第62話 朝食を終えて――
ホットサンドは美味しく頂いた。最後にチョコレートを挟んだホットチョコサンドを焼いたがこれも皆から好評だった。
食べ終えた頃には、すっかりお腹を満たされた三匹が満足そうに寛いでいた。
「――美味かった。姉貴には宜しく言っておいてくれ」
食事を終えると帝がそういい残してダンジョンの出入り口に向かった。
「もう行くのか?」
「これから仕事があるからな」
そうか。確かに今日は平日だし成人しているならこれから仕事があって当然だろう。まぁ、俺は会社をクビになってしまったからダンジョンで過ごす以外にやることがない状況なんだがな!
「ワン!」
「ピキィ~」
「マア~」
するとモコ、ラム、マールが帝に駆け寄りヒシっと抱きついた。
「……いや、帰りたいんだが」
「悪いな。でも皆は帝くんに感謝を伝えたいんだよ」
俺の話を聞きポリポリと頬を掻いた後、帝が皆の頭を撫でた。続いてその目が俺に向く。
「俺のことは帝でいい。くんとか似合わないからな」
「そっか。じゃあ俺も名前は晴彦だから好きに呼んでくれ」
「……あぁ」
「そうだ。連絡先交換しないか? 折角知り合えたわけだし」
俺が提案すると撫でていた手を止め帝が答えた。
「やめときな。俺なんかと仲良くしたっていいことないぜ」
そして背中を向けて帝がダンジョンから出ていった。何か最後だけ有無を言わせない雰囲気があったな。
でもなぁ、改めて帝が食事した後を見たが、彼はしっかり自分が食べた分を片付けてくれていた。食器も洗っていたしな。
だから悪い奴ではない。それは確かだと思う。ただ、思い出してみると以前、鬼姫が言っていたな。公園であった大黒に弟が金を貸していると。それが何か関係あるんだろうか?
「ワゥ~ン……」
「ピキィ~……」
「マァ~……」
皆が帝を寂しそうに見送っていた。どうやら三匹とも帝に好感を持っていたようだな。
「大丈夫さ。またきっとどっかで会うって」
「ワン!」
「ピキィ~」
「マッ!」
俺の言葉に三匹とも、納得したように鳴いてくれた。それからは俺たちも食器などを片付け、後は秋月やマスターが来るのを待つことにした――
◇◆◇
ダンジョンを出て山を降りると黒塗りの車から厳つい男が二人降りてきて頭を下げた。
「お帰りなさいボス。遅かったですね」
「あぁ。飯をごちそうになってた」
「へぇ。ボスが気を許すなんて珍しいですね」
「――別にそんなんじゃねぇよ」
そんな会話をしながら部下にドアを開けてもらい帝が乗り込んだ。
「大黒のところだったな」
「へいボス」
「すぐに向かいます」
帝の鋭い視線を受け部下の二人はビシッと姿勢を正して頷いた。そして車が発車し帝は椅子にもたれかかると大きく息を吐いた。
「長居しすぎたか」
「いえいえ、十分間に合いますよ」
呟く帝に部下が答えたが、帝は顔を曇らせた。そういう話ではないと言いたげだったが敢えて口にはしない。そして目的地につくまでの間で帝は幾つかの指輪を嵌めていった。
そして車が目的地に到着し帝が降りるとそこに大黒の姿。だがそれだけではない。大柄な男が一緒に立っていたのである。
「金を支払うって話だったと思うが、誰だこいつ?」
「よぉ。お前が姐御に無茶な要求してるっていう金貸しか?」
「そうさ大田。こいつが金返せってしつこくてね」
「――借りたもんを返すのは当然だろう」
大田という大男に都合よく説明する大黒。そんな大田の腕には腕輪と輝石が嵌められていた。
「何が当然だ。法外な金利を取ってるって話だろうが」
「これでも――俺等みたいなのの中じゃ低い方だと思うんだがな。まぁいい。それでテメェは俺に何がいいたいんだ?」
大田を見上げ帝が言った。体格差はかなりのものだが全く恐れていない。
「金は諦めろっていってんだよ」
「その方が身のためだよ。こいつはD級の冒険者だからねぇ」
得意げにかたる大黒を見て帝が大きくため息をついた。
「冒険者の質も随分と落ちたものだな」
「なんだとコラァアアァアア!」
大田の拳が帝の顔面にめり込んだ。大田が数歩後退りする。
「ヘヘッ」
「……こんなもんか」
「は? グボォオォオォ!」
お返しとばかりに返された帝の拳が大田の腹にめり込んだ。うめき声を上げた大田が腰を落とすとその顔面に更にもう一発拳が入り大田がダウンした。
「な、何なんだいこれ! どうしてジョブを持った大田相手にあんたみたいなのが勝てるんだい!」
「こっちは冒険者相手にも金貸ししてんだよ。ちょっと恫喝された程度で芋引いてたんじゃ話にならねえ。だから対策ぐらいはとってある」
そう言った後、帝が大黒を睨んだ。
「それでどうすんだ?」
「ヒッ、そ、その、り、利息分だけでも?」
「フンッ」
こうして帝は大黒から金利分の回収を終えた。なお、大田にもしっかり迷惑料を請求し顔を青ざめさせたのは言うまでもない――




