第156話 プールで楽しんだ
水着をレンタルして、俺たちはプール用の更衣室へと向かった。鍵付きのロッカーに衣類を預けるスタイルで、貴重品専用のロッカーも別に用意されている。セキュリティ面も安心できそうだ。
ちなみにモンスター用の水着もちゃんと用意されていた。モンスターの種類によっては水着の着用が義務づけられていて、ゴブリンがその対象らしい。
ゴブ以外の皆には義務はなかったのだけど、モコ、モグ、マールが興味津々で水着を眺めていたので、それぞれに合うサイズを借りてやることにした。さすがにラムにはサイズが合わなかったが、それはそれで可愛いから問題なしだ。
その際にスタッフから性別を確認されて、俺はステータス画面で慌てて確認する羽目に。モコとモグはオスで、マールはメス。つまり女の子だったのか。
というわけで、マールは愛川と一緒に女性用更衣室へ。マールくらいなら一緒でも構わないらしいが、「女の子ならこっちだよ!」と愛川が連れて行ってくれた。
モコ、モグ、ゴブ、そして俺は、揃ってスイムパンツ姿。モグは浮き輪も借りて大喜びだ。それを両手で掲げながらクルクルと回っていて、見ていて頬が緩む。
「さて、行くか」
スイムキャップを被り、俺たちはいよいよプールエリアへと足を踏み入れた。大きな天井とガラス張りの壁面から自然光が降り注ぎ、思っていたよりも明るく開放的だ。
少ししてから、マールと愛川も合流してきた。
「マールは女の子だったんだよな……」
「マァ♪」
フリル付きのチューブトップタイプの水着を着たマールが、クルクルと回りながら軽やかに踊っている。花が咲いたような明るいデザインが、マールの雰囲気によく似合っていた。
「マールちゃん、可愛いよね」
「あ、ああ。そうだな」
マールに釣られて自然と視線が動いた先には――愛川の姿があった。
競泳用のスポーティーな水着に身を包んだ彼女は、動きやすさ重視のシンプルなデザインにもかかわらず、その体のラインがくっきりと浮き出ていた。
――て、い、いかん……見ちゃダメだ、見るな俺!
だが視線は勝手に吸い寄せられていく。慌てて逸らした瞬間、愛川と目が合ってしまった。
「あ、あまり見ないでくださいね。その……タマちゃんみたいには大きくないので」
「あ、いや! ごめん! いや、そんなこと気にしなくていいぞ。愛川には愛川の良さがあるんだし!」
変に取り繕ったが、顔が熱い。穴があったら入りたい。愛川は少し照れくさそうに笑っていた。
「せ、折角だから泳ごうか」
「そ、そうですね」
「ワン!」
「ピキィ!」
「モグゥ!」
「マァ!」
「ゴブ~!」
モンスターたちもやる気満々だ。まずはみんなで準備体操をして、体をしっかりほぐしてから水の中へ――。
プールに入ると、モンスターたちは大はしゃぎだった。
モコは水面をスイスイと犬かきで泳ぎながら、水しぶきを上げてはしゃぎまわり、ラムは水に浮かびながら時折跳ねて楽しんでいた。モグは浮き輪を体に通してプカプカと漂いながら、たまに潜ろうとしてバシャバシャと水を叩いていた。
「モグゥ~!」
その様子に、近くで遊んでいた子どもたちが「モグちゃん可愛い~!」と笑いながら近づいてきて、スタッフが優しく見守る中、一緒に遊ぶ輪ができていた。
ゴブはというと、プールの端で真剣な表情でバタ足の練習中。インストラクターに教えてもらったことを忠実に再現してるあたり、さすがゴブ。
マールは水面を優雅に滑るように泳ぎ、途中でクルッと回ってポーズを決めていた。その姿に周囲の親子連れや若いカップルが「かわいい……」と声を上げていた。
愛川も平泳ぎでゆったりと泳いでいて、俺もその横で軽く泳ぎながら時折目が合ったりして照れくさくなる。
その時、ふと脳裏に秋月の顔が。あれ? なぜか罪悪感が――いやいやただプールで泳いでいるだけだろう! やましい事なんてないさ!
と、心の中で弁解しつつ、モンスターたちの姿に目を向ける。愛らしい姿に心が浄化されたような気持ちになった。
こうして、俺たちはジムのプールで思い思いに楽しんだのだった――。




