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親友に裏切られ婚約者をとられ仕事も住む家も失った俺、自暴自棄になり放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました  作者: 空地 大乃
第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編

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閑話 その後の二人②

「これが今回の取り分だ」

「あ、ありがとうございます!」


 阿久津は翔也からダンジョン探索での報酬を手渡され、顔を綻ばせながら深く頭を下げた。


 阿久津と座間はその後も黒爪黒牙と行動を共にし、定期的に分け前を受け取る生活を続けていた。かつては冒険者と無縁だった二人だが、今ではそれなりに実戦経験も積み、立ち回りも様になってきている。


「いつもありがとうございます」

「いいってことさ。これは正当な対価だからな」


 座間も笑顔で翔也に礼を述べる。受け取った封筒をすぐにバッグへとしまい込んだ。一方で阿久津はその場で封筒の中身を確認し始めた。


「ちょっと阿久津。そういうのは後にしなさいよ」

「何言ってんだ。こういうのはその場で確認しておかないと、後々トラブルになるかもしれないだろ」


 座間の注意に眉をひそめつつ言い返す阿久津。もっとも彼の言い分も一理ある。金銭のやり取りでは確認が大事だというのもまた事実だ。


 ただ、座間としてはそれがどうにもガツガツしているように見えて、あまり良い気分ではなかった。


「ごめんなさい、翔也さん。失礼な真似して」

「いや、阿久津の言ってることも間違ってないさ。未瑠(・・)も確認しておくといい」

「私は信じてますから」

「おい、それだと俺が信じてないみたいな言い方じゃねぇか」


 座間の言葉にムッとした様子の阿久津が声を荒げる。その態度に、座間は大きくため息をついた。


「さっき自分で確認すべきって言ってたじゃない」

「だから確認するのは当然だって言ってんだろ!」


 険悪な空気が漂いはじめたその時、翔也が軽く笑って二人の間に割って入った。


「落ち着け、二人とも。こんなことで喧嘩なんてくだらないぜ。これで一緒に飯でも食ってクールダウンしろよ」


 そう言って翔也は阿久津に一万円札を手渡した。


「いいんですか?」

「ああ。二人のおかげで今回の稼ぎも上々だったからな。気にすんな。それじゃ、また連絡する」


 手を振って去っていく翔也を見送った後、二人はそのまま近くの店で夕食を取ることにした。


「今回のダンジョン探索の報酬は二十万円。一回の出撃でこれは悪くないよな」

「……そうね」

「お前はどのくらいだったんだよ?」

「――あんたと同じよ」


 出てきた料理を夢中で口に運ぶ阿久津に、冷めた視線を向けながら答える座間。その態度が気に食わないのか、阿久津は露骨に顔をしかめた。


「お前、最近ノリ悪くないか?」

「そう? 元からこんなもんでしょう。私、サバサバ系だし」

「自分で言うか、それ……」


 皮肉混じりのツッコミを入れつつも、特に深追いすることなく二人は黙々と食事を進めた。食べ終わる頃には、外の空気もすっかり夕暮れ色に染まっていた。


「なぁ、部屋寄っていくだろ?」

「悪いけどパス。今日は疲れちゃった」


 座間はあっさりと阿久津の誘いを断り、駅へ向かう人波に紛れていった。結局、二人はそのまま別々に帰ることになった。


「あいつ、最近妙だな。それに――」


 阿久津の胸には、ある引っかかりがあった。最近の座間の様子――明らかに何かを隠している気配。正直、そのことを問いただしたい衝動もある。


 だが今はまだ、そのタイミングではない。黒爪黒牙の協力もあり、現在の生活は成り立っている。下手に波風を立てるのは得策ではなかった。


「まぁいい。もしそうならそうで、こっちにも考えがある」


 そう呟きながら、阿久津もまた夜の街へと足を向けた。






◆◇◆


「よぉ。すっかり調子を取り戻したようだな」


 会社の同僚が、笑みを浮かべて阿久津に声をかけた。阿久津は書類をまとめながら、満足げに口元を緩めた。


「ああ。風間がいい加減な仕事して辞めやがったから、そのフォローは大変だったけどな。最近は新規も順調に取れてるし、まぁ悪くないよ」


 その発言に、同僚は微妙な表情を浮かべた。風間の退職理由については、社内でも真相がよくわからず、噂話が飛び交っている状態だった。


「でも、風間先輩の仕事は完璧でしたよ。後々のフォローもしっかりしてくれてましたし」


 その場にいた後輩が反論めいた口調で言った。風間を慕っていた一人だ。


 阿久津の表情が明らかに曇る。


「お前らが何を言おうが、結果がすべてなんだよ。風間は情報を流出させた。その結果、解雇されたんだ」

「でもそれって……」

「阿久津、ちょっと来てくれ」


 後輩が反論しようとした瞬間、部長の声が社内に響いた。呼びかけに阿久津は小さく舌打ちしながら席を立った。


 後輩の態度にも苛立ちを感じていたが、それ以上に、部長がこのタイミングで自分を呼んだことに、別の疑問が浮かぶ――

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