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親友に裏切られ婚約者をとられ仕事も住む家も失った俺、自暴自棄になり放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました  作者: 空地 大乃
第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編

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第163話 グラヴィス姉弟

「これ、良かったら」


 お風呂から上がり、休憩スペースのソファでのんびりしていた俺に、流麗がスポーツドリンクを差し出してくれた。どうやらわざわざ買ってきてくれたらしい。それだけじゃなく、モコたちの好みに合いそうな飲み物まで選んでくれていた。


「ありがとう。じゃあ、これ代金」

「いいよ。気にしないで」

「そういうわけにはいかないさ。せっかく仲良くなれたんだ。こういうのはきちんとしておかないと」

「な、仲良く……うん。それじゃあ、いただくね」


 流麗は微笑みながらドリンクの代金を受け取った。こういった場所で新たな縁が生まれるのも、モンスターとの日常ならではなのかもしれない。


「ワンワン♪」

「ピキィ~♪」

「モグゥ♪」

「ゴブゥ♪」


 皆も流麗にしっかりお礼を伝えている。並んで座り、それぞれが好みの飲み物に口をつけていく。喉を鳴らしながら飲むたび、のぼせた体に水分が心地よく染み渡っていった。


 サラマンダーのサラもすっかり馴染んだようで、ソファに移動してはモコたちとじゃれ合っていた。


「ワン♪」

「クワッ」

「ピキィ?」

「クワックワッ」

「モグゥ~」

「クワワ~」

「ゴブゥ♪」

「クワックワッ♪」


 和む。モンスターたちがこうして仲良くしてくれる光景には、本当に癒されるものがある。


「サラちゃんもすっかり打ち解けたみたいだね」

「あぁ。うちの子たちも楽しそうにしてるよ」


 流麗と笑い合う。今日初めて会ったとは思えないほど自然な空気がそこにはあった。


「ハルさん、お待たせ――」


 女湯から出てきた愛川の声が聞こえたので顔を向けると、彼女はその場で固まっていた。


「えっと……どうかした?」

「その、えっと……女の方、は?」


 戸惑いを隠せない様子で視線を向けてくる。そりゃ無理もない。


「あぁ、風呂で一緒だったんだ。彼、男だよ」

「お風呂で一緒ぉぉぉ!? りょ、りょう……!? きょ、共浴きょとぉおっ!?」


 愛川の声が裏返り、目をぐるぐる回している。やばい、完全に混乱してる!


「あ、あの、ごめんなさい。誤解させたなら……僕、男です」


 流麗が説明するも、愛川の耳には届いていないのか、アタフタしてる。これはしっかり誤解を解かないと――


「流麗、お待たせしたねぇ。……って、どうしたんだい、尚美?」


 続いて姿を見せたのは、筋肉隆々の逞しい人物だった。女湯から出てきたということは女性……まさか。


嵐舞(らんま)お姉ちゃん。勘違いされちゃったみたいで……」


 なるほど、この人物が流麗の姉――嵐舞と言うんだな。対照的すぎて驚きだが、言われてみれば納得だ。


「ご、ごめんなさい。私、てっきり……」

「アッハッハ! 仕方ないさ。姉のオレから見ても流麗は美人だからな。性格も妹っぽいしさ」

「もう、お姉ちゃんってば~」


 嵐舞に頭をわしゃわしゃ撫でられ、流麗は恥ずかしそうに頬を赤らめていた。二人の関係は良好そうで、本当に仲が良さそうだ。


 そして嵐舞の隣には、また印象的なモンスターがいた。大型の狼のような姿で、鬣と額に一本角を持つ。その威容とは裏腹に、穏やかに伏せて静かに様子をうかがっている。


「愛川もお風呂で知り合ったのか?」

「うん。最初は驚いたけど、話してたらとても楽しくて」


 なるほど、見た目は猛獣級でも、中身は穏やかで話しやすいタイプなんだな。


「オレはこの口調とガタイのせいで、警戒されがちなんだけど、尚美は違ったのさ」


 嵐舞は豪快に笑いながら言った。確かに第一印象はすごいが、こうして話すと気さくで親しみやすい。


「お姉ちゃんは日本語を漫画で覚えたんだ。覚えたての頃読んでたのが、番長が活躍する漫画なんだよね」

「おうよ! 【押忍!異世界番長】はオレのバイブルさ!」


 それでオレ口調か。納得しかない。


「私もその漫画が好きだったから意気投合しちゃって」

「だよな! あの頂上決戦シーン、マジで熱かったもんな!」


 嵐舞と愛川の話はどんどん盛り上がっていた。俺としては、愛川がああいう作品を好んでたのも意外だったが――実は、俺も好きな漫画だったりする――

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