第162話 見た目じゃわからない
サウナ室の中は木の香りと熱気が立ち込め、鼻から息を吸うだけで喉がじりっと焼けるような暑さがあった。
隣に座る人物――最初は女性だと勘違いした相手が、タオルで汗を拭いながら軽く笑った。
「ごめんね、驚かせちゃって。僕、よく間違われるんだ」
「い、いや。こっちこそすまない。ここ男湯だし……男性なのは当然だよな」
そう答えつつも、その整った顔立ちに、少し緊張している自分がいた。
「うん、男だよ。グラヴィス・流麗って言います。こっちはサラマンダーのサラちゃん」
流麗が自己紹介してくれた。グラヴィスは家名かな。そう考えると瞳も青く西洋的な面立ちをしている。
傍らにいたサラマンダーに軽く手を添える。サウナの熱が心地よいのか、サラマンダーは木の床にぺたりと腹をつけてぐてぇっとしていた。
「俺は風間 晴彦。この子は――」
「ワン!」
「ピキィ♪」
「モグ~」
「ゴブゥ」
紹介されるよりも先に元気よく鳴き声をあげるモンスターたち。そんな彼らを見た流麗は目を輝かせた。
「わぁ……すごく可愛い……! それに、すごく仲良さそうだね」
「ありがとな。でも君もすごいね。サラマンダーって初めて見たけど、精霊としても知られてるよな」
神話では火の精霊として知られているサラマンダー。それを現実に見られるとは、ダンジョンが出来る前なら考えられなかっただろうな。
「うん。僕のジョブは【精霊使い】なの。サラちゃんは火の精霊が具現化したモンスターなんだ」
なるほど、精霊使いか。モンスターを使役するジョブとしてはモンスター使いが有名だけど、他にもいろいろあるんだな。
「えっと、貴方のジョブはモンスター使い?」
「いや、実は俺のジョブは農民でね」
「へぇ、農民なんだね。ということは餌付けタイプ?」
おぉ。どうやら流麗はテイムにも詳しいみたいだ。詳しくないと農民なのに何故モンスター?って話になるからな。
最も俺の場合、そもそもジョブストーンを見つける前には仲良くなってたんだけど。
「そうなんだ。皆もよく懐いてくれてね。でもここって、やっぱりモンスターをテイムしている会員も多いのかな。さっきも――見かけてね」
正直面倒な相手ではあったが、あの獅王もモンスター使い系のジョブだろう。
「そうかもしれないね。一緒に来てる僕のお姉ちゃんもテイムしてるからね」
「へぇ。お姉ちゃんと来てるんだ。ジョブは同じ?」
「ううん。お姉ちゃんのジョブは【獣戦者】なんだ。珍しいジョブらしいんだよね」
獣戦者――確かに聞いたことがない。獣で戦う者って意味なんだろうか? なんというか……すごそうだ。
「僕とお姉ちゃんはモンスターバトルにも出てるんだ。だからここもよく利用してるんだよ~」
モンスターバトル――その言葉に興味を持った。獅王も出てると言っていた。
「モンスターバトルは名前は知ってるんだけど、実はよく知らないんだ。良かったら――」
「ちょ! 大丈夫!?」
モンスターバトルについて詳しく聞こうとしたその時、俺の頭がグラッと落ち、流麗が慌てた声を上げた。
しまった、うっかりしてのぼせてしまったようだ。話に夢中になりすぎた。
「ちょ、ごめん。一度出るよ」
「クゥ~ン」
「ピキィ~」
「モグゥ~」
「ゴブゥ~」
細い声を四匹が上げる。心配そうに俺と一緒に出てきてくれた。
「心配だし、僕もそろそろ出るよ。サラちゃん、起きて~」
「クワッ?」
流麗に呼ばれてサラが頭を上げ、そのまま流麗の肩に飛び乗った。
サウナを出た後、流麗がのぼせ対策を教えてくれた。それに従って温めのシャワーに当たると、意識がハッキリしてきた。
「助かったよ、ありがとう」
「ううん。でも本当に大丈夫?」
「クワッ?」
流麗とサラが心配そうに見てきた。今はもう意識もハッキリしていて問題ない。早い段階で気づけたのが幸いだった。
「ゴメンな、皆」
「ワン!」
「モグゥ~♪」
「ピキィ♪」
「ゴブゥ」
モコ、モグ、ラム、ゴブが俺にしがみついてきた。心配してくれてるのが伝わってきて、なんだか胸が温かくなる。
その後はマーメイド風呂――つまり水風呂でクールダウンすることにした。冷たい水に肩まで浸かると、火照っていた身体がじわじわと落ち着いていく。
これが心地よくて、頭もかなりスッキリしてきた。皆で軽くシャワーを浴び直して、俺たちはゆっくりと風呂を後にした――




