第23話 過去を話した
「――ひど過ぎます! 浮気したうえに仕事のミスを風間さんに擦りつけるなんて!」
俺の話が終わると同時に、秋月は拳を握りしめ食事用に設置していたテーブルを叩いた。
「まぁ、俺にも油断はあったさ。今思えば証拠を残さなかったのが甘かった」
「いえ、甘いのは会社とその二人です! 許せないっ」
「ワウワウ!」
「ピキィ~!」
モコは毛を逆立てて尻尾で地面を叩き、ラムはライトブルーの光をポッと灯して怒りを表現してくれる。――ラムって体が光るんだな。
それにしても、怒ってくれる仲間がいる──それだけで報われるものだ。
「でもほら、悪いことばかりじゃなかったさ」
俺は腕についたソケットを軽く叩いた。瑠璃色のジョブストーンが淡く輝く。
「農民ジョブのおかげで“特殊な野菜”を育てるメドが立った。あの栄養たっぷりの土壌なら、良いものが作れる」
「そんなことが出来るなんて、ジョブストーンってすごいものなんですね」
秋月が目を丸くする。ジョブストーンについてよく知らないらしいので、効果をかいつまんで説明した。
「なるほど。このジョブストーンがあれば特殊な力が身につくんですね」
「まぁ“特殊な職業”に就く感じだな。スキルを覚えれば色々できる」
ジョブは肉体にも影響する不思議なシステムだ。
「そして風間さんが覚えたジョブが農民、と」
「あぁ。農民ジョブのおかげで“特殊な野菜”を育てるメドが立った。ここの土は魔力と養分が桁違いだからな」
「販売できれば山の固定費をまかなえますね!」
秋月はスマホを開き、農産物の直販サイトやクラウドファンディングのページを次々とスクロールしたが、すぐに眉間へ深い皺を刻んだ。
「……え? “加工・流通前に国家登録が必要”?」
俺もタブレットで同じ文書を読み込む。
【特殊植物等取引管理法】
魔力・特殊成分を含む農産物は国またはギルドの検査・許認可を要し、個人販売は禁止。
違反した場合は没収および罰金二百万円以下。
「要するに、売るにはギルドへの申請や検査証が必須。検査費だけで十万円単位か……」
「許可が下りるまでも時間が掛かりそうです。これでは初年度から販売は難しいですね……」
ため息が重なる。八十万円のダンジョン税と固定資産税を合わせた百五十万円は、簡単に消える数字ではない。
「資金調達の前倒しが必要だな。だけど山を手放す気はないんだろ?」
秋月は拳を握りしめ、力強く頷く。
「はい! お爺ちゃんの山、絶対に守りたいです」
「そうなると別の手段が必要か――」
そこで俺たちはまた頭を抱える。モコやラムも唸るように鳴いて一緒に悩んでくれていた。
「そうだ! ダンジョンの中で配信するのはどうでしょうか? これなら規約に触れませんよね」
秋月の案に俺もハッとした。確かに冒険者が配信しているチャンネルは多い。
「見てください! ライフスタイル系でも十万、二十万再生はざらにあります! あ、でも危険行為やスキル乱用でBANされている人も多い」
「過激配信者の末路だな。ジョブの力は外で好き放題使えない」
ジョブ能力は使いようによっては危険だ。だから法律で厳しく制限されている。
「でも、ここはダンジョンだし畑仕事なら問題ありません」
「あぁ、安全面もクリアだ」
「それなら、ここでの生活を配信したいです! モコちゃんもラムちゃんも可愛いし、きっと人気が出ます!」
「えぇ!」
「ワウッ!?」
「ピキィ!?」
俺の驚きに合わせるように、モコとラムも飛び上がった。思わぬ方向へ話が転がり始めた。




