたちと暮らしていく為にも収入源は必要だからな。
「ありがとう。それなら、より一層頑張って畑を育てるし動画撮影にも協力するよ」
「ウフフッ、期待してますからね♪」
「ワン!」
「ピキィ~!」
「マァ~!」
モコ、ラム、マールも任せて~と言わんばかりに声を上げてくれた。よし、こうなったらより良い畑になるよう更に準備を進めていくか――




