第26話 最悪の再会
「お前、来る場所を間違えてるんじゃないのか? 職業安定所はここじゃないぞ」
「そうよ。ここは冒険者ギルド。ジョブストーンも持っていないダメ男は登録なんて出来ないんだから」
阿久津と未瑠が嘲るように笑う。人を陥れただけでは飽き足らず、まだ足を引っ張ろうというのか。性格がねじ曲がり過ぎだろう。
「ちょ、風間さん! 一体誰なんですか、この失礼な人たちは!」
「あ、いや──前の職場の“知り合い”さ」
事情を知る秋月は、それだけで二人の正体を察したようだ。
「つまり──こっちの女性が浮気して風間さんを捨てた悪女で、隣が“親友”と称してその女性を奪った最低男ってことですね」
秋月が容赦なく言い放つ。遠慮という概念がないらしい。
「なんだと? ……にしても可愛いじゃん。君、学生? こんな奴に騙されるなよ」
「誰が学生ですか! 私はもう成人してますし、れっきとした社会人です!」
「は? 嘘でしょ? 高校生にしか見えないっての。阿久津、あんた何でそんな子ども相手に鼻の下伸ばすのよ!」
未瑠が阿久津の腕を揺さぶる。俺の悲惨な経験がフラッシュバックして思わずため息が出た。
「高校生呼ばわりなんて、本当に失礼な人たちですね!」
「ワウワウ!」
「ピキィ!」
ヒートアップする秋月を横目に、モコとラムも怒りを露わにする。
「てか何なの、その奇妙な生き物は?」
「お前たちに関係ない」
未瑠の品定めするような視線が胸くそ悪い。
「……まさかテイマー系のジョブストーンでも拾ったのか? なんでお前みたいな無職のゴミがそんなモン持ってんだよ!」
阿久津が唇を歪める。どこまで噛みつけば気が済むんだ。
「そこ! さっきからうるさいですよ。静かにしなさい!」
受付カウンターから鋭い叱責。俺たち全員が一斉に肩を震わせる。
「騒がしくして申し訳ありませんでした」
「私もつい熱くなって……ごめんなさい」
「ワン……」
「ピキュウ……」
先に頭を下げたのは俺と秋月。最初に絡んできたのは向こうだが、ここで揉め事を大きくする気はない。だが当の二人は謝るどころか、ふてぶてしく腕を組んでいる。
「お前らのせいで職員に睨まれたらどうするんだよ」
「ほんとよ。せっかく買ったジョブストーンで登録出来なくなったら困るんだから」
文句を言うなら最初から絡むな。こっちは関わる気など無かったのに。
「聞いていた以上に酷い人たちですね。風間さん、何で付き合ってたんですか?」
「……知り合った頃は、もう少しまともだったんだ」
俺が嘆息しながら履歴書の残りを埋めようとしてると、阿久津がまた口を挟む。
「ちゃんと“会社をクビになった”って書いとけよ? 経歴詐称で捕まるぞ」
本当に性格が悪い。
「放っておいて貰えますか? そっちはそっちで記入してください」
秋月がうんざりした声で返す。俺もいい加減イラついてきた。
「彼女の言うとおりだ。お前らは自分のことだけ考えろ。こっちを気にするな」
「は? 誰がお前みたいな奴を気にすると? 俺はこの子が騙されそうだから忠告してやってるだけだ」
「そうよ。大体まともなジョブストーンも持ってないんじゃないの? 連れてるのも雑魚モンスターじゃない」
「ワン! ワン!」
「ピキィ! ピキッ!」
モコとラムが吠える。俺も怒りがこみ上げる。
「モコもラムも大事な仲間だ。雑魚呼ばわりは許さん」
「雑魚が友達って、ウケるな」
「……また職員に怒られたいんですか?」
秋月がカウンターを指差す。職員が再び鋭い視線を送っている。
「チッ、面倒くせぇ――」
阿久津は舌打ちしながらポケットからタバコを出し、ライターを構えた。
「おい阿久津! ここは禁煙だ」
「ワンワン!」
「ピキィ!」
壁の「全館禁煙」プレートを見て、阿久津が舌打ち混じりにタバコをしまう。
「とにかく、お前は登録しても俺たちに話しかけてくるなよ。……君は困ったら俺に相談していいからね」
「ちょっと!」
未瑠が阿久津の腕を引っ張り、二人で別の記載台へ。俺は深呼吸し、履歴書の続きを書く。
――何より今は登録と鑑定審査。それが終わったら、余計な連中に振り回される時間など無くなるはずだ。




