第164話 鈍感な男
「なんだ皆も興味があるのか。押忍! 異世界番長に」
「ワンワン!」
「ピキィ!」
「マァ~♪」
「ゴブゥ!」
「モグッ♪」
俺がそう言うと、モンスターたちが元気よく鳴いて応えてくれた。どうやらかなり気に入ったらしい。
「それなら帰ってから皆で見るか。アニメ化もされているからな」
そう続けた時、隣にいた愛川がむぅっとした顔で口を開いた。
「――でも、確かに面白いんだけど、ちょっとモヤモヤするところもあるんだよね」
「うん? 一体どこがだい?」
筋肉モリモリの嵐舞が腕を組みながら興味深そうに首を傾げる。
「主人公の蛮ですよ。ヒロインから好意を抱かれてるのに全く気づかないし!」
「ハハッ、まぁそこがいいところでもあると思うけどねぇ」
嵐舞は豪快に笑っていたが、愛川はどこか納得がいかない様子だった。
「でも、ちょっと鈍感すぎるかなって。あれだけアピールされてるのに――リアルにもそういう鈍感なタイプがいて、それもあって余計にモヤッとしちゃうのかも」
「へぇ。それはもしかして尚美の想い人かい?」
「そ、それはその……」
愛川が顔を赤らめて視線を逸らすのを、俺は隣で何気なく聞いていた。
「へぇ。愛川にもそんな相手がいるんだな。でも、愛川は可愛いし、男が放っておかなそうだけどなぁ」
俺が軽い気持ちでそう言うと、流麗が「……なるほどね」と呟き、嵐舞が唸るように頷いた。
「――これは厄介そうだねぇ」
「そう、そうなんですよ!」
愛川が熱を帯びた声で同意していたが、俺にはイマイチ何が厄介なのかわからなかった。
視線をそらすと、モコと嵐舞の使役モンスターの間に妙なやり取りが生まれていた。
「ワン!」
「……グルゥ」
「ワンワン!」
「グル?」
モコが嵐舞のモンスターに向かってしきりに吠え、彼は静かにそれを受け止めるように鳴いて返す。最初こそ警戒していたモンスターたちも、その落ち着いた雰囲気に安心したのか、次々に寄っていった。
「ピキィ♪」
「モグゥ♪」
「ゴブゥ♪」
「マァ♪」
俺のモンスターたちが集まってきて、まるで昔から知っているかのように馴染んでいた。パルもまんざらでもない様子で、ゆっくりと尻尾を振っていた。
「皆もパルちゃんとすっかり仲良しだね」
「へぇ、パルちゃんって名前なんだな」
流麗の呟きを聞き俺が言葉を返すと、嵐舞が胸を張る。
「おうよ。オレの頼りになる相棒、【轟牙獣バルグレイヴ】のパルちゃんだ」
するとすかさず流麗が続ける。
「モンスターバトルでもお姉ちゃんは負け知らずなんだよね」
「何いってんだい。流麗だって引き分けが一回あるだけで、後は勝ってるじゃないか」
互いに謙遜しつつも、自慢し合ってる雰囲気がどこか微笑ましい。
「それは凄いな。そういえばあまりモンスターバトルについて知らないんだけど、どんな感じなんだろう?」
俺の問いに、流麗が立ち上がって近くのラックからパンフレットを取り出してきた。
「それならここにもモンスターバトルのパンフレットがあるから、貰っていってもいいかもね」
嵐舞が頷きながら説明を続けてくれた。
「だな。とりあえず簡単に言えば、文字通りモンスター同士で戦う競技さ。世界中で人気で、専用の施設があってな」
流麗も補足する。
「冒険者みたいにモンスターバトルにも専用のランクがあるんだ。最初はルーキーから始まって、アイアン→ブロンズ→シルバー→ゴールド→プラチナ→ダイヤモンド→オリハルコン→キング→レジェンドって感じで」
「多いな。二人はどのぐらいのランクなんだ?」
「オレたちはダイヤモンドランクさ」
「ダイヤモンド! 高いな。そうなると冒険者ランクもかなり上に?」
「僕とお姉ちゃんの冒険者ランクはB級だね」
「やっぱり実力者だったんだな」
そう言うと、嵐舞がニヤリと笑って問い返してくる。
「二人も冒険者なんだろう? 何級なんだい」
「私はF級に上がったばかりで」
「俺も同じだ。まだまだだな」
「何言ってるんだい。最初は誰だってG級から始まるんだからね。等級なんて飾りみたいなもんさ」
嵐舞が豪快に笑い、俺もつられて笑っていた。
「そう言ってもらえると――ところで二人は獅王って男のこと、知ってるかな?」
俺がふと名前を口に出した瞬間、流麗の目が伏せられ、嵐舞の眉がピクリと跳ねた。
明らかに、何かを知っている。
俺は自然と、背筋を伸ばしていた――。




