第63話 ギルドマスターの視察
何もせず待っているのも手持ち無沙汰なので畑を整えたりと出来ることをやっていいく。
マールが生まれた箇所も改めて耕して種を撒いてみることにした。畑は荒らされる前に俺たちが戻ったからな。殆どが被害がないのは幸いだった。
「風間はいるか?」
「あ、はい」
皆で畑作業しているとギルドマスターである小澤マスターの声がした。振り返ると小澤マスターと立川さんの姿。立川さんはモコとラムの検査をしてくれた女性だ。
恐らくマールの検査をしに来てくれたんだと思うよ。
「わざわざありがとうございます」
「いいっていいって。どうせ見に来る必要はあったんだから」
「だからって私まで付き合わせるなんて、職権乱用もいいとこな気がするけど」
「固いこと言うなって」
呆れたように呟く立川さんに対してマスターが豪快に笑った。よ、よかったのだろうか?
「お二人でこられたのですね」
「いや、あと四人来るぞ」
「そうなんですか?」
俺が問い返すと同時に外から豪快な排気音が聞こえてきた。こ、これってまさか。
「なんだい。もうマスターも来ていたのかい」
「おう。お疲れさん」
近くで音が止み、入ってきたのは予想通り鬼輝夜の面々だった。
「やっぱり鬼輝夜の皆だったんだね。昨晩は助かったよありがとう」
「いいってことさ。それよりもさっさと話をつけて片付けないとね」
うん? 片付ける?
「えっと片付けると言うと?」
「あの連中に汚されたところ、手伝う」
「これでも~掃除は得意なんですよぉ~」
「冒険者がやった不始末は冒険者がつける。夜露死苦!」
何か全員気合はいってるのだけど、やったのはあの連中だから彼女たちに責任は無い気がするんだけど。
「えっとマスター。気持ちはありがたいのですが何か悪い気も」
「気にするな。コレに関してはギルドの責任でもあるからな。鬼輝夜にはギルドから報酬も出るようになってる」
マスターが答えてくれた。なるほど。あくまでギルドからの依頼という形で鬼輝夜は動いてくれているのか。
「そういうことなら助かります」
「おう! だから先ずは証拠を画像に残す必要があるわけだがぁああぁあ、うぉおぉぉぉお! 君が新しいモンスターなのだなぁああ! 予想以上だ! 最高だぁあああもう辛抱たまらぁああぁああん!」
急に叫びだしギルドマスターがマールに飛びつき抱き上げた。突然のことにマールが目を丸くさせて驚いているんだが!
「マ、マァ~」
「ほ~れ、ほれほれ、こわくないからねぇ~」
「マァーー! マッ、マァ~♪」
最初は驚いていたマールだけど、抱き上げたままマスターがクルクルと踊るように回りだすと、マールもはしゃぎ始めた。うん、モコとラムの時もそうだったけど、見た目の厳つさとは裏腹にマスターはモンスターに好かれるタイプではあるんだよな。
「全くこのマスターときたら」
「ハハッ、でもモンスターに好かれるってことは、いい人の証明でもあるんじゃないかな?」
「そういうものかしらねぇ」
腕組みし呆れている立川さんに俺が言うと、彼女は少し考えるような仕草を見せた。
「そういえば弟は来てたかい?」
鬼姫から声が掛かった。弟と聞いて帝の顔を思い浮かべる。
「あ、さっきまで来てたよ。差し入れ持ってきてくれて凄く助かった。ありがとう」
「そうか。届けてくれたならよかった。ま、弟も突っ張ってるところあるけど、根はいい子だから宜しく頼むよ」
そう言って鬼姫が二カッと笑った。うん、根が良いというのは見ていて俺もよくわかったよ。
「ただいま~って、何か一杯集まってる!」
「おう。お疲れ様。ありがとうな」
俺たちが話していると秋月も戻ってきてくれた。
「すぐ準備するね」
「手伝うよ」
「大丈夫大丈夫。風間さんは小澤さんと話があるだろうし」
そう言って秋月が飲み物の準備をしてくれた。
「マスター。そろそろ私にも仕事をさせてください。何しに来たと思ってるんですか」
「おお、そうだったなぁ」
そして立川さんもマールの検査を始めた。そしてやっぱり注射を見て怯えるマール。だけど今回はモコとラムが平気だよぉ~とマールを励ましていた。何か頼りになる先輩みたいな感じになってるな。そのやり取りも微笑ましい。
「紅茶とコーヒーありますがどっちがいいですか?」
「あぁ、俺と立川は持ってきているのを飲むから気にしないでいい。色々厳しいからな。鬼輝夜の四人に出してやってくれ」
マスターからそう言われ秋月は鬼輝夜の四人に聞いていた。やっぱり役所的には飲み物を出すのも不味いのか。だけど鬼輝夜もいたから買ってきてもらって良かったかな。
その後は昨晩のことについてマスターと話した。途中で飲み物を持ってきた秋月も含めての話となって昨晩のあらましを説明したんだ――




