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親友に裏切られ婚約者をとられ仕事も住む家も失った俺、自暴自棄になり放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました  作者: 空地 大乃
第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編

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第169話 目覚めの朝ごはん

 翌朝、俺はいつものように放置ダンジョン内の拠点で目を覚ました。

 簡素なテント暮らしだけど、随分と慣れてきた。むしろこの空間が心地いいとさえ思える。


「ふわぁ……おはよう、皆」


 テントの外へ出ると、モンスターたちがすでに起きていた。


「ワン!」

「ピキィ!」

「マァ~♪」

「モグゥ~♪」

「ゴブゥ~!」


 モコ、ラム、マール、モグ、ゴブたちが、それぞれのやり方で朝の挨拶をしてくれる。今日もいい一日になりそうだ。


 テントの脇には、昨日の夕方に火を落とした簡易かまどがある。昨晩のうちに軽く整備しておいたので、すぐに使える状態だった。

 俺が木の箱から朝食の食材を取り出し始めると、地面がサクッと踏み鳴らされる音が聞こえた。


「おはよう、ハルさん!」


 声の方を見ると、秋月が山道を軽やかに駆け下りてきていた。


「お、秋月。おはよう。来るの早かったな」

「朝ごはん、一緒に作りたくてちょっと早起きしちゃった」


 息を弾ませながらも嬉しそうに笑う秋月の姿に、俺の顔も自然とほころんだ。


「じゃあ一緒に作るか。今朝は野菜スープとパン、それに卵と、昨日採ってきた山菜を使うつもりだった」

「わあ、それ美味しそう! 私、野菜切るね!」


 秋月がエプロンを装着し、さっそく手際よく作業に取りかかった。

 俺も手元の鍋に水を張り、かまどの火を起こす。食材の下ごしらえをしながら、穏やかな朝の空気に包まれていた。


 やがて香ばしいパンの香りと、煮込んだスープの匂いがあたりに漂い始め、モンスターたちがそわそわと動き始めた。


「ワンッ!」

「モグゥ~」

「ピキィ~」

「ゴブ~」

「マァ♪」


 皆もお腹を空かせてるみたいだな。


「もう少し待っててね~」

と秋月が微笑みながら答えると、モンスターたちはおとなしく腰を下ろしていた。素直ないい子たちだと思う。


「そういえば、昨日連絡したんだ。グラヴィス姉弟にモンスターバトルに出たいって」

「どうだった?」

「日程調整してくれるって。ただ、来れるのは十日後くらいになりそうだってさ」

「そっか。でも、それならそれまでに準備もできるし、良いタイミングかもね」


 そう言って、秋月は鍋の中をひと混ぜした。

 朝の光のなか、モンスターたちと、こうして誰かと朝ごはんを作る――そんな何気ないひとときが、妙にありがたく感じた。


「そういえばさ、配信の方って最近どうなの?」


 ふと気になって尋ねてみると、秋月は少しだけ首をかしげた。


「うーん、悪くはないんだけど……最初の頃ほど伸びてはいないかな。でも、自分なりに頑張ってるよ」

「そうか。俺も何かできることがあれば手伝うよ」


 そう返すと、秋月は目を細めて嬉しそうに微笑んだ。


「ありがと、ハルさん。でもね、視聴者の反応を見てると、最近は“変化”を求めてるのかなって気もするの」

「変化?」

「うん。だから今日はその意味でも、朝ごはん作りの様子も撮ってみようかなって思ってるんだ」


 そう言って、秋月はスマホを取り出して簡易スタンドにセットし、録画の準備を始めた。

 俺たちのささやかな日常が、誰かの心に届くのなら――それもまた、悪くない。


「さ、そろそろスープも出来たかな。皆、お待たせ!」


 秋月の声に、モンスターたちが一斉に跳ねるように立ち上がった。

 温かな朝日と、湯気のたつ鍋。それだけで、今日一日がちょっと特別なものになる気がした。

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