第36話 秋月の家族
「モコちゃん元気だった~?」
「ワン!」
菊郎から降りた紅葉がモコの頭を撫でる。モコは尻尾をぶんぶん振り、目を細めて喜んだ。
なんとも微笑ましい光景に、秋月も頬を緩ませている。
「それにしても驚いたなぁ。紅葉と知り合いだったなんて」
「あぁ。前にモコとホームセンターへ行った時に出会ったんだ」
それを聞いた秋月がハッと目を見開く。
「そういえば紅葉が言ってた! 買い物に行った時に可愛いモンスターを連れた男の人に会ったって。それが風間さんだったんだね」
秋月が嬉しそうに言った。世間は広いようで狭いな。
「ワウワウ!」
「ピキィ!?」
話していると、山守家の愛犬・菊郎がラムに近づき、ぺろりと舐めた。驚いたラムはぴょんと跳ねて俺の足元へ逃げ込む。
「ピキュ~……」
「はは、そんなに怖がらなくて大丈夫だよ。菊郎はいい子だからな」
ラムが俺の足裏に隠れるようにして、か細い声を上げたので説明した。誤解は解いておかないとな。
「うん! 菊郎もラムちゃんと仲良くしたいと思ってるんだよ」
秋月もラムの前で屈んで優しく伝えた。やっぱり飼い主としてお互い仲良くやってもらいたいんだろうな。
「ピキィ~?」
「ワウワウ!」
ラムがそっと体を出すと、菊郎は嬉しそうにお座りして舌を出し、ラムの反応を待つ。やがてラムが意を決したように頭へダイブ。
「ワオン!」
「ピキィ~♪」
ラムが頭上で跳ね回り、菊郎もご機嫌だ。クッ、全部が可愛い!
「私も乗る~」
「ワン!」
紅葉が背中に、続いてモコも飛び乗る。菊郎の頭や背ではしゃぐ天使たち──なんという眼福!
「はぁ~本当に可愛い」
秋月も目を細めて見守っていた。
──と、その背後から上品な女性の声。
「あらあら、楽しそうね。お帰りなさい、秋月」
現れたのは、以前ホームセンターで会った紅葉の母――当然、秋月の母でもある。
「お母さん、紹介するね。ダンジョンを良くしてくれた風間さんだよ」
「あら? そういえば以前お会いしましたね」
「はい、ご無沙汰しております」
深く頭を下げると、母親は穏やかに微笑んだ。
「娘から聞いていますよ。掃除までしてくださって、本当にありがとう。あの人も会いたがっているの。さあ、中へどうぞ」
立派な木戸が開き、風通しの良い玄関と磨かれた廊下が現れる。庭には飛び石と手入れの行き届いた松。落葉翁の人柄が偲ばれる和風の屋敷だ。
玄関で靴を脱ぐと、菊郎が「こっちだよ」と先導し、モコとラムも連なって歩く。紅葉が俺のコートの裾をくいっと引いた。
「ねえお兄ちゃん、ダンジョンに今度遊びに行ってもいい?」
「もちろん。ラムとモコも待ってるよ」
少女の笑顔が花開き、秋月もほっと安堵の息をつく。
こうして俺たちは、山守家へ案内されることになった――。




