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親友に裏切られ婚約者をとられ仕事も住む家も失った俺、自暴自棄になり放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました  作者: 空地 大乃
第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編

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第152話 欲望に忠実に

 駅前で愛川とばったり遭遇し、そのまま昼食を一緒に取る流れとなった。彼女が案内してくれたのは、意外にも庶民的なラーメン屋だった。


「ここがオススメの店なんです!」

「へぇ、ラーメンが好きだったのか?」


 俺の中で、愛川ってもっとオシャレなカフェに詳しいイメージだったから、ちょっとだけ意外だった。


「はい! ラーメンは大好物です!」


 照れもなく、にこっと笑うその表情に、俺も思わず笑ってしまった。なんというか、親近感が湧くというか、こういうギャップっていいな。


「それに、ここはモンスターも入店OKなんですよ」

「あ、本当だ。『モンスター歓迎』って貼ってあるな」

「ワンワン♪」

「ピキィ♪」

「モグゥ~♪」

「マァ~♪」

「ゴブゥ~♪」


 モンスターたちも上機嫌だ。最近はモンスター対応の店舗が増えてきたとはいえ、まだまだ貴重だからありがたい。


「いらっしゃ~い!」


 店に入ると、元気な声が店内に響く。厨房にいた店主らしき男性がこちらに気づき、にっこりと笑いかけてきた。


「おや、これはこれは。可愛らしいモンスターが勢揃いだね。ちょうど一卓空いてるから、そちらどうぞ」


「ありがとうございます」


 四人掛けのテーブルに案内され、女性スタッフがさっと子ども用の椅子を追加してくれた。おかげで皆も無理なく座れる。こういう心配り、すごく嬉しい。


「ここ、ラーメンも美味しいけど、餃子が絶品なんですよ」

「お、期待できそうだな。皆はラーメンと餃子、いけそうか?」


「ワンワン♪」

「マァ♪」

「ゴブッ!」

「ピキィ!」

「モグゥ~♪」


 声を揃えて元気に応えるモンスターたち。空腹も手伝って、もうすでに目がキラキラしている。


 それぞれメニューを開き、真剣な眼差しでページを追っていく。器のサイズも豊富で、小さい子でも食べやすそうだ。ありがたい配慮だな。


「サイズも選べるし、好きなの頼んでくれて大丈夫だぞ。ここは俺が出すから」

「そんな悪いですよ!」


 俺の言葉に愛川が遠慮を示した。とは言え俺達の方が人数多いし、纏めて支払った方が店も助かるだろう。


 なので、ここは俺が出してお返しは次の機会にでもという話で落ち着いた。


「いろいろと……ありがとうございます」


 そうお礼を言ってきた愛川の頬が少し赤い気がするが、気のせいか?


 俺たちは大皿の餃子と、それぞれが選んだラーメンを注文した。待っている間はのんびりと談笑。ふと、店内のテレビに視線が向いた。


『――人はもっと欲望に忠実にあるべきです。さぁ、私の占いであなたの欲望を解放しましょう』


 フェイスベールを付けた女性占い師が、妖しげな微笑を浮かべて画面越しに語りかけていた。服装も独特で、見る者に印象を強く残すタイプだ。


「……なんだ、この人」


 俺が呟くと、愛川が頷いた。


「最近よく見るんですよ。この人、セイラって名前で活動してて、若い人たちの間ではちょっとした話題になってて」

「欲望に忠実、ねぇ。……今ってそういうのが流行りなんだな。って、あ、俺の言い方おっさんぽかったか?」


 冗談めかして言うと、愛川が慌てたように言葉を返してきた。


「そ、そんなことないですよ! ハルさんは……その、若いですし、その、かっ、かっこ……」

「へいお待ち! スライム餃子、大盛りオークラーメン、塩ゴブリン麺、それにちびサイズのラーメン五つ!」


 タイミング良く(?)店員が料理を運んできたおかげで、愛川の声はそれ以上聞こえなかった。……いや、何か言いかけてたよな?


「今、何か言った?」

「も、もう! なんでもないです!」


 そっぽを向いてぷいっと頬を膨らませる愛川。何が“なんでもない”のかはわからないけど、何か機嫌を損ねたような……いや、気のせいか?


 運ばれてきた料理はどれも見た目からしてうまそうだった。スープの香りが食欲をそそり、餃子の焼き色はパリッと黄金色。さすが愛川のおすすめの店だな。


『――誕生日が◯月のあなたは“食欲”がキーワード。我慢せずお腹いっぱい食べることで運気が上昇するでしょう』


 テレビからそんな声が流れてきた。あの占い師、狙ったようなこと言ってくれるな。


 俺もモンスターたちも夢中で食べて、あっという間に皿は空っぽになった。


「ハルさん、良ければなんですけど……皆も一緒に、この後付き合ってもらえませんか?」


 食後、愛川が声をかけてきた。顔がちょっと緊張してるような、それでいて期待を込めたような……そんな表情だ。


「別に予定はないけど。どこか行きたい場所でも?」

「実は……スポーツクラブの体験会があるんです。入会をちょっと迷ってて、どうかなって」


 なるほど。秋月の道場とは別に、運動を続ける場所を探しているのか。あの稽古の後なら、その気持ちはよく分かる。


「俺はいいけど、皆も大丈夫そうか?」

「ワンッ!」

「モグゥ!」

「マァ~♪」

「ピキィ♪」

「ゴブゥ!」


 モンスターたちも大賛成らしい。楽しみにしているようで、モコも尻尾や耳がぴょこぴょこ動いている。


「それじゃあ、皆で行ってみるか」


「やったぁ! じゃあ案内しますね!」


 こうして俺たちは、思わぬ流れでスポーツクラブの体験会に行くことになったのだった――。

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