第54話 意外な繋がり
「お子さんがいるんですね」
俺たちの話を聞いていた秋月が鬼姫に問いかけた。みた感じ若々しいし子どもがいることを意外に思ったのかもな。
「あぁ。桜というのさ。あたしの宝物だよ」
そう言ってスマフォを取り出し、鬼姫が娘の写真を見せてくれた。俺も一度見ているが母娘そろって撮った写真を見てるとどこか和む。
「あ! 桜ちゃん! そうか鬼姫さんがお母さんだったんですね」
「うん? 桜を知ってるのかい?」
「はい。私には妹がいて紅葉って言うんですけど」
「紅葉ちゃんかい! うちの桜と遊んでいたから知っているよ。それにしてもこんな偶然があるなんて世の中狭いもんだねぇ」
右手で頭を擦りながら鬼姫が言った。まさかこんな偶然があるとはね。でも、そう考えてみると二人とも同い年ぐらいだったもんな。
「盛り上がっているところだけど~私たちにも名前とか~教えてもらっていいですか~?」
ここで蓬莱が手を上げて聞いてきた。そういえば鬼姫には知られていたけど他の三人には名前を明かしていなかったな。
「うっかりしてたごめんな。俺は風間 晴彦といいます。そしてこっちがモコでこっちはラム」
「ワンワン!」
「ピキィ~♪」
「――可愛いな」
俺が紹介すると十五夜がラムとモコの頭を撫でてくれた。モコとラムも嬉しそうだし十五夜の目も優しくなった気がする。
「晴彦か~じゃあハルくんだね~宜しくねハルくん♪」
「あ、はい宜しくお願いします」
蓬莱から親しげにそう呼ばれて何だか照れくさくなってしまった。これは下手な男なら勘違いしてしまいそうだぞ。
「私は山守 秋月といいます。宜しくお願いします」
秋月が前に詰めてきて名前を伝えていた。な、なんだか蓬莱を牽制しているような? いや気のせいかな。
「姐御、そろそろ本題……」
「おっとそうだったね」
俺たちからも名前を伝えたところで竹取が割り込んだ。彼女たちも今は冒険者としてここに来ているわけで、まだやることがあるのだろう。ここにいる連中をどうしようかって話もあるだろうし。
「とりあえず色々聞いておきたいんだけどね。先ずこのダンジョンにはどうして来てたんだい?」
「来てたというか、俺はここで暮らさせて貰ってるんです」
「ダンジョンで暮らす~? アハハッ、珍しいよねぇ~本当におもしろ~い♪」
俺の答えを聞いて蓬莱が笑顔を見せた。明るい子だなぁ。でもダンジョンで暮らすのが珍しいか、確かに言われてみればそうだろうなと思う。
「ダンジョンで暮らして、危険じゃ?」
「それなら大丈夫です。ここは元々放置ダンジョンなので危険なモンスターもいないし、モコやラムと楽しく暮らしてますよ」
竹取の疑問に答えた。普通に考えたらダンジョンで暮らすのは危険が伴うと思われそうだが、ここに関して言えば安全だ。
「へぇ、ここが放置ダンジョンなのかい。確かに見た限りモンスターもいなさそうだしねぇ」
周囲を見回しながら鬼姫が感想を口にし頷いた。放置ダンジョンということは納得してもらえたようだな。
「つまり風間と山守はここで一緒に暮らしているということかい?」
「へ? い、一緒にって、いやいや違う違う!」
十五夜の発言に俺は慌ててしまった。流石にその勘違いは訂正しないと。
「ここは彼女が管理している山で、このダンジョンの権利も彼女が持っているんですよ。だからこうやって様子を見に来たりもしてるんです」
もっと細かく言えば自宅にお邪魔して送ってもらったところなんだけど、そのまま伝えてもややこしくなりそうだから簡単に説明させてもらった。
「何だって? つまり山守はここの管理者?」
「は、はい。一応そうなりますね」
秋月の答えを聞き、鬼姫は何だか驚いたようであり。
「おいテメェら!」
鬼姫が叫び他の三人を呼んで秋月の前で整列した。一体何が始まるかと思えば――
「「「「この度は冒険者が失礼なことをして大変申し訳ありませんでしたぁああぁあ!」」」」
「えぇええぇ!」
「ワンッ!?」
「ピキィ~!?」
四人からの深々と頭を下げての謝罪。これには秋月は飛び上がらんばかりに驚いていた。モコとラムも一緒になって驚きの声をあげている。
「そ、そんな謝罪なんて! 貴方たちは悪くないと言うか寧ろ助けてもらったわけだし!」
「そうはいかねぇ。同じ冒険者がやった不始末だからな。同業者としてケジメはつけねぇといかないのさ」
戸惑う秋月に鬼姫が答えた。しかし随分と律儀なんだな。
「今はあたしらが頭を下げるぐらいしかできねぇけど、正式に冒険者ギルドからも謝罪があると思う。勿論こいつらが与えた被害分の弁償もしてくれるからねぇ。遠慮なくふっかけてやんな」
頭を上げた後、秋月にそう伝え鬼姫が豪快に笑った。しかしふっかけてとはな。勿論半分冗談なんだろうけど、ただそれぐらいは当然と考えてもいるようだな。同業者がやった罪はそれだけ大きいってことか。
「それにしても、実はあと一つ気になってたんだけどねぇ。最初に来た時に既に二人は倒れてた。それはあんたがやったのかい?」
鬼姫の視線が俺に移り問いかけられた。
「俺だけじゃないです。皆の助けもあったからなので。寧ろ俺一人じゃ勝てませんでしたよ」
「そうかい。自分ひとりの成果だなんて大口を叩かないあたり好感がもてるよ」
そう言って微笑む鬼姫。俺は素直に言っただけだから、そこを褒められるとこそばゆい気がする。
「ハルくん強いんだねぇ~もしかして冒険者ランクも結構高い感じなのかなぁ~?」
「あ、いえ俺まだ駆け出しと言うか仮登録中で」
「は? 仮登録?」
蓬莱の問いかけに答えると鬼姫が目を丸くさせていた。同時に俺もしまったと口を押さえてしまった。やってしまった! 公園で会っていたのに仮登録って答えたのはまずかったか!




