39,猿山
前回の投稿は“ 06/29 18:00 ”です。
熱狂渦巻く、猿の祭典で敵の本当のボスである踊闘大猿と戦うことになった私は、現在、猿たちと行動を共にしていた。
なぜそんなことになっているのかと言うと、私が負けたからだ。それも、完膚なきまでに。
白い歯を見せて不敵に笑う踊闘大猿は強かった。
どれほどの強さかというと、踊闘大猿が私に止めを刺さなかったぐらいと言えば、想像つくだろうか。
元から、神託の内容が“討伐”ではなく、“勝利”だったことが影響しているのかはわからないが、顔を地面にくっつけるように押し倒され、身動きを取れなくされてしまっては、負けを認めるしかなかった。
「ロックウォール」を使用すれば、その状況を打破することぐらいはできただろうが、結局勝つことはできなかったように思える。それぐらい踊闘大猿は強かった。
神託が関係することや、身に纏った強者のオーラから、当時戦ったハイオークと同程度かと考えていたが、ハイオークと違い、特殊な攻撃を繰り出すなど、ただ殴ることに収まらない戦闘手段を取ってきた。
しかも、私の考えが間違っていなければ、踊闘大猿は私と同じように、本来は群れで戦う魔物のように思える。
踊闘大猿は私との戦闘中、現れた時と同じように、胸を叩いたり、ダンスを踊ったりと奇妙な行動をとっていたのだが、それらは自身ステータスにバフをかける特殊なスキルの様だった。しかも、そのスキルを使用した際、周りの猿たちがさらに歓声を上げていたことから、その効果は、猿たちにまで及んでいたと考えられる。ただ、ダンスに熱狂していたなら違うけど・・・
猿たちを引き付けるカリスマ性に、バフスキル。
私の名前にあるように“リーダー”にふさわしい能力であるため、踊闘大猿もまた、本来はそのような生態なのではと考えた。
そして、そのような個体にタイマンで負けたのだ。
それはつまり、勝てる見込みがなかったということ。
踊闘大猿がどういう性格なのかはわからないが、もし、私がタイマンで有利を取れたところで、何振りかまわなければ、あの大群が、強化された状態で私に襲い掛かるだろう。中ボスであった「フォレスト・エイプ」にも完勝できなかったんだ、大勢で来られたら、タイマン以上になす術がない。
そんなこんなで、完全にわからせられた私は、現在、猿たちに言われるがまま、ヤシの実のような硬い木の実を砕く作業をしていた。
敗北したのち、気に入られたのか、従えられたのかはわからないが、猿たちに連れられて、山林奥地の彼らの住処で雑用やらなんやらを手伝わされていた。
どちらかはわからないが、一応、歓迎はされているようで、実を砕いている今も、小さい猿が私の頭の上で砕いた木の実を咀嚼している。
結局、何のために連れてこられたのか、わからずじまいなので、とりあえず雑用をこなしているが、これも何かのイベントなのだろうか。敗北時に猿集団の見習になる・・・みたいな感じの?
さすがに、このままずっと拘束ということは無いだろうし、もう少し様子を見てみようと思うが、正直この先何が起こるか見当もつかない。
神託も失敗判定なのかグレーに染まり、続行できなくなってしまった。勝てるとは思わないけど、リベンジは当分無理かとあきらめて作業に戻る。
ただただ木の実を割っているだけでは、暇が過ぎるので、私は手を止めることなく周囲を見渡す。
森の中で、猿たちはお互いを追いかけまわしたり、寝転んだりと自由に暮らしているが、住処の様子は、私が以前見たコボルトたちの物とは大きく違っていた。
猿たちの住処は、コボルトの集落のように、生活様式の整っているものではなく、地面に草葉が敷かれた程度と、文明を感じれるものでは無かった。
当然、鍛冶屋やバザールといった施設もなく、唯一服飾屋らしき猿が、草や葉っぱを使って器用に被り物を作っているだけであり、特段、何ができるというわけではなさそうだ。
ただ、この服飾屋らしき猿が作る葉っぱの冠には驚ろかされた。
最初にこの猿に近づいた時、面白がって、私に冠を乗せてくれたのだが、なんと装備判定がされ、ステータスにも変動があったのだ。
強化された内容は“MP+1”。
正直、小さすぎる変化だし、私が受けられる恩恵はゼロに等しかったが、それでもこの変化には度肝抜かれた。
なんせ、私は今まで、何の装備も身に着けることが出来なかったのだ。
それが、葉っぱの冠を頭に乗せただけで、ステータスが上昇するとは・・・。服飾屋の猿が特殊なのか、装備が特殊なのかはわからないが、もう少し調べてみる必要がありそうだなと思った。
なお、服飾屋に冠を強請ったところ、普通に断られた。残念。
ということで、雑用を今もなお続けている理由には、この冠を譲ってもらえないかという期待も少し含まれている。
しっかりと検証することが出来れば、私だけでなく、様々な魔物プレイヤーが恩恵を受けることが出来るはずだ。
生憎、一度装着出来た際にSSを取っていなかったので、掲示板等で大々的に広めることはできないが、手に入れることができた暁には、しっかりと共有しよう。
そんな下心を持ちながら、木の実を砕き続けていると、私の元にフォレスト・エイプが近づいてきた。
どうやら、もう木の実は砕かなくてよいらしい。
ただ代わりに、森の中へ魔物を狩りに行って欲しいらしく、そのことを頼まれた瞬間、直感的に、この住処から出て行ってもいいことを理解した。
イベントの切れ目ということだろうか。
狩りに行けば、そのまま猿のイベントが進んで、山林から出ていくとイベントが終わる?
私に背を向けて、自身も狩りへと出かけて行ったフォレスト・エイプを見送りながら、私はこの住処に残るかを考える。
ひとまず、山林を散策してみてからで、遅くない気がする。
まだ、猿たち以外の魔物と出会っていないし、それを見てから判断しても・・・最悪、狩るだけ狩って山を越えてもいい。
人間陣営の情報も手に入れたいが、そこまで早急に欲しいわけでもない。とりあえずはこのイベントに身を任せてみよう。
自分が人間陣営の陣地とそこまで近くないであろうこともあって、私はイベントを続行することに決める。
あの冠を譲ってもらえる可能性もあるし、レベルを上げて新スキルも手に入れたい。そのことを考えれば、森で狩りをする選択肢は悪くないはずだ。
踊闘大猿の姿を見ていないことに違和感を覚えるが、私は頭に乗っていた猿を降ろし、森に向かう準備を始める。
どれぐらい狩ってこいとかは言われなかったから、とりあえずLv20までは狩りを続けようかな。きりがいいレベルだし、新スキルが手に入るかもしれない。
あとは、食べられそうなものがあったら、拾ってきた方がいいのか?それとも、服飾屋に喜ばれそうなものの方が・・・
手に入るか未知数な新スキルよりも、目の前にぶら下げられた人参の方に惹かれた私は、何となく、服飾屋に一礼してから山林の中へ向かった。
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