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親友に裏切られ婚約者をとられ仕事も住む家も失った俺、自暴自棄になり放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました  作者: 空地 大乃
第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編

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第162話 見た目じゃわからない

 サウナ室の中は木の香りと熱気が立ち込め、鼻から息を吸うだけで喉がじりっと焼けるような暑さがあった。


 隣に座る人物――最初は女性だと勘違いした相手が、タオルで汗を拭いながら軽く笑った。


「ごめんね、驚かせちゃって。僕、よく間違われるんだ」

「い、いや。こっちこそすまない。ここ男湯だし……男性なのは当然だよな」


 そう答えつつも、その整った顔立ちに、少し緊張している自分がいた。


「うん、男だよ。グラヴィス(・・・・・)流麗(るれい)って言います。こっちはサラマンダーのサラちゃん」


 流麗が自己紹介してくれた。グラヴィスは家名かな。そう考えると瞳も青く西洋的な面立ちをしている。

 

 傍らにいたサラマンダーに軽く手を添える。サウナの熱が心地よいのか、サラマンダーは木の床にぺたりと腹をつけてぐてぇっとしていた。


「俺は風間 晴彦。この子は――」

「ワン!」

「ピキィ♪」

「モグ~」

「ゴブゥ」


 紹介されるよりも先に元気よく鳴き声をあげるモンスターたち。そんな彼らを見た流麗は目を輝かせた。


「わぁ……すごく可愛い……! それに、すごく仲良さそうだね」

「ありがとな。でも君もすごいね。サラマンダーって初めて見たけど、精霊としても知られてるよな」


 神話では火の精霊として知られているサラマンダー。それを現実に見られるとは、ダンジョンが出来る前なら考えられなかっただろうな。


「うん。僕のジョブは【精霊使い】なの。サラちゃんは火の精霊が具現化したモンスターなんだ」


 なるほど、精霊使いか。モンスターを使役するジョブとしてはモンスター使いが有名だけど、他にもいろいろあるんだな。


「えっと、貴方のジョブはモンスター使い?」

「いや、実は俺のジョブは農民でね」

「へぇ、農民なんだね。ということは餌付けタイプ?」


 おぉ。どうやら流麗はテイムにも詳しいみたいだ。詳しくないと農民なのに何故モンスター?って話になるからな。


 最も俺の場合、そもそもジョブストーンを見つける前には仲良くなってたんだけど。


「そうなんだ。皆もよく懐いてくれてね。でもここって、やっぱりモンスターをテイムしている会員も多いのかな。さっきも――見かけてね」


 正直面倒な相手ではあったが、あの獅王もモンスター使い系のジョブだろう。


「そうかもしれないね。一緒に来てる僕のお姉ちゃんもテイムしてるからね」

「へぇ。お姉ちゃんと来てるんだ。ジョブは同じ?」

「ううん。お姉ちゃんのジョブは【獣戦者】なんだ。珍しいジョブらしいんだよね」


 獣戦者――確かに聞いたことがない。獣で戦う者って意味なんだろうか? なんというか……すごそうだ。


「僕とお姉ちゃんはモンスターバトルにも出てるんだ。だからここもよく利用してるんだよ~」


 モンスターバトル――その言葉に興味を持った。獅王も出てると言っていた。


「モンスターバトルは名前は知ってるんだけど、実はよく知らないんだ。良かったら――」

「ちょ! 大丈夫!?」


 モンスターバトルについて詳しく聞こうとしたその時、俺の頭がグラッと落ち、流麗が慌てた声を上げた。


 しまった、うっかりしてのぼせてしまったようだ。話に夢中になりすぎた。


「ちょ、ごめん。一度出るよ」

「クゥ~ン」

「ピキィ~」

「モグゥ~」

「ゴブゥ~」


 細い声を四匹が上げる。心配そうに俺と一緒に出てきてくれた。


「心配だし、僕もそろそろ出るよ。サラちゃん、起きて~」

「クワッ?」


 流麗に呼ばれてサラが頭を上げ、そのまま流麗の肩に飛び乗った。


 サウナを出た後、流麗がのぼせ対策を教えてくれた。それに従って温めのシャワーに当たると、意識がハッキリしてきた。


「助かったよ、ありがとう」

「ううん。でも本当に大丈夫?」

「クワッ?」


 流麗とサラが心配そうに見てきた。今はもう意識もハッキリしていて問題ない。早い段階で気づけたのが幸いだった。


「ゴメンな、皆」

「ワン!」

「モグゥ~♪」

「ピキィ♪」

「ゴブゥ」


 モコ、モグ、ラム、ゴブが俺にしがみついてきた。心配してくれてるのが伝わってきて、なんだか胸が温かくなる。


 その後はマーメイド風呂――つまり水風呂でクールダウンすることにした。冷たい水に肩まで浸かると、火照っていた身体がじわじわと落ち着いていく。


 これが心地よくて、頭もかなりスッキリしてきた。皆で軽くシャワーを浴び直して、俺たちはゆっくりと風呂を後にした――

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