第31話 天野川との再会
ホームセンター帰りにチンピラ冒険者をあっという間にねじ伏せてくれた黒髪の女剣士――天野川 雫が、俺に気づき白い廊下をこちらへ向かって歩いて来る。
「えっと、お、お久しぶりです」
「ん。君も久しぶり」
「ワウン♪」
天野川に撫でられ、モコは大喜び。だが俺は気が気ではない。袖をくいっと引っ張られ振り向くと秋月の顔。
“誰?” と目が語っている。
「えっと、彼女は冒険者で、以前に俺たちが絡まれたとき助けてもらったんだ」
情けないが、嘘はつけない。
「へ、へぇそうなんだ。ずいぶん綺麗な人だから誰かと思っちゃった」
天野川の顔を見た秋月が、どこか棘のある声で言う。
「私は天野川 雫。よろしく」
天野川は気にも留めず淡々と自己紹介。
「あ、はい! こちらこそよろしくお願いします」
天野川のクールな雰囲気に押され、秋月は恐縮気味だ。
「……ところで、ここで何を?」
「あ、あぁ。実は冒険者登録をしに来ていて」
「――登録? 貴方、冒険者じゃなかったの?」
怪訝そうな天野川の視線に、俺は内心で悲鳴を上げた。そうだ、モコを連れていた俺が未登録なのは不自然極まりない。
「……不思議に思ってたの。後でギルドで調べたけど、該当者なし。登録されていれば顔写真付きですぐ分かるはずだから」
天野川の疑いが、更に強まっているのがわかった。確かに今回の登録でも、証明写真が必要となっていたし、結構いろいろ書かされたからな――それを考えたら、俺の素性がバレるのも時間の問題だったのかもしれない。
だけど、このままだと不味い。下手したらモコやラムが捕まってしまう可能性もある。
「本当にごめん! 実はすでにジョブは持っていて、その関係でモコとも仲良くなれたんだ。ただ登録のタイミングを逃していて……でもジョブの力を悪用したことは絶対にない。信じてほしい!」
俺は、とにかく天野川に納得してもらおうと、色々と理由をまくし立てた。実際は、その時にはまだジョブストーンを持っていなかったが、今はそんな事を言っている場合じゃない。
「そ、そうです! 私が証明します! 風間さんはいい人です!」
「ワンワン!」
「ピキィ!」
秋月、それにモコとラムも、俺を庇うようにして声を上げてくれた。そんな俺たちの姿を、天野川がマジマジと見つめている。
「……話は分かった。けれど私が決めることじゃない」
天野川の声は静かだが決然としていた。
「だから今から一緒に来てもらう」
「え? どこへ?」
「ギルドマスターの部屋。マスターに判断してもらうわ」
「ま、マジか……」
「マジ」
真顔で言い切られ、俺はごくりと唾を飲み込む。登録したその日にギルドマスターと面談――俺たちは一体どうなってしまうんだろうか。




