第136話 中山の問い
「あん? お前こそ風間のなんなんだよ」
「仲間だよ。……で、風間、こいつらは?」
阿久津が偉そうに問いかけると、熊谷が迷いなく答えた。仲間と言ってくれるのは素直に嬉しい。いつの間にか、こんなふうに俺を支えてくれる連中がいるんだよな。
「会社勤めの時の同僚だ。正直、いい思い出は全くない」
「――なるほどな。どうりで情けない筋肉をしてると思ったぞ」
「は? ザケんな! 誰が情けない筋肉……」
そこまで言いかけた阿久津が、ふいに口を閉じた。中山が、これでもかと筋肉を誇示するポージングを決めていたからだ。あの見事な逞しさを目の当たりにしては、さすがの阿久津も何も言えないらしい。
「ちょっと、何黙ってるのよ!」
「う、うるせぇな……」
座間に責められ、阿久津は戸惑ったように視線をそらす。その間、秋月が愛川に何やら耳打ちしているのが見えた。すると愛川の顔つきがガラッと変わり、厳しい目で阿久津を睨んでいる。
「最低! 風間さんを裏切っておいて、よく平気な顔で近づいてこれたわね!」
「ワンワン!」
「ゴブゥ!」
「ピキィ!」
「マァ!」
「モグゥ!」
怒りをあらわにする愛川。そしてモコたちも一緒になって声を上げた。俺のためにそこまで感情をぶつけてくれるのは、正直ありがたいし、心にじわっと沁みる。
「――へぇ、君も可愛いじゃん」
「は?」
しかし阿久津の神経の図太さは相変わらずだ。今度は愛川にまで声をかけ、にやけた笑みを浮かべている。
「全くこんなに可愛い子が、なんでこんな奴と一緒なんだか。知ってるか? そいつ、ミスをして会社から逃げた負け犬なんだぜ。そんな奴が冒険者やったって高が知れてる。俺らのほうが将来性あるし、こっちに来いよ」
阿久津が偉そうに言った。ミスとはどの口が言うんだか――。
「阿久津! あんた、いい加減にしなさいよ!」
「まあまあ落ち着けって。仲間は多いほうがいいだろ? 翔也さんだって納得してくれるさ」
座間は眉をつり上げているが、阿久津は取り合う様子もない。翔也? 初耳だが、新しくできた仲間か何かなのか……。
「風間を“負け犬”って言ったな?」
すると、中山が腕を組んで阿久津をじっと見つめる。真顔で問いかける姿に阿久津は一瞬怯んだようだが。
「そ、そうさ、負け犬だ! お前らも、あいつに付き合うなら人生ムダにするぜ?」
「なるほどな。……じゃあ聞くが、お前は銃を向けられた人を見かけたらどうする?」
思わぬ切り口の質問に、阿久津が「は?」と目を丸くしている。
「意味わかんねぇよ! んなもん放っとくに決まってんだろ!」
阿久津が吐き捨てるように言うのを聞き、中山は鼻を鳴らした。
「それが、お前の答えか。けどな、風間は違う。危険を顧みず相手をかばう、勇気ある男だ。自分がケガしようが、人を助けるためなら躊躇なく身体を張る。そういう熱い筋肉を持ったヤツなんだよ」
中山の言葉がずしんと胸に響く。まさか、こんな場所で俺をこんなに真っすぐ褒めてくれるなんて思ってなかった。こそばゆいが、否定できない事実でもある。俺は無意識に拳を握りしめていた。そしたら――
「お前みたいに口先だけで偉そうに言ってる男には、風間を馬鹿にする資格なんてない。まだそのクチ閉じねぇなら、俺がいくらでも相手してやるぜ」
中山がぐっと阿久津の肩をつかむと、阿久津は「ぐっ……」と苦悶の表情を浮かべた。
「阿久津ぅ……何してんだ、おまえ?」
「あ、翔也さん!」
急に声がかかり、座間がそちらを向いて大声を出した。見ると、細目をした男とその取り巻きらしき二人がこっちへ近づいてくる。どうやらこれが“翔也”ってやつのようだ。
しかし、こいつらが、阿久津が言ってた連中か……。また面倒なことになりそうだな。
そう思いながらも、中山の言葉で湧き上がった何か熱い感情が俺の胸に残っていた。親友だと思ってた奴に裏切られた俺だけど、今はこうして真正面から認めてくれる仲間がいる。それが、めちゃくちゃ心強い――。




